第155話　愛する人への想い　作：ター坊

~柳生サイド~

ユイ殿はなんとか姫と美羽殿の火力を最小限にやり過ごしておられるが…何よりも好いてる者同士が争うのは見ているのも辛い。
「はぁ…はぁ…」
「うぅ…」
「…」
意識を呑み込まれんと息を荒くする姫と美羽殿、それを見つめるユイ殿。なんと酷いことか。
「…ごめん、美羽…、遊月…」
不意にユイ殿が口を開き始める。
「今更だけど、こんな乱暴な方法しか思いつかなくて、ホントにごめん…。最低な彼氏だよな…」
場所のせいもあろうか、ユイ殿の自嘲するような声が虚しく響く。
「けど、ひとつだけで言わせて欲しい」
ユイ殿は崩れた姿勢を直してお二方を真っ直ぐ見据える。
「美羽、遊月…。お前達のこと、大好きだから、お前達が幸せになってまた笑って欲しいから、俺は絶対に勝つ！！俺のターン」


~ユイサイド~

俺は二人を幸せにしてやりたい。けど、俺がやったことで美羽と遊月を傷つけて、嫌われちゃうかもしれない…。だけど…！
「俺のターン…」
デッキよ。このデュエル、絶対に負けられないんだ。俺に力を貸してくれ。
「ドロー！俺はスケール9の『赤薔薇の救世者ラブリ』とスケール3の『白薔薇の救世者ピュアリー』でペンデュラムスケールをセッティング！ペンデュラム召喚！『未来の救世者スキュルートＥＰ』！！」
これで一気にバウンスすれば…！

ｶﾁｬﾝ

「何！」
物音がすると思えばスキュルートが鉄檻に閉じ込められている。
「これは一体…」
「…私ハ永続罠『悪夢の鳥籠』を発動シたノ」
その正体は美羽のセットカードであった。
「『悪夢の鳥籠』ハ相手モンスター１体の攻撃と効果の発動を不能にシテ、毎ターン８００ダメージを与エル！」
「くっ！なら、ピュアリーのペンデュラム効果でコイツを破壊して魔法・罠の耐性を付ければ」
しかし、ピュアリーの破壊ができない。
「どうなっているんだ？」
「『悪夢人形ジャーマンダー』が存在スル限り、お互イニ、カードの効果による破壊がでキナクなる！」
なるほど、こちらの動きを徹底的に止めに来たか…。なら次だ。
「俺は『金管の救世者シエラ』を召喚し、コイントス判定を行うがラブリのペンデュラム効果で表の効果を適用。デッキから『礼弦の救世者アリア』を手札に加える。そして２体のシエラでオーバーレイ！エクシーズ召喚！『闘魂の救世者ダイブレード』！なら、その厄介なモンスターを倒すまでだ！行け、ダイブレード！」
ジャーマンダーを戦闘で破壊すればピュアリーの破壊が可能になり、スキュルートＥＰが解放される。そうすれば相手の場を一気に空けることが…。
「私ハ、手札カラ『雷龍センライ』の効果ヲ発動しマす！相手の攻撃宣言時、このカードヲ攻撃表示で特殊召喚！」
遊月の場にポンと小柄な龍が出てくる。そしてダイブレードの攻撃が自然とセンライの方へ向く。
「これは…」
「センライの効果デ攻撃可能ナラバ攻撃しなケレバならナイ！」

闘魂の救世者ダイブレード ATK 2600 VS 雷龍センライ ATK 1200

ダイブレードの斬撃で雷龍は一刀両断されたが、その直後にバチバチと電気を放つ光の球が現れる。
「センライが破壊サレ、戦闘ダメージが発生シタトキ、ライフを５００支払うコトデ相手に受ケたダメージヲ倍デ返しマス！」
戦闘ダメージは1400…。つまり2800のカウンターが

