第105話　奇跡を呼ぶ漆黒の翼　作：ター坊

美羽:LP 1100
アキ:LP 8000

きっとユイなら、白馬の王子様みたく助けてるんだろうな…。でも…私だって諦めたくは…無い！！出来るだけのことはやろう。
「私はスケール1の『幻想麗団-フレイム･キマイラ』とスケール5の『幻想麗団-チェーンソー･ヴァンパイア』でペンデュラムスケールをセッティング！これでレベル2～4のモンスターを同時に召喚可能！ペンデュラム召喚！出てきて！私の幻想麗団！ジェイド･ワイバーン、エムシー･サキュバス、アシスタント･バニー！これで…」
「フフ！手札から罠発動！」
「え！？手札から！！？」
「『薔薇の睡眠歌(ローズ･ララバイ)』！ブラック･ローズが存在すれば手札から発動できるカードよ。これで相手はこのターン、ブラック･ローズのレベル以下のモンスターの効果を発動出来ないわ。残念だったわね…」
そんな…！これじゃ何も出来ない…。ごめんなさい、ユイ…。私じゃ無理みたい……。私は諦めのつもりで目を閉じた。






「諦めてはいけないよ」
誰だろう？聞いたことがある声だ。懐かしい声…。この声…もしかしてパパ？
「そうだよ。美羽…。諦めてはいけないよ」
でも無理だよ。もう逆転の手は残ってない…。
「そんなことはない。君はユイくんという少年や今戦ってるアキという少女、他にも様々な人と出会って変わった。昔のいじめられっ子だった頃とは大違いさ」
…確かにそうだけど……。でもこの状況は…。
「勇気を出して美羽は変わった。これは奇跡だ」
……うん。独りぼっちだったら私はずっといじめられっ子だった。けど
ユイに話し掛けられて―
玲子とデュエルして―
アキと背中を流しあって―
私は変わったような気がする。本当に奇跡だと思う。
「だからまた勇気を出して奇跡を起こすんだ」
…出来るかな…。私に…。
「出来るさ。これを」
これは…何？白い枠のカード？何も描かれてない…。
「パパは見守っている。たとえ世界が変わったとしても、美羽の奇跡を見ているからね」




「どうしたの美羽？時間稼ぎのつもりかしら？」
私はハッとして目を開けた。今のはなんだったんだろう？
「いくら考えても無駄よ。早くターンを終えて貴方の最高の絶望の表情を見せてちょうだい」
暖かかったパパの声…。私は変わったんだ。今も！これからも！
「…私はレベル2のエムシー･サキュバスとレベル3のジェイド･ワイバーンに、レベル3のアシスタント･バニーをチューニング！！」
私の声に応えるように、エクストラデッキから1枚のカードが出てくる。
「華麗なる幻想麗団を創り、束ねる漆黒の翼の天使よ！今舞台に降り立ち奇跡を魅せて！シンクロ召喚！」
「そんな…！美羽のエクストラデッキにレベル8のシンクロモンスターなんか…！」
カードにテキストが、絵が、名前が浮かぶ。
「レベル8！『幻想麗団-ミラクルマスター･ルシア』！！」
舞い降りた漆黒の翼の天使。それは私がスケッチブックに描いた、あの天使だ。
「やった…。奇跡が起きた…。これで、アキを取り戻せる！」
「だけど、たかが攻撃力2000で何が出来るのかしら？」
「バトル！ルシアで『ブラック･ローズ･ドラゴン』を攻撃！」
「正気なの？敗北寸前で気をおかしくしたかしら？」

幻想麗団-ミラクルマスター･ルシア ATK 2000 VS ブラック･ローズ･ドラゴン ATK 1500

「なっ！攻撃力が下がった！？」
「ルシアとバトルを行うモンスターは攻撃力･守備力が1500になる！」
「攻撃力を固定する効果！？」
「ルシアの更なる効果発動！戦闘ダメージを与えた場合、手札が4枚になるようドローできる！私の手札はないから4枚ドロー！」
「一気に手札の補充まで…」
「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

美羽:LP 1100
アキ:LP 7500

「私のターン、ドロー！！カードを1枚伏せ、『ローズ･テンタクル』を守備表示に変更してターンエンドよ」(私が伏せたカードは『棘の壁』。植物族モンスターへの攻撃に反応して攻撃モンスターを全滅させるカードよ。これで私の逆転ね)
「私のターン、ドロー！私は『幻想麗団-ハングリー･ケルベロス』を召喚！バトルよ！ルシアで『ローズ･テンタクル』を攻撃！」
「罠発動！『棘の壁』！これで全滅ね！」
「ルシアの効果発動！」
「まだ何かあると言うの！？」
「手札の『幻想麗団』もしくは『秘術演目』を見せることで相手の魔法･罠･モンスターの効果の発動と効果を無効にしてデッキの一番下に戻す！私は『幻想麗団-マジカル･キッド』を見せる！」
「そんな！」
『棘の壁』のカードが閃光となって弾け、アキのデッキの一番下に戻された。
「よってバトル続行！お願い、ルシア！」

