第99話　明智の真意　作：ター坊

明智とのデュエルに勝った。
「お見事です。ユイ殿」
「ん？負けたのに何でそんな顔をする？」
明智の表情は負けた悔しさと言うよりも何かを見届けた穏やかな顔をしている。
「これは失礼。やはり話通りの御仁だと思いましたので」
そう言って明智は懐から1枚の書状を取り出し、俺に差し出した。
「これは？」
「先程言った、『答え』ですよ。それでは拙者はこれで」
明智は書状を渡すとすぐ馬に乗り、走り去ってしまった。明智の行動に俺を始め、デュエルを観戦していた他のみんなも首を傾げるばかりだった。

船に戻り、朝食を済ませた後、明智に渡された謎の書状をみんなで目を通してみた。
「なんだこりゃ？」
しかし、書かれたのは意味不明な漢数字の羅列であった。六二 三三 二四 五一 六七……こんな調子だ。全く分からん。
「明智の奴、俺達のことおちょくってんじゃねぇのか？」
「馬鹿ねぇ。明智は何らかの狙いでこれを書いたんだから意味があるはずよ」
悪態をつく城之内に呆れる舞。舞の言う通りだと思うが…。
「む？この数字の並び…」
「じいや？」
「ユイ殿。申し訳ないが紙と筆を」
「あ、ああ」
有馬さんが何かに気付いたようだ。俺は紙とペンを持ってきて有馬さんに渡す。
「ほいほい…っと」
有馬さんはさらさらと何か書き始める。これは…
「いろは唄？」
「ユイおにいちゃん。いろは唄って？」
「昔のあいうえお表…みたいなもんだな。これを歌として文字を覚えていたんだ」
「へぇ~」
アユにそんな解説をしているうちに有馬さんがいろは唄を一行七文字に納めて書き終えた。今度はそれをマスに区切る。すると7×7のマス目が出来た。
「有馬さん、これは？」
「うむ。これは伊呂波暗号という文ですな」
「伊呂波暗号？」
「左様。例えば始めの六二の部分。七かけ七のマスの縦六横ニのマスを見ると」
「わ？」
「続いて三三の所を見れば…」
「れ…。あ！我(われ)！」
「こうして解いてくのですぞ」
なるほどー！と全員から感嘆の声が上がる。
「しかし、伊呂波暗号を用いての書状…。明智様は何故このような難解な文を…」
遊月の疑問も最もだ。有馬さんクラスの知識が無ければ解読できないと考えれば、織田の陣営でも読める人間は限られるはず。明智は仲間内でも内密にしたいことを俺達に伝えたかったのか？
「むっ！こ、これは！？」
「有馬さん？」
どうやら解読は終わったようだが、ひどく驚いた様子だ。解読した文が書いてあるメモを読むと

『われ　むほん　おこす　あす　うのこく　くろい　のろし　たつ　その　とき　かせい　もとむ』

「明智殿は織田を裏切る気なのか！？」
「信じられんな」
最強の信重を裏切るとは確かに信じ難い。もしかしてあのデュエルは俺達が加勢として力になれそうかの確認だったのか？
「だが、罠の可能性もあるぞ」
「俺たちを誘き寄せて一気に叩く気でいるのか？」
万丈目･Ⅳの言うことも一理ある。しかしそれはどうだろうか？俺達の人数は織田軍と比べて圧倒的に少ない。それなのにわざわざ策を弄して俺達の討伐をするのか。それに相手も俺達がこうして疑うのも百も承知のハズだし、俺達がこの話を鵜呑みにする絶対の保証もない…。これが罠だとしたら不自然な気もする。
全員が疑心暗鬼となり、その場で沈黙が続く。



