第79話　赤い流れ星　作：ター坊

~？？？サイド~


「以上。これをアイン･シュレイナー最期の言葉とする。願わくばこの言葉、聖者の耳に届くことを祈る」
これで私は反逆者か…。しかし悪魔の実験に加担した者に相応しい末路やも知れん。被害者なのにさらに苦しんだあの娘の償いになれば、こんな老いぼれの命、安かろう。私は録画した映像をUSBメモリに移し、あの娘の元へ向かった。


鉄の扉を開けると、その娘はひきつった苦しい笑顔を浮かべながら、ベッドから起き上がって私を迎えてくれた。
「あ、アイン博…」ｺﾞﾎｯ,ｺﾞﾎｯ
「無理をするでない。ミウよ。寝たままでいい」
「いいえ。少し休めたので…」
この娘の健気さを見ると罪悪感に心が押し潰されそうだ。
「それで…アイン博士。今日はどんな用で」ｹﾎｯ,ｹﾎｯ
「今日は君に良い知らせがある。ここから解放しよう。ホレ」
「これは…。私のデッキとデュエルディスク……」ｹﾞﾎ
「今まですまなかった…。恨むなら好きなだけ恨んでくれ」
「いえ！私は…！」ｹﾞﾎ,ｺﾞﾎｯ,ｺﾞﾎｯ
「興奮するでない。私は君を守ることもできず、ここまで衰弱させてしまった…。医療班、いや、人間として失格だよ」
「アイン博士…」
「さて、あまり長々と話しはできん。移動するぞ」



私は彼女―ミウの顔の上に布を被せてベッドを押して行った。


やって来たのは転送室だ。これでこの娘を地獄から運び出せる。それに悪魔の実験も失敗するだろう。
「いいかい、ミウ。君のことは精神侵食に耐えきれず死亡し、廃棄処分したと奴には報告しておく」
「でも、そんなことしたらバレたときあの人に殺されちゃう…」
「良いんだ。私はもう充分生きた。君はまだ先が長い分、たくさん生きなさい。恐らく行き先は見たこともない世界だが、ここより100倍は安全じゃ」
「博士…。今までありがとうございました」ｺﾞﾎｯ,ｺﾞﾎｯ
「礼を言うな。君の人生を台無しにした組織の一人にな」
「いいえ。確かにここの人は怖かったけど、博士は優しくて…」ｹﾞﾎ
「それが私の仕事じゃよ。さぁ、これを飲みなさい。起きた頃には新しい世界に着いてるだろう」
私はミウに薬を飲ませ、急いで転送カプセルの中に入れさせる。
「データ入力開始」

ｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀ…


転送先YGGXW-A-1-11　転送開始まであと60秒

アナウンスが流れ始めた時じゃった。

ﾊﾟｷｭｰﾝ,

「はぅ！」
「アイン博士。廃棄処分に転送カプセルを使うのは経費の無駄だ」
「くっ！勘づかれたか？」
「まぁね。さぁ。言え。私だけの物のはずだったカオスジェネレーションシステムの最終認証バイオコードを誰のものに書き換えた？」
「フンッ。言えんな」

ﾊﾟｷｭｰﾝ,ﾊﾟｷｭｰﾝ

「ぬぉ！！」
私は両足を撃ち抜かれ思わず倒れこむ。
「私は気が短い方でね。君も安らかな死を望むだろ？」
「くっ！」
「そうか。その転送カプセルで送ろうとしている奴がそうか。ならば」
「させん！マスターDめ！」ｾﾞｪ、ｾﾞｪ…
「フンッ！老いぼれめ！」
私はかすっきれみたいな力を振り絞り、奴に抵抗してしがみつく。
「ならば」

ﾊﾟｷｭｰﾝ、ﾊﾟｷｭｰﾝ、ﾊﾟｷｭｰﾝ

マスターDは銃を乱射して制御パネルを破壊しようとする。



転送カプセル転送処理中にエラーが発生しました。続行しますか？


無機質なアナウンスが促す。
「YESじゃあぁぁ！」
私はマスターDを突き飛ばし、制御パネルに向かう。

ﾊﾟｷｭｰﾝ

「ぬおあぁ！」
背後から撃たれたか。―意識が遠退く。――頼む、私の指よ。― ― ―続行のボタンに届いてく…れ……

ドサッ…

ﾋﾟｰ
続行を承認。エラー状態で転送します。

「くっ。押ささったか…。老いぼれめ。手間を掛けさせてくれる」








~ユイサイド~


「へぇ。そうなんだ。龍可の兄ちゃんがなぁ」
「うむ。それでワタシは希望を見出だしたのだ」
俺はアポリアからアキ達5Dsとの激闘の話を聞いていた。
「それにしてもユイよ。君はワタシを見て何とも思わないのか？」
「んー。こんな世界だからな。もうなんでもありって感じだからそこまで驚かないかな。それにアポリアは話しやすいし」
「そうか。…ん？」
「どうした？」
「何か空から落下物を感知した」
アポリアの視線を追うと青空の中に何やら赤く光る物体が尾を引きながら落ちる。
「何あれ？流れ星？」
「綺麗…」
しかしそれは空の彼方に消えることはなかった。
「む！」
「どうしたアポリア？」
「先程の物体……この座標…。あの建造物に落ちたようだ」
アポリアが指差した方向にはペガサス城があった。
「ペガサス城に…流れ星？」
「一体なんでしょうか？ユイ様。如何なさいましょう？」
「……ほっとく理由もないしな。それに近々ペガサス城も探索しようと思ってたし、調べに行こうか」