バッシーーン！ガンッ！！

雷撃で吹っ飛ばされ、壁にぶつかる。
「いっ…ててて…」
頬に湿り気を感じ拭うと指に赤いものが付く。少し切ったようだ。
「ユイ……様、申し…ワ…け……」
「遊月！俺は大丈夫だから、落ち着いて！」
「イヤ、イヤ…イヤ……」
「美羽！ほら、俺はなんともない！だから」
「イヤアァァァ！！」
「くっ！ウウゥゥッ！アアァァア！」
きっと、俺を傷つけてしまった。その事実が二人の、最後までサイコ･デュエルディスクに抗う気力を砕いたのだろう。
「…」
「…」
悲痛な叫びが響いた後、シンと静まりかえり、二人がゆっくり顔を上げる。
「…倒す」
「…お覚悟を」
瞳に生気の光がなく、まるで命令された機械のような冷たい眼差しが体中に突き刺さる。
「乗っ取られたか…。なぁ」
「ユイ様。貴方のターンはまだ終わっておりません」
「…そうだったな。俺はダイブレードの効果でオーバーレイユニットを１つ使いデッキから『救世の賛美歌』を手札に加える。カードを１枚セットしてターンエンド」
もう信じて進むしかない。このデュエルに勝てば二人は元通りになると。
「この瞬間、『悪夢の鳥籠』の効果で８００のダメージを与えるよ」
「うっ！」
けど…、このくらいは！

ユイ:LP 5000
美羽:LP 8000
遊月:LP 6100

「私のターン、ドロー。魔法カード『悪夢融合』を発動」
「させるか！８００のライフを支払いカウンター罠『救世の賛美歌』を発動！これによって『悪夢融合』の発動を無効にして除外する。さらにこのターン魔法を使用できなくなる」
美羽のあの悪夢人形は融合軸。融合の魔法さえ潰せば！
「ならば、手札から罠カード『禁忌の悪夢(ナイトメア･フォビドゥン)』を発動！」
「何！手札から！？」
「このカードは自分フィールドに融合モンスターがいれば手札から直接発動できる。これで手札の悪夢人形、バジル･ミント･オレガノを素材に融合召喚！『悪夢人形コルツフット』！！さらに融合素材となった３体の悪夢人形達の効果で１体につき５００、全部で１５００ダメージを受けてもらうわ！」
再び火の玉が俺に向かってくる。
「うぉっ！」
「さらにコルツフットの効果でダイブレードを手札に戻す」
コルツフットから影のようなものが伸び、ダイブレードが絡め取られて地に引きずり込まれた。
「そして相手モンスターゾーンに『悪夢の鳥籠』の対象になっているモンスターしか存在しない場合、直接攻撃ができる」
「ならそっちは！永続罠『救世の夢想歌』を発動！このカードが存在する限り、お互いにバトルフェイズをスキップする」
「…どうしてなの？」
急に美羽が声を震わせて訊いてくる。
「何がだ？」
「どうしてやられてくれないの！？私達と傷つけ合いたいの！？」
激昂する美羽の問い掛けが心を抉る。
「…そうだよな。お前達を助けるとか言って、結局はこうして戦ってる。嫌われても無理ないよな…」
「じゃあ、どうしてなの！？」
「俺、嬉しかったんだ。美羽と遊月に大好きって告白されて。それで思った。期待に応えて絶対に幸せにしなくちゃって。たとえそのためにやったことが美羽と遊月に嫌われるような結果になったとしても、幸せになれるならそれで良いって。だからこうして戦ってるんだと思う」
「ッ！あっ、そう…。なら次の私のターンで全力で潰してあげる！私はこれでターンエンド！」

ユイ:LP 2700
美羽:LP 8000
遊月:LP 6100

「私のターン、ドロー。私は速攻魔法『降御雷(ふるみかづち)』を発動。これで相手の魔法･罠を全て除外します」
爆音と共に雷が降り注ぎ、ペンデュラムゾーンのラブリとピュアリー、夢想歌も一掃される。
「くっ！」
「ユイ様。何故私達を助けようとするのですか？」
「何故って好きだからだろ？」
「そんなのは綺麗事です！！」
今までにないほど遊月が怒りを露にする。
「私は姫として、国も、民も、何も守ることができなかった！ひ弱だったから、全てを失ってしまった！！だからユイ様も私達を救えない！」
「それは違う！」
「何が違うと言うのですか！」
「確かに俺は普通の高校生だ。国やそこに住む人達を守れる、姫や殿様みたいな特別な立場でもないし、英雄のように強いわけでもない！だけど、こんな普通でも精一杯手を伸ばせば二人くらいは守れる！」
「…！うるさい、うるさい！クロイカヅチでダイレクトアタック！！」
「手札から『護法の救世者ゴールド･ゴーレム』を捨てることでこのターンに発生する全てのダメージを0にする！」
落雷を黄金の巨兵が防ぐ。
「くっ！私はこれでターンエンド」
なんとか凌ぎきったけど…。



やべ…