第90話　笑顔を取り戻した時　　作：ター坊

全員、アインさんの告発動画を見てやる気が出たらしい。今まで向かってくる敵を訳も分からぬまま撃退するだけだったのが、敵がはっきりとして全員スッキリしたようだ。それに遊戯達が洗脳されてると聞き、迷いが吹っ切れ取り戻す意欲も強まった。


その後は特訓としてあちこち組んでデュエルをやり始めた。
「なぁ、美羽ちゃん。俺とやってみないか？」
「ひっ…！」
城之内が美羽に話し掛けた途端、何故か美羽は逃げ出してしまった。
「あれ？なんでだろ？」
「もしかしたら人見知りかも知れないな…」

~美羽サイド~

どうしよう…。思わず逃げ出してしまった…。ユイさんの友達ならそんなことするわけないのに、どうしても昔のいじめっこと重なってしまう。失礼なことしちゃった……。

ドン

「きゃっ！」
「あ、ごめんなさい」
「えっと……」
「あ、私、北森玲子って言います。美羽さん…でしたよね？」
「は、はい…。…ごめんなさい」
「いえいえ。それより慌ててどうしたんですか？」
「えっと…」
「話しづらいことなら場所を変えますか？」


私と北森さんは船のデッキに出てきた。
「実は…」
私は北森さんにさっきの出来事を話した。
「フフ…」
「え？」
「あ、すみません。…なんだか昔の私に似てるなぁって」
「似てる？」
「はい。私もデュエルをする人が怖かったんです。それこそ…逃げ出したり」
「うっ…」
「でも、城之内さんが教えてくれたんです。デュエルの楽しさを。前に進んで勝つ楽しさを」
デュエルの楽しさ…。あんまりそんな記憶はない。勝ってもデザイナーの娘だから良いカードを持ってて当たり前と言われ、負ければカードを取られたり破かれたりした。それが嫌で中学に上がってからはデュエルをしてることは周囲に隠していた。だからパパから貰った今持ってるデッキも高校生になった現在まで1度も使ったことがない。…けど
「…私も楽しくできますか…？ここの人達となら…」
「はい！必ず！」
私も変わらなくちゃ。アイン博士は私を生かしてくれた。それなのに、昔みたいに怯えてばかりじゃダメなんだ…。
「じゃあ、相手…してくれますか？」
「はい！喜んで！」
私はデッキとデュエルディスクを取りに部屋に戻った。


久々に着けたデュエルディスクは少し軽く感じた。着けたのは小学生以来だ。
「じゃあ、行きますよ？」
「デュエル！」

先攻:玲子

「私のターン。『パペット･ポーン』を召喚し、カードを一枚伏せてターン終了」
「私のターン、ドロー」
このデッキで1回もデュエルしたことないけど、使い方なら分かる。パパ、見てて。
「私は魔法カード『幻想開演』を発動。これでデッキの上から4枚めくり、その中に含まれる幻想麗団(ファンタジック･スターズ)ペンデュラムモンスターを全て表側表示でエクストラデッキに送り、それ以外のカードをデッキに戻します」

ｼｭﾊﾞﾊﾞ…『幻想麗団-アシスタント･バニー』『秘術演目(トリック･ショータイム)-テレポート』『幻想麗団-フレイム･キマイラ』『サイクロン』

「これでアシスタント･バニーとフレイム･キマイラをエクストラデッキに。そしてこのカードを発動した場合、このターン私はペンデュラム召喚できません。そして『幻想麗団-マジカル･キッド』を召喚」

「おぉ！やってるやってる」
「美羽のモンスターなんだろう？」
「可愛い~」
あれ？いつの間にかさっきの人達が集まってきてる。でも、なんだろう…。昔なら野次や罵倒で逃げ出したかったけど、不思議と怖さはない。
「マジカル･キッドは相手にモンスターがいてもダイレクトアタックできます！行って！」

幻想麗団-マジカル･キッド ATK 100　直接攻撃

「けど、このくらいなら…」
「相手に戦闘ダメージを与えたとき、マジカル･キッドの効果発動。このカードを表側でエクストラデッキに送り、同名以外の幻想麗団のペンデュラムモンスターを特殊召喚します！出てきてフレイム･キマイラ」
マジカル･キッドは出現した箱の中に入り、しばらくしたあと、そこからフレイム･キマイラが飛び出す。ソリッド･ビジョンだとこういう風に表現されるんだ。
「なんだ？モンスターが入れ替わった？」
「まるでサーカスのショーみたい♪」
周囲の人もさっきより多く集まり、歓声が上がる。こんなにウキウキとしたこと、今まであっただろうか？
「フレイム･キマイラの効果発動！このカードが特殊召喚に成功した場合、相手モンスターを１体破壊します！」
「そんな！」
フレイム･キマイラが『パペット･ポーン』に食らい付く。
(私が伏せた『プロモーション』はダメージステップ中だから発動できない！)
「フレイム･キマイラで追撃！」

