第142話　現れる刺客　作：ター坊

偽者ロボット達を蹴散らし、正面ゲートを潜り抜ける。

―本来ならば賑やかな遊園地だろう。だけど今は人の笑い声はおろかアトラクションの稼働音すら聞こえず、時が凍りついたかのような静寂が俺達を包み込む。正面には鉄製の柱が突き刺さりる大きな池が広がり、その上にはジェットコースターのレールが走っている。俺達はその池の前にある園内の地図ボードを見る。
「レストランとあのジェットコースターは少し奥に行かないとダメみたいだな…」
「けど結構道なりだよね」
池を中心に左回りで行けばやや奥の方に飲食コーナーとジェットコースター、右回りに行けばダイナソー･ツアーやお化け屋敷など、それぞれの目的地がある。
「ここは固まって動くよりもそれぞれの目的地に別れて調査すべきだ」
「そうだな」
黒咲の提案に全員が賛同する。


~左回りルート組~

遊戯･城之内･舞
遊矢･権現坂･柚子･黒咲
ユイ･遊月･美羽･柳生


俺･遊月･美羽･柳生さんは人数が少ない左回りのルートに行き、人数を均等にするためにメアリーは右回りのルートに行ってもらった。
「…それにしてもユイ様。今更ながらここはどういう場所なのでしょうか？」
「…書いて字の如く遊ぶための場所だな」
「じゃあユイ様もここに来たことが？」
「いや、遊園地って一人ぼっちで来るのもなんか寂しいし、一緒に来るほど仲が良い友達もいなかったから…」
「も、申し訳ありません…」
「いや、良いんだ。それも終わりそうだしな…」ｼﾞｰ
「へ？ユイ？」
「美羽ってばこの遊園地のページに付箋いっぱい貼ってたもんな」
「ふぇ！？それは…その… / / / 」
「この事件が片付いたら遊ぼうな」
「…うん / / / 」
「あまりふざけるな」
「別にいいじゃないか黒咲。ピリピリと張りつめて調査してたら気が滅入る。何事も程々が肝心だと思うけどな」
「フンッ。腑抜け過ぎだと」
ﾊﾞｼｰｰﾝ(ハリセン一閃！)
「ッ！」
「黒咲！あんたはもう少し協調性とか持ちなさいよ！」
「…っ！」
こんな感じに気楽に進んでいた。
しばらく歩いていると
「あれは！」
遊戯の目線を追うと俺達が探していた最初の場所、レストラン『メルヘン』に辿り着いた。薄いピンクのレンガ造りの建物とポップな字体の看板が目を引く。
「雑誌だとここだよね…」
「実際入ってみないと…。みんな行こう」
遊戯を先頭にゾロゾロと店に入る。

店内は明るい色調で小さい子供連れのファミリー向けといった趣だ。童話のキャラクターなのか像も何体か並べられている。奥にいくたびに段々畑のような形で席があり段の最下層には赤いカーテンで閉められたステージがある。
「遊戯。何か思い出せそうか？」
「うーん。なんとも言えないな。もう一人の僕も思い出そうとしてるけど…」
「そうか…」
「なんならよ。今度は俺達もいるし店中ひっくり返して探してみようぜ」
城之内がそう言った時だった。


ジー ー ー

映画が始まる前のような機械音が店内に響く。
「なんだ？」
「ユイ。あれ…」
美羽の指差す方を見るとステージの赤いカーテンがするすると上がる。
「確か人形劇をやってるって雑誌に書いてあったよな」
「誰かいるのかな？」
「ちょっと訊いてみようぜ」
「待ちな城之内！」
「なんだよ舞！」
「忘れたの？この世界ではアタシ達とマスターDの配下以外いないのよ」
「舞の言う通りだ。罠だ」
舞と黒咲の言うことが最もだ。
「ちょっと様子を見よう」
「ユイまでそう言うなら…」
そうこうしている内にステージに変化があった。