幻想麗団-ミラクルマスター･ルシア ATK 2000 VS ローズ･テンタクル DEF 1500

「続いてハングリー･ケルベロスで攻撃！」

幻想麗団-ハングリー･ケルベロス ATK 1600　直接攻撃

「くっ！まだ…はっ！しまった、幻想麗団は…」
「ハングリー･ケルベロスが戦闘ダメージを与えたことでモンスターをチェンジさせる。ケルベロスをエクストラデッキに戻してエムシー･サキュバスを特殊召喚！サキュバスの効果でデッキから『秘術演目-ミラージュフラフープ』を手札に！サキュバスでも攻撃！」

幻想麗団-エムシー･サキュバス ATK 500　直接攻撃

「このくらいのダメージ…」
「サキュバスをエクストラデッキに送ってジェイド･ワイバーンを特殊召喚して攻撃！」

幻想麗団-ジェイド･ワイバーン ATK 1200 直接攻撃

「ワイバーンを送って再びケルベロスを召喚！ケルベロスの効果でデッキの上から3枚をめくる」

ﾍﾟﾗｯ…『幻想麗団-テイマー･ボーイ』『幻想麗団-フレイム･キマイラ』『秘術演目-ファイヤーリング』

「テイマー･ボーイをエクストラデッキに送って、ケルベロスで攻撃！」

幻想麗団-ハングリー･ケルベロス ATK 1600　直接攻撃

「ケルベロスをエクストラデッキに送ってテイマー･ボーイを特殊召喚！テイマー･ボーイの効果でデッキからフレイム･キマイラを特殊召喚！テイマー･ボーイの効果で攻撃力800アップ！行ってフレイム･キマイラ！！」

幻想麗団-フレイム･キマイラ ATK 2400

「フレイム･キマイラの効果エクストラデッキに送ってアシスタント･バニーを特殊召喚！デッキから1枚ドロー」
「ライフはまだ200残ってるわ…。トドメを刺し損ねたわね…」
「ううん。これで最後。アキ、これで戻って。私は手札から速攻魔法『秘術演目-ミラージュフラフープ』を発動！これでこのバトルフェイズ中、幻想麗団Pモンスターの『攻撃できない』効果を無効にして攻撃可能となる！行って！テイマー･ボーイ！」
フィールド上にフラフープが2つ出現し、テイマー･ボーイがフラフープを潜ると消え、突如もう一方のフラフープからひょっこり現れ攻撃を仕掛ける。
「そんな！」

幻想麗団-テイマー･ボーイ ATK 200　直接攻撃

「キャアアァァ！！」
「アキ！」





私がデュエルに勝つと周りの棘まみれの蔓は枯れて消えた。私は倒れたアキに駆け寄る。
「アキ！起きてよ！アキ！」
「……ん」
アキのまぶたが微かに動く。
「ん…？美羽？」
「アキ！」
私は思わずアキを抱き締める。
「ど、どうしたの美羽？」
「ううん！いいの！」
パパの力を借りながらだけれど、自分の力でアキを―仲間を取り戻すことができたんだと安堵し、涙を流した。
「私は遊星に負けて…それで……。…！美羽、服ボロボロじゃない。それに血も出てるわ！」
「ううん。平気。それよりもアキが戻ってくれて嬉しい」
「私、遊星に負けて何かあったのかしら…？美羽。私が何をやったのか正直に教えて」
「うん…。それは」
アキは本当に何も覚えてないようでさっきのデュエルのことも覚えてないみたい。私はアキの言う通りありのままのことを話した。
「美羽、ごめんなさい…。私は酷いことを……」
「ううん。気にしないで。悪いのはアキじゃなくて、遊星にそんなことさせたマスターDだよ」
「…フフ」
笑った。アキの笑顔。これを見たくて私は勝ったんだ。
「アキどうしたの？」
「いいえ。なんだかユイに似てきたな、って思って」
「ユイに？」
「そうよ。私、ユイと初めて会ったとき、遊星を拐った犯人だと決め付けてデュエルを挑んで負けたの。でもユイはそんな私を責めるわけでもなく、誤解だと一生懸命説いて私を仲間として暖かく迎えてくれたのよ」
「へぇ。ユイらしいな」
「美羽も、こんなに傷付けた私を仲間と言ってくれて嬉しいわ」
「アキ…。当たり前じゃない。…立てる？」
「美羽こそ大丈夫なの？」
「うん。それに早くユイ達に合流しなきゃ」
「…そうね」
私とアキは立ち上がった。その時後ろから声がした。
「オーイ。アキちゃん、美羽ちゃん」
「御二方！無事か！」
「…」
吹雪さんと有馬さん、黒咲さんが来た。
「みんなも来たのね」
「合流が遅れ、申し訳ない！」
「他のみんなは？」
「凌牙とⅣは遊馬に負けて動けない。今はクロノスが看ている。アポリアはまだダメージが残ってるようで、もうしばらく休んでから来る」
「明智さんの兵も織田の兵を押さえるので手一杯でこの階まで来れないみたいだよ」
「そうなんだ…」
「早く上の階にいるユイ達と」
黒咲さんが『合流するぞ』と言おうとした時だった。

ゴゴガガゴゴガガゴゴガガゴゴガガゴゴガガゴゴグアァッシャアァン！

大きな地震が城全体を揺らす。
「な、なんじゃろうか？」
「さっきの地震…」
「上から来たような気がするね」
「上でユイ達が戦っている…？」
「行かなきゃ…ユイ達が頑張ってる！」
私達は上の階へと走った。