第91話　お風呂タイム♪　作：ター坊

「ユイ様は一緒に入らないのですか？」
「いや、さすがにそれはマズイからな。…まさか、今まで柳生さんと！？」
「いえ。小さい時は警護として一緒でしたけど、十二の頃辺りから入ってませんね…。なんででしょう？」
「さー。やっぱり…あれだ。遊月さんもお年頃の女の子になったし、気を遣ってるんじゃないか？」
「そうでしょうか…。たまには背中を流して差し上げたいのに…」
「そうなんだ…」
「姫様。そろそろ参りましょう」
「お春さん。それではユイ様。のちほど…」
そう言ってお春さんに連れられ遊月さんは去っていった。
メアリーの船がやって来た恩恵は寝床だけではなかった。アポリアの話によれば船のエンジンは始動できなかったが、ボイラーは稼働して風呂が沸くようになったらしい。今まではお湯に浸したタオルで体を拭く程度しか出来なかった俺達、特に女性陣からは称賛の声が上がった。先程風呂の内装を見てきたが銭湯のような感じで親しみやすそうだ。
久々の風呂で女性陣はおそらく長湯になるだろう。男の番が来るまで時間掛かりそうだから部屋に戻ってるか。



~メアリー サイド~

ウチは風呂に入らんと落ち着かんから、ボイラー動いてホント良かったわ。他の子ぉ達も喜んでるしな。今日はこっちの世界に来てからドタバタしとったから、いい風呂になりそうや。
暖簾をくぐって脱衣室に入ると女メンバーのほとんどが服脱いどる最中やった。
「あ、メアリー」
「舞っちか。どや？」
「ホント感謝してるわ。お風呂のセンスも悪くないし」
「せやろ？風呂場はダンナの趣味なんや」
「へぇ。…ってことは日本人？」
「日本？いや…ジャポニアンやったかな…」
「そう。…きっと似た世界観なのね。ま、楽しませて貰うわ」
「風呂がええのは次元共通やな」
「フフ。そうね。それじゃお先に♪」
舞っちはそんな話をしたあと、浴場に入った。ならウチも…ん？あれは。



~遊月サイド~

私が謝津(シャツ)を脱ぐとふと視線を感じました。
「柚子様？小鳥様？」
「あ…」
すぐに目を逸らされる二人。
「あの…如何なさいましたか？」
「えっと…。その…」
「その、……やっぱり大きいなと」
「やはり…そうでしょうか？」
「えぇ、とても」
「正直、羨ましいです…」
「結構重たいんですよ…」
「いえ姫様。豊かなことは素晴らしいことと思いますよ」
「お春さん？」
「それほど姫様の女性としての魅力が高い表れかと」
「そう…なのでしょうか」
「確かに遊月さんキレイですし」
「そうそう。それにお姫様とは言っても、とっても親しみやすいし」
「そこまで言われますと…照れちゃいますね…/ / /」
「ホントやなぁ」

モミュ

「ひゃっ！」
「ホント大きいわー」

モミュモミュ

「メ、メアリー様！？な、何を！？」
「メアリー殿！いくら風呂を提供してくれた恩があるとは言えども！」
「ええやん。これも裸の付き合い、コミュニケーションのひとつや」
湖観荷佳師四(こみにけいしよん)…。確かユイ様が使ってた言葉ですね。裸の付き合い…そうか！メアリー様は私とより仲良くしたいが為にこのような行いを。ならば私も応えなくては。
「では、私も失礼して」