青い服と仮面を身に付けた人形３体と男の子の人形１体が向かい合う。


「あの人形…遊矢に似てない？」
「それにあれは…アカデミアではないのか？」
「アカデミアめ…」
柚子･権現坂･黒咲はすぐピンと来たようだ。

遊矢人形が一旦視界から消えると再び現れる。しかしさっきの遊矢人形と違い怒ったような表情をしている。そしてそれと同時にドラゴンの人形も出てくる。あれは…覇王黒竜？

「……まさか。やめろ…」
「遊矢？」

遊矢人形が腕の部分をクイっと動かすと覇王黒竜人形が突っ込んでいき…

ｶﾞｼｬｰﾝ

アカデミアのオベリスク･フォース人形を蹴散らす。

「あ…ああ……」
「遊矢？大丈夫か？」

遊矢人形は暴れるようにステージを右往左往して駆け回る。すると両サイドから新しい人形が出てくる。

「あれは…私と権現坂？」

見た目は確かに柚子と権現坂の人形だ。その２体が遊矢人形を止めようとするが、弾き飛ばされる。その後遊矢人形が腕を挙げると２体の竜が現れる。

「オッドアイズとダークリベリオン…」
「まさか…。やめろ…。やめてくれ…」

ダークリベリオン人形は柚子人形に、オッドアイズ人形は権現坂人形に近づく。

「頼む…。やめろ！やめてくれ！」

オッドアイズ人形がブンと振り返ると尻尾が権現坂人形にヒットして首がもげた。

「…なっ！」
「なんと悪趣味な！」
冷静な権現坂も柳生さんも思わず声をあげる。そしてダークリベリオン人形が柚子人形に近づき…

グサッ

ダークリベリオン人形の牙が柚子人形の腹に突き刺さる。
「ああ…。ああ……」
「遊矢！落ち着いて！あんなのただの人形劇よ！」
崩れ落ちそうになる遊矢を柚子が支える。

ダークリベリオン人形がブンと向きを変えると突き刺さっていた柚子人形が抜け、床に落ちる。
「酷すぎます…」
「最低だよ…こんなのって」
遊月と美羽をはじめ、その場にいる全員が嫌悪感と不快感に心が染まる。
「おや？ご不満でしたかねぇ」
突如、謎の男の声が聞こえる。
「誰だ！」
「フッフッフ……」
ステージ裏から変な格好の男が現れる。金ぴかのシルクハットとタキシード、変な眼鏡を掛けた男だ。一体、この明らかにインチキ臭そうな男は…？







~右回りルート組･メアリーサイド~

十代･万丈目･明日香
遊星･クロウ･アキ
遊馬･凌牙･Ⅲ･ゴーシュ
メアリー

ウチは右回りのルートを担当することになった。
「それにしてもこんな遊園地に敵の手掛かりなんてあんのかよ」
「まぁそう言うなよクロウ。敵さんも案外ノリで決めたかも知れないぜ？」
「そんないい加減な理由で決めてるとは思えないけど…」
「でもユイの偽者ロボットがいた以上、ここには何かあるだろう」
それぞれがこの場所について歩きながら話し合っている。確かに万丈っちが言うようにユイっちの偽者がおった以上、こんな離れの土地に守りを置くのは不自然や。なんかあると見るべきやろな。特別な事情があるのかそれとも…。それにや。ユイっちの偽者ロボットの門番がいたっちゅうことはマスターDもウチらがここにやって来るんを予見してたってことや。他にも刺客や罠があるかもな。
「ここが最初の場所ね」
そこにあったんは古めかしい廃病院や。アーチ状の門には血のような赤い文字で『Dead Hospital』と書いてある看板が掲げられとる。
「ここは確か十代さんの最後の記憶に残っていた場所…」
「ああ…。だけど俺はもう絶対負けない。行くぞ！みんな！！」
ウチらはその廃病院に入っていく。

お化け屋敷っちゅうこともあってか中は暗く、ほとんど何も見えん。音も

ｶﾂｰﾝ…ｶﾂｰﾝ…


「何？」
誰かおるんやろうか。奥の方から階段を上がるような足音が聞こえる。静まり返った病院内で余計に響く。
「怪しいけど…行くしかないわよね」
「ええ…」
ウチらも暗闇の奥へ奥へと進んでいく。階段を上がり、２階について廊下をしばらく歩くと広い場所に出る。待ち合い室やろか？ボロボロのベンチが並ぶ。

ガタッ

ん？！
「明日香っち危ない！」
「きゃっ！」

ドカッ

…間一髪やった。ウチは反射的に明日香っちに飛び付いて押し倒した。起き上がるとベンチが壁に突き刺さっておった。
「これは一体…」
「もしかして…ポルターガイスト？」

ズ ズ ズ ズ ー

今度はベンチがスライドして突進してくる。
「この！」
ゴーシュっちがそのベンチを持ち上げて止めた。
「おおきにな」
「なーに。ノリってもんだ」
そんな会話をしとると
「これを見てくれないか」
遊星っちが何かに気付いた。
「これは…」
壁に５枚のカードが貼り付いとる。


『ウィジャ盤』
『死のメッセージ「E」』
『死のメッセージ「A」』
『死のメッセージ「T」』
『死のメッセージ「H」』

確か特殊勝利を達成できるカードや。
「こんな気味の悪い場所で冗談じゃない」
「確かにな。コイツは結構趣味悪いぜ」
万丈っちと凌牙っちが悪態をついていると
「いかがかな？死霊の病院の歓迎は？」
暗闇から声がする。全員が身構える。