第185話　最後の言葉　作：ター坊

~ユイ サイド~

遊戯との決勝戦！と思った矢先に起きた大地震。メアリーの話によれば次元の時化が終わった後に荒れた次元が元の形に戻ろうとする引き潮的なものらしい。俺達は急いで船に乗り込み、事なきを得たが地上は大変な事になっていた。
「見て！舞網スタジアムが！？」
「嘘だろ！？ペガサス城まで！！」
「アルカディア・ムーブメントも…」
窓からの光景に各々驚きの声を挙げる。この世界にやって来たそれぞれの世界の建造物が風船のように浮かび、虹色に揺らめく空の彼方に消えていく。
ｶﾞﾁｬ【みんな聞いとるか？これから次元の海に入るからちょい揺れるで】
船内に響くメアリーのアナウンス。全員がその声に応えて椅子に座ったり壁に引っ付いたり姿勢を安定させようとする。


グゴゴゴ、ゴン！ガン！

古い電車のような揺れとエレベーターに乗った時の何とも言えない浮遊感を味わうが、そう長くはなかった。大した騒ぎもなく船は止まっている時のような平静をすぐに取り戻した。
「きれい…」
女性陣は窓から次元の海を眺める。３６０度オーロラに囲まれたような幻想的な景色は確かに綺麗だった。
「みんな無事かい？」
船を操縦していたメアリーが広間に戻ってきた。
「あれ？操縦は？」
「ああ。今はオートで航行しとるから大丈夫や」
さすがは次元の海を渡る海賊。余裕といったところだ。
「ところでメアリー。私達はどのようにすれば元の世界に帰れるのだ？」
アストラルが最もらしい事を訊ねる。
「ああ。それはな…」







メアリーの話を纏めると次元の海を旅する方法は２つある。ひとつは長年の勘と経験で世界の出入り口を手探りで見つける事。そしてもうひとつが今回使うオブジェクトと呼ばれる手法だ。
異世界の物体は次元の海を旅する者からそう呼ばれており、それがそのオブジェクトがあった元々の世界へと導くというのだ。オブジェクトは生命体やその一部でなければ何でも良く、布の切れ端やガラクタでも充分行けるらしい。次元の海を旅する者はそのオブジェクトを消費して航海するのだ。

メアリーの粗方の説明も終わり、それぞれの世界の代表として数名のメンバーが船の操縦室に集まった。
「これが次元を渡る装置か…」
遊星がまじまじと眺める機械は思ったより小さく、柱の上に透明なドームが付いただけの簡素な見た目だ。
「まずどの世界から帰ろか？」
「…じゃあ僕達からで。これでも大丈夫ですか？」
先に出てきたのは遊戯だった。遊戯は腕に巻いてあるシルバーのアクセサリーを外した。
「ん。大丈夫や。じゃあその装置にセットし」
メアリーがパチパチと操作すると透明なドームが開き、遊戯はそこにシルバーをセットした。

ピュルルリ、ギューン

読み込むような電子音の直後、シルバーは跡形もなく消え去り、船が少し揺れる。
「うおっ！？なんだなんだ！！」
「遊戯っちのシルバーが遊戯っち達の世界に連れてってくれとるんや。あっという間に着くで」
グイーンと加速するような感覚でつんのめるがそれはすぐ止み、外の景色も変わっていた。
「ここは…童実野埠頭だ！」
「ああ。決闘王国の時に見た風景だぜ」
「夜になってるみたいだけど…大丈夫なの？」
「そら時間の流れは違うからな。ちょい待ってな」
舞の言葉にメアリーは何かを機械に打ち込む。
「…舞っち大丈夫や。ウチらはユイっちの世界で一月半くらい過ごしてたけど、こっちじゃ相対次元時間が1:15やからそんな日は経っとらんで」
「えっと…つまり……どういう事だ？」
城之内はピンとこないようだ。確かに相対次元時間とか言われても俺にもよく分からない。
「はぁ…つまりここは自分らがディヴァインに連れ去られてからだいたい３日後の世界っちゅう事や」
「僕たちが消えて３日後の世界…」
「へぇ。あんな大冒険もたったの３日扱いとはね」
なるほど、ＳＦ小説とかの浦島効果みたいなものか。
「まぁ時空酔いでしばらく調子狂うと思うけどすぐに治るから安心しぃや」
そんな海外旅行感覚の弊害なのか。まぁそれで済むなら安いもんだ。



遊戯達の世界に降り立って数分後。この世界にいるべき人間は船から降り、俺達と最後の言葉を交わす。

「遊戯さん。それではお達者で」
「うん。ありがとう、遊星くん」
「うーん、でもユイと遊戯さんの決勝戦見たかったなぁ！」
「遊馬。あまりワガママを言うのは賛成しない」
「かぁー！でもホントそうだよな」
「でも時間がないんじゃ、しょうがないですよ」
「遊戯」
「ユイくん。長い間、どうもありがとう」
「どうしたしまして」
ﾊﾟｧァ
「ユイくん。君も自分の世界でデュエル王を目指すんだな」
「ああ。誰にも負けない、お前みたいに伝説と言われるくらいのな」
「ああ。世界は違うが応援してるぜ！」

