第72話　姫君の決意　作：ター坊

アルカディア･ムーブメントにて迷宮兄弟･恋する乙女は無敵連合との戦いを終え、俺達の手には緑と赤のIDカードがある。柴田の話ではあと2枚、二人の門番がいる訳だが…。


「グワァァ！」
「勝てるわけねぇ！」


上の階から悲鳴がこだまする。
「なんでしょう？」
「俺達と門番以外に誰かいるのか？」
俺達は階段を駆け上がり、『第三ノ関』と書かれた貼り紙のある扉を開けた。

バンッ！

「なんだ！」
そこにいたのは銀色のコートのようなものを羽織ったデュエリストであった。こいつが門番なのか？
「あんた！海馬！？」
「舞、知り合いなのか？」
「知り合いって言うか…」
「おい、孔雀舞。これはどういうことか説明しろ」
海馬の話によると、会議の途中に雷に遭い…まぁ、あとはだいたい一緒だ。俺達は事の経緯を一通り話したが…。
「フゥン。そんな非科学的な話、真に受けると思っているのか？」
「いや、俺達は事実を…」
「喚くな」
ﾋｿﾋｿ「なぁ、舞。海馬ってこんな奴なのかよ？イラッとくるぜ」
ﾋｿﾋｿ「まぁ、ああいう奴ね」
ﾋｿﾋｿ「うーん。僕も噂や資料で見たのとだいぶ違う印象だね」
「聞こえているぞ」
「そうだ！ここに他のデュエリストいなかったか？」
「あぁ。カードプロフェッサーのハイエナ共がいたが、蹴散らしてくれたわ」
「え？」
さっきの悲鳴は門番達のものだったか…。待てよ？門番がいないってことは…
「IDカードは？」
「大変です！それがないとお春さんが…」
「IDカード？あのハイエナ共が落としたコレか？」
海馬は得意気に青色のIDカードを見せつける。
「それだ！それをくれないか？」
「断る」
「なっ！てめぇ何様のつもりだ！」
「貴様らの言うことを聞かなければならない道理など、俺にはない！貴様らもデュエリストならば己の力で望みを勝ち取ったらどうだ？」
「むぅ。なんたる暴言…」
「おい、海馬とかいうの。俺が相手をしてやる」
黒咲がデュエルディスクを構える。
「……お待ち下さい、黒咲様」
「なんのつもりだ？」
「私がこの勝負…引き受けます」
黒咲を制止したのは遊月さんだった。
「姫…！」
「八兵衛…。どうか見届けて下さい」
「遊月さん…。どうして急に？」
「ユイ様。私の身勝手をお許し下さい。けれど、海馬様の言葉で私も戦わねばと思ったのです」
「どういうことだ？」
「私は…お春さんを助けたくてここに参りました。しかし、式霊決闘は皆様に任せきりで…自分が不甲斐なく思えるのです。私にも…戦う力があります！私も、自分の力でお春さんを助けるという望みを叶えたいのです！」
「遊月さん……」
「でしゃばったこととは思います…ですが…！」
「分かった。やれるならやればいい」
「……！はい！」
遊月さんは大きな声で返事をし、海馬の前に立つ。
「遊月ちゃん。海馬はあんなんでも最強クラスのデュエリストよ。気を付けて」
「舞様、ありがとうございます」

「フゥン。茶番は済んだか？」
「お待たせしました。…徳川家雅が娘、遊月、参ります！」
そう言って遊月さんは水葵の印籠を宙に投げた。空中で印籠はカチャカチャと変形し、デュエルディスクのような形になった。
「八兵衛さん。あの印籠って…あんたらの決闘籠手になるのか？」
「左様。あれこそ水葵の印籠の真の姿ですが、拙者も実物を見るのは二度目です」
「綺麗な装飾ね…」
「あれは蒼海の宝珠と呼ばれるもので、水の巫女の一族に伝わる秘宝と聞き及んでおりまする」
「デュエル！」

先攻:海馬

「俺のターン！俺は『ブラッド･ヴォルス』を召喚！カードを1枚伏せてターンエンドだ」
「私の番、参ります！私は『水鏡の白鳥ミナモ』を召喚します」
静かな波紋から現れたのは白い水鳥のようなモンスターだ。
「攻撃力0だと？」
「私は『水鏡の白鳥ミナモ』の効果を発動します。この札を守備表示にすることで相手の山札の一番上の札を墓地に送ります」
「フン。たかが1枚、くれてやるわ」

ﾋﾟｼｬ『亜空間物質転送装置』

「私は戦場魔法『水鏡の池』を発動し、札を四枚伏せて終わりです」

「なっ！手札を全て伏せたのか？」
「遊月さんの戦術、読めないわね…」

「俺のターン、ドロー！どんな戦術だろうとねじ伏せてくれる！俺は魔法カード『コストダウン』の効果で手札の『青眼の白龍』を墓地に送り、手札のモンスターのレベルを2下げる。これにより、俺は『ブラッド･ヴォルス』を生け贄に捧げ！いでよ！『青眼の白龍』！！」

「出たか…。海馬の切り札！」
「生の『青眼の白龍』…。初めて見るね」

「さらに魔法カード『死者蘇生』により、先程手札コストにしたブルーアイズ復活！バトルだ！雑魚モンスターを粉砕しろ！この時、永続罠『竜の逆鱗』を発動し、貫通効果を付ける！」