「……私は…行きます」
「姫様！これは罠かも知れませんぞ」
「それでもです」
沈黙を破ったのは遊月だが、すぐに有馬さんが止めに入る。
「ここで私が出なければ、滅ぼされた魅河の民は…浮かばれません！」
「姫！お気持ちはお察ししますが！」
「これは明智の計略！どうか御静まりを！」
有馬さんの他にも柳生さんも止めに入る。
「…いや。俺は遊月の意見に賛成だ」
「ユイ様…」
「ユイ殿まで！一体何を」
「罠と考えれば不自然だが、明智が本気で俺達の加勢を求めるならば辻褄が合うと思わないか？それに…」
「それに？」
「もし罠なら苦戦は免れないだろうけど、たとえ罠に掛からずとも織田の総攻撃で苦戦は間違いない。どっちにしても苦戦するならば明智の言葉に賭けるべきだと俺は思う」
「…」
「それに明智だって一人で立ち向かう程、馬鹿じゃない。部下の兵士と共に戦うハズだ。そうすれば数の不利も多少補える」
「…うむ。確かに……」
「ですが、もし姫様に万が一でもあったら…！」
「そうさせないのが有馬さんの役目じゃないのか？」
「……そうですな…」

結局、全員明智の言葉に乗ることとした。計画としてはアキのブラック･ローズと黒咲のライズ･ファルコンにビル清掃用のゴンドラを持たせ、合図の狼煙が出たら阿津血城までひとっ飛び！という算段で話が纏まった。阿津血城に乗り込むメンバーは俺と

遊月･柳生さん･有馬さん･美羽
クロノス先生･吹雪さん
アキ･アポリア
凌牙･Ⅳ
黒咲

と言うことになった。
その夜。船のデッキにて

「申し訳ありません、ユイ様」
「何で謝る？」
「私ってば感情論ばかり…。これでは我が儘ですよね」
「そうかな？我が儘だって言うならあの時点で誰か文句言ってたさ。全員が遊月の感情論に同感と思ってる証拠だよ」
「ですが…」
「それに前も言ったろ？俺達にとっても織田を倒せば今後のマスターDとの戦いも楽になるって。だから明日は協力して織田を倒そう」
「…はい！私も織田を倒して元の魅河に戻ったら」
「おおっと。しー」
「えっ」
「将来の話は今は止めとこう」
「何故です？」
「こっちの国では死亡フラグと言ってな。何か大きい事をやる前に夢や未来を語ると不吉なことが起こるとされているんだ」
「そうなのですか？」
「ああ。だから今は明日の織田との決着に集中しよう」
「フッフ。そうですね。それではお休みなさいませ」
「ああ。おやすみ」



朝。卯の刻とは午前6時頃だと言う。出撃メンバーはDuelyの屋上であれを待つ。
「姫様。御武運を」
「はい。お春さん」
「あれは！」
阿津血城の近くから黒い昇り龍のような煙がゴウゴウと立ち込める。
「アキ、黒咲。頼む」
「ええ。出でよ、『ブラック･ローズ･ドラゴン』！」
「飛翔せよ！『RR-ライズ･ファルコン』！」
二人がモンスターを召喚する。さぁ、織田との決着の始まりだ！









~柴田サイド~(時間軸はユイと遊月が決戦前夜語り合ってる頃)

「柴田様。申し訳ありませんがこれは殿の御命令ゆえ」
我はそう兵に言われながら牢屋に入れられる。阿津血城が現れ帰還した所、遊月姫を二度も逃した責を問われこのような目になったのだ。
「申し訳ないな。柴田殿」
不意に牢屋の奥から声がする。
「貴殿は…。マスターD！」
何故奴がここに？
「貴方をここから出すためだよ。もっと強力な力、欲しくはないか？」
「力…」
この鬼柴田が小僧たちに負けた…。慢心をしたわけでもなく本気で掛かって……負けた！！
「…出来るのか？今より強く」
「ああ。なれるとも。出るかい？」
「うむ。それが殿の為なれば！」
「では目を閉じるがいい。速攻魔法『緊急テレポート』！」
マスターDがそう言った直後、体が浮いたような感覚がした。