第20話　新しい場所へ　作：ター坊

「ウソだぁあぁぁあ！俺が負けるなんてぇえぇえぇ！！」
よぽど悔しいのか泣きべそをかいていた。まぁ、確かに元とはいえチャンピオンが一般市民に、しかも地味なバーンダメージなんて、負け方としてはカッコ悪いことこの上ないだろう。
「そうだ。さっきのペンダントみたいのを返せ。ゴーシュと小鳥さんにとって大事なものっぽいから」
「ヒッ、ヒイィィイ！」
その時だった。後ろからうるさい音が近付いてくる。振り返ると
「あ、危ない！」
デカい黒いバイクに危うく轢かれるところだった。
「てめぇ、何やってるんだよ！とっとと引き上げっぞ！」
「う、うるさい！ユイとか言ったな！？覚えてろよ！」
バイクのライダーは悪態を付きつつもインセクター羽蛾を後ろに乗せ走り出そうとしたその時、
「ねぇ！クロウなの！？待って！」
「クロウ！」
アキと龍可が叫ぶが黒いバイクはエンジン音だけ響かせ走り去った。いつの間にか黒タイツの集団もいなくなっていた。とりあいずは撃退できたようだ。
「どうも助かりましたノーネ、シニョーレ･ユイ」
「いえいえ」
「シニョーレ･万丈目も無事そうで良かったノーネ」
「あれ？万丈目、知り合いなのか？」
「あぁ。俺のデュエルアカデミアの先生だ」
「ふーん」
デュエルアカデミアの話は昨夜、万丈目とおジャマイエローから聞いていた。孤島にある学校で、闘心高校よりデュエルに重きを置いている学校だという話だ。
「なぁ。ユイ…」
呼ばれて振り向くといつもと違い、沈んだ表情のゴーシュと同じような小鳥さんがいた。
「どうした？らしくない顔をして」
「いや、さっきよ…。俺達が喚いたせいでお前が負けそうになったからよ…」
「私もごめんなさい！」
「そう気にするな。結果として勝ったんだから。それよりあのペンダント…なのか？皇の鍵って言ってたけど何だ？」
「あれは遊馬がお父さんから貰った物なの。遊馬が肌身離さず持ってて…」
「しかもそいつは不思議な力が色々あるんだよ。…ん？って言うか小鳥、遊馬はどうしちまったんだ？」
「それが昨日から家に帰ってなくて…。ナンバーズ倶楽部のみんなと探してたんだけど、途中で大きな雷が鳴って…」
不思議な力か。他のデュエリストの世界はファンタジーみたいだな。ふと目をやるとアキと龍可が何か話している。
「アキ、龍可。少しいいか？」
「ユイさん？」
「さっきのライダーはクロウっていうチームメイトなのか？」
「うん…」
「私達も戸惑っているの。なんであんな卑怯なデュエリストと組んで行動してるんだろうって」
「それにクロウってば、私たちの声も聞こえなかったみたいだし…」
そりゃそうだ。仲間の行動が知ってるものと違うなら不安になるのも仕方ないだろう。
「まぁ、そのクロウも何らかの事情であんなのと組んでるんだろ。それに黒タイツ集団の仲間としたら今後も接触するチャンスがあるさ。その時に理由を聞くなり引き戻すなりすればいい」
「ユイさん…」
「…そうね。ありがとう、ユイ」
「あー。あとさ…。アイツって知り合いなのか？」
俺の視線の先には権現坂と名乗っていた少年がいる。彼も気付いたのか近付いてきた。
「先程は助成して頂き、男権現坂、感謝の念に堪えぬ思いだ」
「…そう。どういたしまして。ところで君もシンクロ召喚使ってたけど、この子達と知り合いだったりする？」
「いや。二人とも面識がない」
「私達も知らないわ」
「そうか…」
同じシンクロ召喚を使ってるから同じ世界の人間と決めつけるのは安直過ぎたか。
「君はどうしてここに来たか、覚えてる？」
「俺は山奥の修業で滝に打たれていたとき、突然空が暗くなったと思ったらとてつもない雷が鳴ってな。気付いたら知らない街中にいて、その途上でクロノス教諭と小鳥と会ったのだ」
「へ、へぇ」
デュエルで滝に打たれる必要があるのだろうか？
「ところで、ユイ？」
「ん？舞か。どうした？」
「アイツらにはここもバレちゃったし、次の拠点になりそうな場所はないの？」
「…あ。そうね」
「確かにああいう敵に立て続けに攻められたら、俺達も疲労するは必定であろう…」
「ユイさん…どうしよう…」
俺は頭の中の地図を探してみた。計9人の大人数だ。広くなければならないだろうし、水や食糧の問題もある。俺が考えてるうちに他のみんなも寄ってくる。
「…あった！」
「ユイ、どこなの？」
「しばらく歩かないと行けないけど、大型ショッピングモールがある。そこはどうだろう？」
俺の提案にみんなは賛同してくれた。