青眼の白龍 ATK 3000 VS 水鏡の白鳥ミナモ DEF 700

「うっ…！けれど『水鏡の池』の効果で攻撃力が零の水属性の式霊は破壊されません…」
「ならばもう一撃食らうがいい！」
「罠札を発動します。『水鏡の写し身』。これで『青眼の白龍』の攻撃を無効にし、同じ星の写し身となって特殊召喚します」
『青眼の白龍』の攻撃は水に弾かれ、飛び散った水の飛沫が集まり『青眼の白龍』と同じ姿になった。
「ブルーアイズの写し身だと！？だが攻撃力0のコピーに何ができる！俺はこれでターンエンドだ」

遊月:LP 5700
海馬:LP 8000

「私の番、行きます！私は伏せ札『水鏡の呼び水』を発動！これで相手の式霊を一体選択してその星の合計と等しくなるように攻撃力零の水鏡の式霊を山札より特殊召喚します。私はその龍を選び、星二の仲宇那阿『水鏡の踊り子シズク』二体と星四の『水鏡の幼龍アマグモ』を特殊召喚！さらにミナモを攻撃表示に戻し、効果発動。守備表示にして再び山札の一番上の札を墓地に」
「またか」
「まだです。さらに伏せ札を発動。『水鏡の波紋』。この札の効果で相手の山札から墓地に札が送られた場合、追加で私の場にある水鏡の札の枚数分墓地に送っていただきます」

「今、遊月ちゃんの場には水鏡モンスターが5体…」
「それにフィールド魔法とあの永続罠自身も含めると合計7枚…」
「一気に削れるな…」

「おのれ…！戦いもしないとは貴様、ふざけているのか！」
「…確かに式霊決闘において、この戦い方は卑怯と蔑まれても仕方ありません…。けれど、誰も傷つけたくないんです…。私は私の戦い方で貴方様に勝ち、望みを叶えます。私は星八の『水鏡の写し身』に星二の『水鏡の踊り子シズク』を仲宇仁愚！命の始祖(みなもと)たる水の守り神よ。私の祈りに応え、力をお貸しください。秦苦露召喚！『水鏡の神龍アデラノナナタキ』！」
『水鏡の池』から上がる噴水の轟音と共に現れたのは巨大な水龍だった。
「さらにシズクの効果発動。この札が秦苦露素材として墓地に送られた場合、相手の山札の上から三枚を墓地へ。さらに星二の『水鏡の白鳥ミナモ』と星四の『水鏡の幼龍アマグモ』に星二のシズクを仲宇仁愚！秦苦露召喚！『水鏡の舞姫ナチノ』！」
池に美しい巫女衣装の少女がふわりと降り立つ。
「私はシズクの効果で再び山札から三枚を墓地へ。さらにナチノの効果発動。これでさらに一枚を追加で墓地に送ります」

「遊月さんの戦術はデッキ破壊だったのね…」
「このターンで墓地に送られたカードは15枚…。海馬瀬人のデッキが40枚として…」
「初期手札やドローも含めるとあと18枚ってところだな…」

「私はこれで終いとします」
「俺のターン！俺は認めん、認めんぞ！俺は速攻魔法発動！『エネミー･コントローラー』！！上下左右下下上ABC！このコマンドにより、貴様のドラゴンを攻撃表示に変更する！いたぶってくれる！行けブルーアイズ！こうげ…」
「戦闘前に罠札を発動『水鏡の静寂(しじま)』を発動します。これで全ての式霊を守備表示にし、守備表示になった式霊の枚数だけ相手の山札から札を墓地に送ります。よって三枚を墓地にお願いします。さらにナチナの効果でもう一枚墓地へ」
「くっ！だが貴様を倒すのに13枚あれば充分！次のターンで叩き潰してくれる！」
「…いいえ。残念ながら海馬様の番は来ません」
「なんだと？フン。つまらん冗談だ。俺はこれでターンエンド！」
「この瞬間、アデラノナナタキの効果が発動します」
水龍は大きく吼える。
「この番の終わりまでにアデラノナナタキが攻撃されなかった場合、相手の場の式霊の星の数だけ山札から札を墓地へ」
「ば、馬鹿な…！」

「ブルーアイズ2体の合計レベルは16…」
「これで海馬のデッキは…」

「私の番…。このまま終わります」
「くっ…！！」







「海馬のデッキはもうない…。遊月ちゃんの勝ちね」
「伝説のデュエリスト相手にデッキ切れで勝つなんて。遊月姫…やるね」
「姫…！お見事でございまする！」
遊月さんのデュエルを見てみんな賞賛を送る。確かにデッキ破壊という戦術は初見では対応しづらく、俺も海馬と同じ立場に立ったとして勝てる自信はない。けれど、争いを好まない遊月さんにとってバトルを介さないのは遊月さんらしい。
「あの…海馬様……」
遊月さんは勝った後、海馬に歩み寄る。
「私達にどうかその青い札を譲ってください。お願いします」
「フン。勝ち方はどうあれ俺を下したのだ。今は言う通りにしてやろう」
海馬はヤケクソ気味に青色のIDカードを遊月さんに突きつける。
「ありがとうございます海馬様。…そうだ！よろしければ海馬様もご一緒に」
「断る。貴様らとの仲良しごっこに付き合う気はない。俺は俺の道を行く」
海馬はそう言い捨て、立ち去ってしまった。
「……私、何か気に障ることを言ってしまったのでしょうか…」
「あー大丈夫大丈夫。海馬ってああいう奴だから。遊月ちゃんはなーんにも気にしなくて良いのよ？」
「ま、そうだな。俺達ともセリが合いそうもないしな」
「クロウ…。それを言うなら反りよ」
何はともあれ、これで4枚中3枚のIDカードが手に入ったのだ。やはり、最後の敵は柴田だろうか…？俺達のお春さんを助ける戦いも恐らく次で最後だろう。気を引き締めて行かなくては！