第65話　又左衛門の戦　作：ター坊

~有馬サイド~

「すまんのぅ。梶木殿、権現坂殿。老いぼれなんぞの為に」
「いいえ。お気になさらず」
「そうぜよ。ちょうど暇だったしのう」
ワシは昨日、鬼柴田と出くわした公園という場所に戻ってきた。梶木殿と権現坂殿は厚意でついてきてくれたのじゃが…。
「有馬殿。なくした物を見つかると良いですな」
「で、なんじゃ？なくしモンちゅうのは？」
「あぁ、えっとじゃな…」
あの騒動の中であの大事な物を落としてしまった。幸い、織田の兵達も鬼柴田の敗北で動揺し、気付いていないようだったが…。かと言って梶木殿達に見つかるのも厄介なことになるかも知れん。
「…？」
「そうじゃな…。言って分かるかのぅ。印籠と言ってな。金の葵が彫られたもので」
「あー！時代劇のアレぜよか！」
「それを探せば良いのですな」
「う、うむ。よ、よろしく頼みましたぞ」
なんと！納得しよったか。こうなればワシが先に見つけて早々に帰るしかあるまい。


おおよそ四半時(=15分)後


「おっ！あったぜよ！」
「ほっ…ほう。まことか」
「よもや噴水に落ちていようとはな」
先に見つけられてしもうたか。印籠は時おり水柱が上がる不思議な池に沈んでおった。梶木殿がずぶ濡れになりながらも拾ってワシに見せてくれた。
「礼を言いますぞ梶木殿。権現坂殿もかたじけない」

「ヒョーヒョッヒョ！待ちな」
「ん？お前は羽蛾ぜよか？」
「あの時の卑怯なデュエリストか！」
なんじゃ？この小柄な青年は？
「おい、じいさん！その印籠を寄越してもらおうか？」
な、なんじゃと！？織田以外にこれの価値に気付いた者がおるのか！？
「なんじゃい！藪から棒に！これは有馬のじいさんのモンじゃ！」
「何故貴様らがこれを狙う！」
「さぁ知らないねぇ？教える義理もないがね！」
そう言うと羽蛾という青年は決闘籠手を構える。この青年も決闘者か…。
「ふん。この有馬又左衛門、小僧に負けるほど落ちぶれてはおらん！姫の為、お受け致そう！」
「デュエル！」

先攻:羽蛾

「俺のターン。俺は『代打バッター』を召喚し、カードを1枚伏せてターン終了」
「ワシの番、手札補充！ワシは『朧忍(おぼろしのび)ハヤテ』を召喚！さらにハヤテの召喚時の効果で、手札から『朧忍 ツムジ』を特殊召喚！合戦じゃあ！行けハヤテ！」


朧忍 ハヤテ ATK 1300 VS 代打バッター ATK 1000

「くっ！だが、『代打バッター』の効果で手札から『インセクト女王』を特殊召喚！来い女王様！これでバトルフェイズは中止せざる…」
「ワシの戦は終わっておらぬぞ？」
「ヒョ？」
「手札の『朧忍 ウキグモ』の効果発動。場のハヤテとツムジを除外して特殊召喚じゃ！」

「有馬のじいさん、やるぜよ！」
「うむ。バトルフェイズ中に最上級モンスターを呼び出すとは」

「さらにウキグモでその虫の化け物に攻撃じゃあ！」
「今攻撃と言ったな？」
「む！？」
「攻撃の言葉がスイッチとなるのさ！罠カード『寄生虫感染(パラサイト･パンデミック)』発動！これで攻撃モンスターを昆虫族として俺のしもべになるのさ！行け寄生虫ども！」
無数の寄生虫がゾロゾロと蠢き、ウキグモに襲い掛かる。
「ガッハッハ！小僧め！それで有馬を出し抜けると思うたか！影とは形がないのじゃ！ウキグモの効果発動！これでウキグモを山札の一番下に戻し、除外されている二体の朧忍を特殊召喚できる！」
ウキグモは影に沈んで寄生虫の大群を回避し、その影からハヤテとツムジが飛び出してくる。
「な、何ぃ！？」
「ワシのこの番での戦は終いじゃが、まだ続くぞ？ワシはハヤテとツムジで御緒羽阿麗！」

「なんと！有馬殿はエクシーズ使いであったか！」

「得苦師伊頭召喚！いでよ！『朧忍 アマカゼ』！」
「な、なんだと！？」
「アマカゼの効果発動！得苦師伊頭素材を一つ取り除くことでその虫の化け物を山札の一番上に戻し、七百の損傷を与える！」
アマカゼが印を結ぶと激しい雨を伴う突風が吹き、『インセクト女王』を吹き飛ばす。
「くッそー！」
「ワシは札を一枚伏せ、番を終いとしよう」

有馬又左衛門:LP 8000
インセクター羽蛾:LP 7000

「くそー！俺のターン、ドロー！」
「その瞬間、罠を発動！『忍法 影縛り』！これで今相手が引いた札の種類を言い当てる！当たった場合、それをデッキの一番上に戻させる！」

「羽蛾が引いたカードはバレバレじゃい！」

「ワシは式霊を宣言する！」
「ヒョーヒョッヒョ！何言ってるんだ？式霊なんて種類は」
しかし羽蛾の決闘籠手から妙な音がする。
「な、何？正しい処理をしろだと？式霊はモンスターとして扱えってことか！？くッそー！」
羽蛾は悔しそうに引いた札を戻した。
「なーんてね。貴様のモンスターを処理するなんて簡単なんだよ！俺は相手フィールド上の『朧忍 アマカゼ』を生け贄に、『寄生虫 ウィップワーム』を相手の場に特殊召喚する！」
「な、なんと！」
アマカゼが破壊され、気色悪い虫がワシの場に蠢く。
「さらにウィップワームはライフを1500支払うことでコントロールを奪えるのさ！俺はレベル6のウィップワームを生け贄に捧げ、『甲虫皇帝-ジャイアントカブトホーン』を特殊召喚！ダイレクトアタック！」

