第88話　初めての会話　作：ター坊

俺がトイレから部屋に戻るとあの子は起き上がっていた。
「お。ようやく起きたか」
その子は俺と目が合うと少しビクッと震えたような気がした。
「自己紹介がまだだったな。俺はユイって言うんだ。君は？」
「…！！」
俺がそう訊くと彼女は掛け布団にくるまってしまった。
「あれ…？」
恐がらせちゃったかな？俺がデュエルした時はこっちが恐かったけど。たぶんこれが素の性格だろう。やっぱりあのデュエルディスクが人間をおかしくするようだ。
「……分かった。気が向くまで待つよ。俺は外で待ってるから」
そう言って部屋を出た。
「あらユイ。あの子起きたの？」
「舞か。あぁ、起きたよ。怯えてるようだけどな」
「怯えてる？あの子が？」
「たぶんデュエルディスクが抜けたせいだろう。今のところ何も聞けないだろうと思ってほっとくことにした」
「へぇ、そうなの」
「ところで、船の調子はどうだ？」
「今メアリーとアポリアが診てるけど、まだ分からないわ」
「そうか。動けば便利なんだけど…」
船は不時着という形でこの世界にやって来たのだ。壊れてなければいいが…。

カチャ…

後ろからドアが少し開く音がしたので振り向くと、あの子がこちらを隙間から覗いてるようだ。あの子もそれに気付いてすぐに扉を閉めた。
「んじゃ、行ってくる」
「何か聞けると良いわね」
俺は舞に見送られ部屋に戻った。


部屋に戻ると、あの子は掛け布団から顔を覗かせこちらを見ている。
「ちょっとは話す気になったみたいで嬉しいよ」
「…はい」
か細い声で答える。
「何度か会ってるのに、こうして話すのは初めてだな。とりあいず名前聞いてもいい？」
「……桜城 美羽です」
「そっかそか、美羽ね」
「…えっと」ｳﾙｳﾙ
「へ？」
やべ。なんか泣きそう。
「ごめんなさい…。ごめんなさい」
「どうして謝る？美羽は何も悪いことしてないだろ？」
「でも…私は……色んな人に酷いことを…」
「あの時のこと、覚えてるんだ…」
「それにユイさんには…」
「まぁ…確かに…。だが、美羽が自分から進んでやった訳じゃないんだろ？」
「ほんとうにごめんなさい…」ﾋｯｸ,ｴｯｸ
「お願いだから泣くなよ…。こっちまで悲しくなるって…。そう言えば体は大丈夫か？最後にデュエルした時、血吐いてたけど」
ｸﾞｽﾞｯ,ﾋｯｸ「…はい。なんとか」
「そうか。それは良かった」
さてと…。体も精神も問題なさそうだ。けど本題を聞き出すにはまだ少し早いかも。
「そう言えば…荷物見たんだけどさ…。デッキとかデュエルディスクあるってことは美羽もデュエルやるの？」
「デッキ…！」
美羽は何かハッとした様子でカバンを手にとってデッキケースを取り出し、中のカードを猛烈なスピードで確認する。
「良かった…。ある…」
「いや、デッキの中とかは見てないぞ。そのデッキ…余程大事みたいだな」
「はい…。とっても…大事です」
ほっとした表情を浮かべる美羽。
「それとさ。中にUSBメモリがあったけど、何か入っているのか？」
「それは…アイン博士が入れてくれた物です」
「アイン博士？」
「私がお世話になった人です…。アイン博士は私を拾ってくれた人に見せろと言ってました…」
「ふーん」
前回立てた筋書きが真とするならば、そのアイン博士という奴が美羽をマスターDから逃がしたということになる。マスターDが美羽の奪還に遊戯と遊矢を向かわせるほど躍起になったならば、逃がした張本人のアイン博士もタダでは済まないだろう。それほどのリスクを負ってまで美羽を逃した理由とは一体…？
「見せろと言うなら、見てみるか」
俺は自宅から持ち出したパソコンを起動させUSBメモリを差し込んだ。メモリ内には動画ファイルがある。俺はそこをクリックした。




~アポリア サイド~

「アポリっちどうや？」
「うむ…」
ワタシはメアリー･シャーロットと共に船のエンジン部分に来ている。
「見た目は壊れた様子ないんやけど…」
メアリー･シャーロットの話によればこの世界に来たときに操縦不能となり、不時着という形になってしまったらしい。ワタシもⅢ･Ⅳの兄弟も故障で元の世界との連絡も帰還もできなくなった訳だが、この船もだろうか？外部から来た人間が悉く帰る手段を失うのは偶然にしては府に落ちん。この世界が何らかの影響を及ぼしていると見るのが自然か。
「よっしゃ！動くで♪」
ワタシが思考しているうちにメアリー･シャーロットがコントロールを操作し、機械が稼働する。これでこの世界における貴重な移動手段が




「ボイラーが動いたから風呂に入れるで！」
なん…だと！？