第54話　姉と弟　作：ター坊

ーー ーくん。


ゆ-ーーん。


ゆう君！


誰かが俺を呼んでいるのか？目を開けると横向きになった向日葵が咲いている。ここは…
「ゆう君！起きて！」
「…！ミライ…姉さん！？」
俺は慌てて飛び上がる。どうやら今までミライさん、…いや、ミライ姉さんの膝枕で横になっていたようだ。
「俺は確か、見たこともないシンクロモンスターに吹っ飛ばされて…」
「そうよ！それで気絶して…あれ？ゆう君、今お姉ちゃんのこと…」
「うん…。言う通りDVDを観て、全部思い出したよ…」
「ゆう君！」
「姉さん！ごめんなさい！」
「え？ゆう君…？」
「俺は、俺は…！！」


そうだ。俺は自分勝手だった。




目の前のミライ姉さんとDVDのミライ姉さんは何も変わりないのに、俺は子供から大きくなっている。この理由は単純だ。もう姉さんの時間は止まっているからだ。


あの映像は俺がワガママを言って部屋を出たところで終わっていたが、あのあと、続きがある。



大会が終わって帰路につく途中の移動バスでのことだ。俺は姉さんとの約束で優勝トロフィーを持てるはずだったのにとまだ頬を膨らませていた。この時点の自分を殴ってやりたい。
「ゆう君、機嫌直して？ね？」
「ふーんだ」
姉さんは困った顔で俺と話していた。バスがサービスエリアでトイレ休憩をするために停まった。
「あ！そうだ！ねぇ、ゆう君。ここのソフトクリーム美味しいのよ？お姉ちゃんと一緒に食べよ？」
「ソフトクリーム？うーん」
子供ゆえの単純さか。ソフトクリームの言葉に誘われてホイホイ付いていく。


ビターーン！
「いたいよぉ~！」
「あら？ゆう君！大丈夫！？」
アスファルトの道で躓いて転んでしまった。
「や～だ！もうあるきたくなぁ~い！」
「ゆう君…。…ねぇ、ちょっと悪いけどゆう君看てくれる？」
「え？でも先輩が傍に付いていたら弟くんも安心するんじゃ…。ソフトクリームくらい私が…」
「ううん。いいの。ソフトクリーム買ってくる約束くらい、果たさないと…」
俺はこの時、擦り傷が痛くてワンワン泣いてたけど、今、思い出すと姉さんはすごく傷付いてたと思う。あの時、俺にウソつきと、大嫌いと言われて。だから自分で行ったんだ。俺を笑顔にさせようと。


ブオオォォオォォ、ガッシャーーン！！



「せ、先輩！」
「ミライ！」
その場は騒然とした。1台の車が物凄い速さでソフトクリームを販売している店に突っ込んだのだ。後々の調べで、高齢者ドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えた事故であることが判明した。これによってドライバーと店員･客数人が大怪我を負った。けれど、姉さんは車に直撃して…。




「…。姉さん、本当にごめんなさい…」
「ゆう君、いいのよ…」
「良くない！俺が姉さんを…、ねえさんを…！」
俺は涙ぐみながら叫んでしまう。
「ゆう君…」
「姉さんは最強のデュエリストだ！現にあのデュエルだって見事に勝った！それなのに俺は…！」
「…ゆう君。こっちに来て」
姉さんは俺の腕を引っ張り、向日葵畑の道を進んでいく。
「姉さん？」
俺が連れてこられたのは開けた場所だった。
「ゆう君。久しぶりに、お姉ちゃんとデュエルしない？」
「姉さん、俺はそんな気分じゃ…」
「してほしいの！」
「！？」
穏やかな口調からの怒鳴り声に俺は驚いた。
「あ…。ごめんね…。けど、お姉ちゃんが最後にしたいことなの…。ゆう君との最後の思い出に…。けどダメだよね…。大嫌いなお姉ちゃんとは…」
けれど、すぐしょんぼりしてしまった。

俺は思う。

俺はまた自分勝手な気持ちで姉さんを傷付けるのか？

もう既に後悔したはずだ。それを繰り返すのか、俺は。

「いや、俺こそごめん…。気分じゃないって、こんな身勝手じゃ、あの時のワガママな子供の時のままだな…」
「ゆう君…」
「姉さん、やろう！それに姉さんのこと、嫌いじゃないよ。初めてこの向日葵畑で会った時、ぎゅっと抱き締めてくれたあの時、とても懐かしかった……。嫌いならそんな感情にならないさ！」
「ありがとう、ゆう君…。でも、手加減しないわよ！」
「ああ！」
俺と姉さんの腕がほのかに光り、その光が弾けるとデュエルディスクが装着されていた。
「デュエル！！」