幻想麗団-フレイム･キマイラ ATK 1600　直接攻撃

「きゃっ！」
「さらにフレイム･キマイラも相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードをエクストラデッキに送り、同名以外の幻想麗団モンスターを特殊召喚出来ます！これでエクストラデッキに送ったアシスタント･バニーを特殊召喚」
フレイム･キマイラが飛び上がり、太陽の光で目が眩むといつの間にかバニーガールがそこにいた。
「アシスタント･バニーがエクストラデッキからの特殊召喚に成功した場合、デッキから1枚ドローします。私はカードを2枚伏せターンエンド」

美羽:LP 8000
玲子:LP 6300

「やりますね。けど私も負けませんよ！ドロー！私は『パペット･ポーン』を召喚し、リバースカード『プロモーション』を発動してデッキから『パペット･クィーン』を特殊召喚します！」
「攻撃力…2200」
「バトルです！チェックメイトフラッシュ！」
「速攻魔法発動！『秘術演目-チェンジ』！これでアシスタント･バニーをエクストラデッキに送り、フレイム･キマイラを特殊召喚します！」
アシスタント･バニーが出現したリングを上に掲げるとカーテンで覆われる。リングが落ちるとアシスタント･バニーが消え、フレイム･キマイラが唸りを上げる。
「フレイム･キマイラの効果で『パペット･クィーン』を破壊させてもらいます！」
「させません！手札から速攻魔法『レベルアップ･エクスチェンジ』を発動します！これでクィーンを除外し、手札からレベルが１つ高い『パペット･キング』を特殊召喚します！」
フレイム･キマイラの一撃が空を切り、『パペット･キング』が現れる。
「『パペット･キング』で攻撃！マジェスティック･チェッカー！」

パペット･キング ATK 2800 VS 幻想麗団-フレイム･キマイラ ATK 1600

「うぅ…」
「私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

美羽:LP 6800
玲子:LP 6300

「私のターン、ドロー！『幻想麗団-チェーンソー･ヴァンパイア』を召喚し『パペット･キング』を攻撃！」
「攻撃力は1400しかないのに？」
「罠カード『秘術演目-ファイヤーリング』を発動！これでチェーンソー･ヴァンパイアの攻撃力を500アップさせた状態でを直接攻撃可能になります」
チェーンソー･ヴァンパイアは『パペット･キング』を踏み台に高く飛び上がり、燃え盛る火の輪をくぐり抜け、赤く熱せられた刃でプレイヤーに襲いかかる。

幻想麗団-チェーンソー･ヴァンパイア ATK 1900　直接攻撃

「うぅぅ…！」
「戦闘ダメージを与えたことで、チェーンソー･ヴァンパイアはエクストラデッキに送られ、代わりにフレイム･キマイラが特殊召喚されます！これで『パペット･キング』を破壊！そのままダイレクトアタック！」
「永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動させて『パペット･キング』を蘇生！このターンの攻撃を阻止します！」
「……！私はカードを1枚伏せてターンエンド…」

美羽:LP 6800
玲子:LP 4400

「良いぞ！玲子ちゃん！行け行け！」
「美羽さんも頑張ってー！」
声援が飛び交う。こんなこと今までなかった。とても楽しんでいると自分でも分かる。
「行きますよ？ドロー！私は魔法カード『キャスリング』を発動！自分フィールド上にキングがいることでデッキから『パペット･ルーク』を2体特殊召喚します！」
キングの横にルークが並び立つ。
「一気にモンスターが…！」
「バトルです。『パペット･キング』でフレイム･キマイラを攻撃！」

パペット･キング ATK 2800 VS 幻想麗団-フレイム･キマイラ ATK 1600

「まだです！罠カード『秘術演目-フラワーシャワー』を発動！これでこのターンのバトルフェイズを強制終了させます」
突如、花吹雪が舞い、フィールドを包んだ。
「攻撃はさせてくれませんか…。私は『パペット･ルーク』の効果を発動させます。キングがいるときに生け贄に捧げ、2枚ドローします。カードを1枚伏せてターン終了です」

