第77話　メイド服でレボリューション！？　作：ター坊

~北森サイド~


昨日のアポリアさんの話をまだ受け止められないでいる。確かに見たことのない街や喋るペンギンなど、変な場所と思ってたけどまさか別の世界なんて…。もし一人ぼっちだったら落ち込むしかなかったでしょう…。でも、城之内さんを始め多くの人達が集まるこの場所だと自然と大丈夫な気がするから不思議です。

「姫様、なりません」
「お春さんにも似合うと思うのですが…」
「それだけはなりませぬ」
なにやら話し声が。見てみると遊月さんとお春さんがいます。主従関係以上に仲良しって感じがしたのですが、口論でしょうか？
「あ。玲子様」
「遊月さん、どうしたんですか？」
「はい。実はお春さんにもこの国の召し物を着させようとしているのですが…」
「いいえ。姫様と同じお召し物に袖を通すなど恐れ多いことできませぬ」
「はぁ…」
確かにお春さんの言い分も最もだろう。私だって急に王女様のドレスを着てもいいよと言われても遠慮してしまう。
「それに姫様。お言葉では御座いますが脚の露出が激しく、少々はしたなく思います」
「そうでしょうか？魅仁守華阿斗(みにすかぁと)というのですが…」
はてさて、着せたい遊月さんと着たくないお春さん。どうしたものでしょうか。
「あれ？遊月おねえちゃん、お春おねえちゃん。それに玲子おねえちゃんも」
「アユちゃん」
話し合ってた場にやって来たのはアユちゃんでした。
「どうしたの？」
「アユ様。実はですね」
遊月さんはアユちゃんに洋服のことを話した。
「ふーん。…ねぇ玲子おねえちゃん」
「なんですか？」
「じょちゅーってなに？」
「うーんと。…昔の召し使いやメイドさんのことですよ」
「メイドさん…あ！」
「アユ様？いかがなさいましたか？」
「そういえばあったよ。メイドさんの服」


アユちゃんに連れられてやって来たのはコスプレ衣装を取り扱うコーナーでした。このショッピングモールなんでもあるなぁ。
「あった！これこれ」
「まぁ…。これがこの国の女中の召し物ですか？」
アユちゃんが指差したのはフリルがたくさん付いたメイド服でした。
「ほら、お春さん。これがこの国の女中の召し物ですよ。これなら」
「ですが…」
「お春さん。郷に入れば郷に従えとも古来より言います」
「うっ…」
「さぁ、お春さん」
お春さんも観念したようで遊月さんに導かれて試着室に入る。


「なんだか楽しそうな声が聞こえたから来てみれば…」
「あ。ユイおにいちゃん」
「ユイさん」
「北森さん……コスプレとかに興味あったんだ。意外」
「いっ！いえ違います！私じゃなくて遊月さんが！」
「へぇ」
「どうでしょうか？あ！ユイ様」
「あれ？遊月さん。試着室で何か着てたんじゃないのか？」
「いえ。私ではなくお春さんが。さぁ、お春さん。早く」
けれどお春さんはカーテンにしがみついて一向に出てこようとしない。
「いえ！やはりわたしには！」
「お春さん！潔く見せてください！」
遊月さんはガバッとカーテンを引っ張る。
「やはり、わたしには…/ / /」
開かれたカーテンから出てきたのは別人のようなお春さんでした。元々、カッコいい女性でしたからメイド服を着ていると出来る大人の女みたいに感じてしまう。
「お春おねえちゃんかわいい♪」
「和装から洋装のギャップすごいなぁ」
「そ、そうでしょうか…？ひらひらとしてますが……」
「お春さん。とってもお似合いです」
「姫様…」
しかし、この後の遊月さんの一言で少々大変なことが起きました。
「可愛らしいですね。……そうだ。私も着てみましょう」
「え？ですが、これは女中の…」
「だからこそです。私が魅河に帰り、復興する時はこの国の文化を取り入れようと考えています。そのためには色々と体験しなくては」
「姫様…」
「このような女中の召し物であれば、着たいという者が集まり、女子の働き口を増やすことが出来るでしょう。それは素晴らしいことと思いませんか？」
遊月さんが言ってるのは現代でも通じる女性労働の問題だろう。私達と変わらない年頃なのに、そんなことを真剣に考えるなんてやっぱり一国の姫君なんだなと感銘を受ける。
「あれ？こちらも、めいど服…ですよね？」
「へ？そうですね」
「色も細部の装飾も異なりますね…。あの…玲子様」
「なんでしょうか？」
「どんな感じか見たいので着て頂けませんか？」


決して遊月さんは悪ふざけや悪戯心でやってるわけではないと分かっていますが…やっぱり恥ずかしいものです。その後、遊月さんもメイド服を着て『実用的な面も見たい』と言って今日の食事当番を手伝うと言い出しました。今日の当番は私と明日香さんと小鳥さんと柚子さんで、最初は全員メイド服を着ることに戸惑いましたが、遊月さんの真意を聞いて皆さん協力することにしました。



「明日香。可愛いねぇ。さすが僕の妹だ」
「兄さん…！」ﾌﾞｯｼｬ
「うわっ、ケチャップかけすぎだよ」
明日香さんは恥ずかしくてお兄さんの吹雪さんに八つ当たり(？)してました。
「学校祭の時にも似た格好したけど可愛い♪」
「うんうん♪腰のリボンがポイントっていうか…。でもスカート短いかも…」
小鳥さんと柚子さんは結構ノリノリで気に入ってました。
「姫様！それにお春殿までその格好は？」
「八兵衛。これはめいど服と言ってこの国の…」
「冥土服…？姫様！有馬を置いて自害なさる気か！死に装束など、お気を確かに！」
「じ、じいや！？」
有馬のおじいちゃんは大きな勘違いをしたみたいです。斯く言う私は
「玲子ちゃん！結構似合ってるじゃねぇか」
「そ、そうですか/ / /」
「……」ｸﾞﾘｯ(←舞がヒールで城之内の足を踏む音)
「イッテェェ！舞てめぇ」
「フンッ」
こんな感じです。
「この国は料理といい、服飾といい、まだ学ぶことがありそうです」
遊月さんは満足そうな笑顔で国の復興に思いを馳せている様子でした。