甲虫皇帝-ジャイアントカブトホーン ATK 3200　直接攻撃

「ぬおおぉ！」
「有馬殿！大丈夫か！？」
「じいさん！」
「権現坂殿、梶木殿…。心配御無用。この有馬又左衛門、かつては四天王に数えられた将。こんな戦、幾度となく経験し申した！」
「ふん。強がりもここまでだ。ジャイアントカブトホーンの効果でデッキから『共鳴虫』を加えてターン終了だ」

有馬又左衛門:LP 4800
インセクター羽蛾:LP 5500

「ワシの番、手札を補充！ワシは『朧忍 ヒサメ』を召喚。さらに魔法札『忍法 蜻蛉返』を発動！これにより墓場より『朧忍 ツムジ』の攻撃力を零にして特殊召喚！ツムジの効果で場の全ての朧忍の星を一つ上げる！」

「これでレベル5のモンスターが2体…！」
「エクシーズが来るぜよ」

「ワシは星五となったツムジとヒサメで御緒羽阿麗！得苦師伊頭召喚！『朧忍 サクラフブキ』！さらに得苦師伊頭素材となったヒサメの効果で相手の場の式霊の攻撃力を1000下げる！」
突如、冷たい氷雨が降り、ジャイアントカブトホーンの力を奪う。
「まだまだ！サクラフブキの得苦師伊頭素材を一つ取り除き、手札の『朧忍 ウキグモ』を見せることでデッキからウキグモを二体特殊召喚！」
サクラフブキが印を結ぶとウキグモの影が実体化し、二体並び立つ。
「まるで分身の術じゃ…」
「これでレベル8が2体…！」
「ワシは星八の『朧忍 ウキグモ』二体で御緒羽阿麗！出会え！幾千の戦を超えし忍よ！敵を討ち、舞い忍べ！得苦師伊頭召喚！黒星八『朧忍頭 コンゴウアシュラ』！」
禍々しい刺青を全身に施した忍が降り立つ。
「コンゴウシュラの効果発動！得苦師伊頭素材を全て使い、この番での戦闘において、全ての朧忍は二回攻撃できる！」
「アァ。アァアァァ…」
「まずはコンゴウアシュラで巨大カブトムシを攻撃！」

朧忍頭 コンゴウアシュラ ATK 3000 VS 甲虫皇帝-ジャイアントカブトホーン ATK 2200

「これでトドメじゃ！」

朧忍頭 コンゴウアシュラ ATK 3000 +朧忍 サクラフブキ ATK 2500×2　直接攻撃

「ヒョエエェェ！！」

ﾁﾘｰﾝ


「ヒーーン！また負けたぁぁ！」
「な、なんじゃあの青年は？」
「有馬のじいさん、気にするな。アイツはあぁいう奴ぜよ」
「くそー！引き上げだ！」
羽蛾という青年は泣きながら敗走する。
「それにしても何故あやつが有馬殿の印籠を…ん？」
「権現坂。どうした？」
「あの光ってるものは？」
権現坂殿が指差す方を見ると確かに黄金色に輝く物が落ちている。
「なんじゃ？妙な形の飾りじゃのう」
「それは確か…小鳥やゴーシュは皇の鍵と呼んでいたものだ」
「皇の鍵？特別そうな名前ですな…あ痛たた…」
「有馬殿！如何した！？」
「むぅ…。式霊決闘は術者の体にそこそこ負担を掛けるからのぉ。少々疲れただけで心配御無用」
「そ、そうか？」
「では戻ろう。有馬殿の探し物も見つけたし、ユイ達にもさっきのことを報告せねばなるまい」



帰り道の途中
「ところで有馬殿」
「何でしょうか、権現坂殿」
「結局、その印籠は一体…」
やはり訊かれるか…。しかし姫の身を考えれば…。
「うむ。実は鍵になっておるのじゃ」
「鍵ぃ？」
「左様。徳川の隠し財宝の在処の鍵となっておりましてな。徳川が滅びし時、その再興をするときの資金にせよと、先祖代々受け継がれた鍵なのです」
「なんと！それは確かに重要なものだな…」





こうしてワシ達は皆の元に帰ってきた。
「姫、ただいま戻り…ってなんですかその格好は！？」
「じいや。どうでしょうか？この国の召し物です」


「小鳥。良いものを見つけてきたぞ」
「権現坂さんなんです…これは皇の鍵！？」
「遊馬の皇の鍵じゃねぇか！これをどこで？」
「実は有馬殿の落とし物を探してる途中、インセクター羽蛾と出くわしてな。有馬殿が倒した所、あやつが落として行ったのだ」
「そうだったんだ…。後で有馬おじいさんにお礼言わなきゃ」


「ところでじいや…」
「何でしょうか、姫？」
「もう私の事を皆さまに話しても…」
「それだけはなりませぬ。もし真相を知ればあの者共と言えど…」
「……それでも辛いのです。あんなに優しい方達を欺き続けるのは…」






~羽蛾サイド~

ヒーーン！チクショウ、チクショウ、畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生！！あんなじいさんに負けるなんて！…ん？ヒョ？……無い？

ｶﾞｻｺﾞｿ,ｶﾞｻｺﾞｿ

「そ、そんなああぁぁ！！」
しまった！どこかにアレを落とした！アレが無かったら俺の首は…
「ギョエエェェ！！」