美羽:LP 5600
玲子:LP 4800

「私のターン、ドロー！…このターンで決める！」
「えっ？」
「私はスケール5の『幻想麗団-ハングリー･ケルベロス』とスケール1の『幻想麗団-トラピスター･ガール』でペンデュラムスケールをセッティング！今こそクライマックス！舞台を華麗に彩れ！ペンデュラム召喚！出てきて、私のモンスター達！」
「ユイさんと同じペンデュラム召喚…！」
「エクストラデッキからアシスタント･バニー、フレイム･キマイラを、手札からハングリー･ケルベロスをペンデュラム召喚します。まずはハングリー･ケルベロスの効果でデッキトップから3枚めくり、その中から幻想麗団モンスターを1枚をエクストラデッキに送ります。これで『幻想麗団-エムシー･サキュバス』をエクストラデッキに。さらにフレイム･キマイラで『パペット･キング』を破壊します！」
「ルークはキングが破壊される場合、身代わりに出来ます」
かぶり付きそうになるフレイム･キマイラにルークが立ちはだかる。
「さらにアシスタント･バニーで1枚ドロー。そして！私はレベル4のハングリー･ケルベロスにレベル3のアシスタント･バニーをチューニング！」
「そんな！」
「アシスタント･バニーはチューナーだったのか…」
「かつては血に染まりし刃よ。今は舞台を彩る華となれ！シンクロ召喚！レベル7『幻想麗団-ジル･ザ･リッパー』！」
ナイフを大量に構える妖艶な美女が現れる。
「ジル･ザ･リッパーはフィールド上に存在する限り、特殊召喚された相手モンスターの攻守を半分にします」
「攻撃力が1400に…」
「さらにジル･ザ･リッパーのシンクロ召喚成功時、私はエクストラデッキから幻想麗団を１体特殊召喚します。これでエムシー･サキュバスを特殊召喚。エムシー･サキュバスが特殊召喚された場合、デッキから『秘術演目-アンコール･ショー』を手札に加えます。バトル！」

幻想麗団-ジル･ザ･リッパー ATK 1800 VS パペット･キング ATK 1400

「罠カード『命の綱』を発動し、攻撃力を800アップさせた状態で蘇生！」
「ジル･ザ･リッパーの効果発動！相手が攻撃表示でモンスターを召喚･特殊召喚した場合、攻守を1500ダウンし、この効果でどちらかの数値が0になった場合、墓地に送ります」
「『パペット･キング』の守備力は今1300…ということは」
復活した『パペット･キング』の胸にジル･ザ･リッパーのナイフが突き刺さる。
「さらにエムシー･サキュバスとフレイム･キマイラでダイレクトアタック！」

幻想麗団-エムシー･サキュバス ATK 500 + 幻想麗団-フレイム･キマイラ ATK 1600　直接攻撃

「エムシー･サキュバスが戦闘ダメージを与えたことでこのカードをエクストラデッキに送り、新たにチェーンソー･ヴァンパイアを特殊召喚。チェーンソー･ヴァンパイアでさらに攻撃」

幻想麗団-チェーンソー･ヴァンパイア ATK 1400　直接攻撃

「まだですよ…。まだLPは…」
「決めると言ったハズです！手札から速攻魔法『秘術演目-アンコール･ショー』を発動！これでこのターンのバトルフェイズ終了時に、幻想麗団モンスター1体を選択して直接攻撃します！行って！ジル･ザ･リッパー！」

幻想麗団-ジル･ザ･リッパー ATK 1800　直接攻撃

「負けちゃいましたか」







勝った！……ハッ。いけない。
「あの、玲子さん…。ごめんなさい…」
「？どうして謝るんですか？」
「その…えっと、ちょっと調子に乗ってて…本当にごめんなさい」
「そんなことはないと思うぞ」
「ユイさん…？」
後ろから話し掛けて来たのはユイさんだった。
「誰も美羽のことを生意気とか思ってないさ。それにエクストラデッキのモンスターと入れ替えながら戦う戦法も見てて楽しかったぞ」
他の人達もゾロゾロやって来る。
「ほんもののサーカスみたいですっごくたのしかったよ！」
「見た目と違ってノリのいいデュエルするじゃねぇか。今度は俺とやろうぜ？」
「いいファンサービスだ。そこで俺様のファンサービスとどっちが上か」
「兄様。ちょっと美羽さんも困ってしまいますよ」
「ちょっと待て！言い出しっぺは俺だぞ！」
誰も私を馬鹿にも差別もしない。
…こういう人達にもう少し早く会えてたら、私も楽しい時間を過ごせたのかな。
ううん。今からでも遅くはない。世界は滅茶苦茶だけど、こんなにも私に対して優しい笑顔を向けてくれる人が大勢いるのだから。今まで泣いた分、たくさん笑おう。
「はい…。私からもお願いします」
久々だからちょっと不器用だったかもしれないけど、私は精一杯の笑顔を見せた。