「じゃあね玲子さん」
「はい。美羽さんもお元気で」

「舞様、色々御指南、ありがとうございました」
「フフフ…遊月ちゃん良いわよ。…ま、これからどうするか知らないけどさ、自分の気持ちをぶつけてみな」
「…はい」



別れの挨拶を終えて俺達は船内に戻った。窓から覗くと遊戯達はまだ船をじっと見ていた。
異世界からやって来て、同じ世界で同じように生きた、時には傷つけ合いながら共に戦い抜いた仲間達。その最後の姿を焼き付けるように俺も眼下の遊戯達を見つめる。船が動き出して遊戯達はみるみる小さくなって肉眼ではっきり見えなくなってきたが見ることは止めなかった。船が次元の海に突入して、俺はやっと窓から離れた。



こんな感じで他の仲間達とも別れていった。


十代達ー
「ユイ。世話になったな。この万丈目サンダーに勝った以上、無様な負け犬になるのは認めんからな！」
「さらばナノーネ！たとえ僅かな間デーモ、君達もワターシの生徒だったノーネ！！」
「ユイくん。遊月姫と美羽ちゃん、大切にするんだよ」
「もう会えないだろうけど今回の経験、決して忘れないわ。元気でね」
「ガッチャ！楽しい時間だったぜ。じゃあなユイ！」


遊星達ー
「さらばだ異世界のデュエリスト達よ」
「じゃあね美羽。大丈夫。貴方にも私達みたいな素敵な仲間、きっと見つかるわ」
「さようならユイさん！今までありがとうございました！」
「あばよお前ら！このクロウ様を忘れんなよ！！」
「ありがとうなユイ。俺達は俺達の未来を進む。ユイも自分の望む未来を進んでくれ」


遊馬達ー
「今回の事件、最高に良いノリだったぜ！あばよ！！」
「俺様のファンサービスをもう味わえなくて悔しいでしょうねぇ？」
「ま、そこそこ世話になったしな。…礼は言っとくぜ」
「ありがとうございました！皆さんもお元気で！」
「ユイ！俺もユイみたく最強のデュエリスト目指すぜ！一緒にかっとビングだ！！」


遊矢達ー
「とんだ道草になったが、無駄ではなかったぞ」
「じゃあねみんな。ミエルを忘れないでよ？」
「この男 権現坂、得難い経験と多大な恩、まことに感謝するぞ！！」
「それじゃあユイさん。美羽さんと遊月さんといつまでもお幸せに」
「ユイさん！俺、次元戦争を止めます！ユイさんがカオスジェネレーションシステムを止めたように、世界を笑顔にする俺なりのやり方で！」



みんなみんな、笑い、泣き、色んな表情を見せながら、進むべき道を歩むためにそれぞれの世界に帰っていった。
そして一番来てほしくなかった時間が来る。









戦国時代ー

ここに来るのは２回目だ。最初の時は夜の朽ちた城と不気味だったが、今はだいぶ違う。
俺達は遊月がいた城、魅河城近くの丘に着陸した。陽気な夏空の下、崩壊した城には木の足場が張り巡らされ修繕が行われているようだった。
「ユイ殿。お久しぶりで」
船が着陸したと同時に出迎えてくれたのは明智影政だった。遊月達がいない間、徳川家再興のために城の修復や魅河の国の治安維持を指揮していたと言う。
「あまり具合がよろしくないようですが…」
「…まぁな」
俺はふと遊月に目をやる。
「メアリー様、今までありがとうございました。これはお約束の蒼海の宝珠です。…ただ半分に減ってしまいましたが…」
「別にええよ。…それよか」
メアリーは蒼海の宝珠（=ノーレッジ・サファイア）を受け取ると俺にチラッと視線をやった。たぶん最後に話をしいや、とでも言いたいのであろう。
「…なぁ、遊月」
「…」
「ほら見てみろよ。城は直されようとしてるし明智さんだって力を貸してくれてる。もう平和も近いんだし俺がいても」
「なりません」
「…」
「確かに織田家は滅び、一時の平和を得ました。けれどいつまた戦乱が来るか分かりません。私はユイ様をそんな事に巻き込みたくありませんし、徳川の姫として民を」












ｼｬｷﾝｯ

「っ！」
遊月の言葉を遮ったのは意外なものだった。
「柳生…さん？」
「八兵衛…？」
柳生さんは夏の陽光に白く照る刀の切っ先を遊月の喉元寸前に突き立てた。