ムニュ

「おわ！姫様ノリええやん」
「これでおあいこですよ、メアリー様」



~美羽サイド~

…みんな大きい。
「美羽さん？」
「あ、えっと…龍可……ちゃん？」
「先程のこと…怒ってましたか？本当に失礼しました」
「ううん。気にしないで…。ちっちゃい私も私だし」
先程のことだ。龍可ちゃんにタメ口で話し掛けられ、私が高校生であることを明かすとビックリした感じになった。小学生よりちっちゃい高校生なんて珍しいだろう。
「やっぱり、次元が違うと育ちが違うのかなぁ…」
「いえ、そんなことは…」
いけない！年上の私が下の子困らせて何やってるんだろ。
「わ、私、向こうにいた頃はお風呂とか無かったから楽しみだな~」
「そ、そうですね。私もお風呂久し振りです」
明らかに気を遣われてる。もう少し上手く話せよ私！
「…入ろっか」
「…はい」
私と龍可ちゃんはタオル1枚を巻いて浴場に入った。昔ながらの銭湯といった風情で、壁にはタイルで山の景色が描かれている。ここが海賊船の中とは思えない。私は体を洗ってから湯船に浸かるので、先にシャワーが備え付けられている洗い場に来た。
「隣、いいかしら？」
「へっ…？あ、どうぞ」
私に話し掛けてきたのはアキさんだった。私と歳が近いとは感じさせないくらい大人っぽい見た目の女性だと思う。私もこんな見た目の女性になりたかったな。
「良かったら背中を流しましょうか？」
「え？はぁ…いいですけど…」
あれ？私何OKしちゃったんだろ？自分でも咄嗟に答えてしまった。今更やっぱりいらないとは断れないし…。私はアキさんに背中を差し出す。スポンジと泡の感触が背中を撫でる。
「でもアキさん。どうして急に？」
「ちょっと話したくってね」
そう言えばアキさんとは初めて話をする。初対面はあの時だったが、私はサイコ･デュエルディスクに乗っ取られて話す場合ではなかった。
「あの時は…本当にごめんなさい…」
「そのことはいいわよ。あのデュエルディスクのせいだって動画で分かったことだし。それよりも私の方こそごめんなさい…」
「どうしてアキさんが？」
「私がちゃんと止めてれば貴女をもっと早く助けることが出来たかもしれないのに…」
「いえ…私の方こそ」
少し気まずい沈黙が続く。やっぱりまだ、あんなことした酷い奴とか思われてるのだろうか？
「……もう私も仲間…ですよね？」
「…フフ、やっと言ってくれた」
「え？」
「そうよ。私達はもう仲間同士。辛いときがあったら頼って欲しいわ。その時こそ貴女を助けたいから」
仲間…。今までそんなものはなかった。だけど、こうして私のことを認めてくれる人がここにはアキさんだけじゃなく、たくさんいる。安心して自然と口が綻ぶ。
「じゃあ、謝りあうのも…変…ですかね」
「そうね。もう仲間同士なんだし。あの事は水に流しましょうか」
「お風呂場だけに？」
「アハハ。美羽さん、面白いわ」
私はまた一歩、暗い自分から脱却出来たような気がした。
「そうね…。歳も近いし私のこと、呼び捨てでいいわ。敬語もいらないし、私も美羽って呼びたい」
「そう…ですか？…今度は私が背中を流すよ、アキ」
「じゃあ、…美羽。お願い」



~明日香 サイド~

「明日香おねえちゃん、いいなー」
「アユちゃん。どうしたの？」
湯船に浸かってる時、アユちゃんも加わり唐突に話し始めた。
「だって吹雪おにいちゃんみたいにカッコいいおにいさんがいて」
まぁ兄さんは外見はいいけど。
「そうかしらね？」
「えー！だって、やさしいし、カッコいいしデュエルつよいし良いところばっかりじゃないですかぁ！」
「うーん。でも実際妹だと疲れることが多いのよ」
「そういうものなのかなぁ？」
「あら？明日香さん」
「アユちゃんもいたのね」
そこに現れたのは璃緒さんと龍可ちゃんだった。
「どんなお話をしてたのかしら？」
「えーっとね。明日香おねえちゃんのおにいさんカッコいいねって話してたの」
「吹雪さんのこと？たしかに」
「それにユーモアもありますし」
「そうかしらね？振り回されたりして大変なのよ。私は凌牙くんくらい落ち着いてた方がいいわ」
「そうでしょうか？凌牙はあれでも子供っぽい所がありますし」
「龍亞もおっちょこちょいな所直してくれればいいんだけど」
兄を持つ人には必ず悩みがあるみたいね。そう言えば、
「他にもお兄さんいたわよね？」
「えぇ。Ⅳがそうですわね」
「克也おにいちゃんにも妹いるって聞いたことあるよ」
「黒咲さんにもいるって。なんでも柚子さんに似てるって言ってたわ」
Ⅳくん、城之内さん、黒咲…。なんだか普通の兄っていないものね。



~Ⅲ サイド~

「ここは…こう、ですかね」
「なるほど。そう来ましたか…」
僕は銭湯が空くまでの間、又左衛門さんに将棋というゲームの相手をして貰っていました。和製チェスと言った感じで中々の戦略性を必要とする。

パチ、パチ、パチ

「これで詰みですぞ」
「あ！」
しまった…。いつの間にか王将自体と行き先全てに又左衛門さんの駒の行き先が重なって動かしても取った駒を出しても回避できない。
「参りました…」
「いやいや。Ⅲ殿も初めてにしては中々。こちらも教え甲斐がありますわい」
「そうですかね」
確かに面白いゲームでした。帰ったらⅤ兄様にも。……いや。そもそも僕達は帰れるのだろうか？事件の真相と黒幕は判明したが、現状は手の打ちようがないという、もどかしい感じだ。
「Ⅲ殿」
「あ、はい」
「慌ててはなりませんぞ」
「え？」
まるで見透かされたような感じがした。
「私の生まれた村にはこんな言葉がありまする。『千里の道を急ぎ見れば五歩先の石に転ぶ』と」
「それはどういう意味でしょうか？」
「不安や焦燥に駆られ事を急ぐと目先の事で痛い目をみるということです」
その瞬間、僕は思った。僕もこのまま焦って単独行動を起こせば石で転ぶことになるのではないかと。
「又左衛門さん。ありがとうございます」
「なぁに。伊達に長くは生きておりませんわい」

コンコン

不意にドアがノックされた。
「はーい。どうぞ」
「失礼します」
「玲子さん？」
「はい。女子はみんなお風呂から上がったのでそれを伝えに…」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえ。では、私はこれで」
玲子さんは用件だけ伝えて出て行く。
「それでは参りますかなⅢ殿」
「はい」
そうだ。焦ったって事態が好転することはない。いずれ帰る方法も見つかるだろう。そのくらいに未来を見据えて考えるのも悪くないだろう。