第158話　近づく最終決戦　　作：ター坊

~遊月サイド~

「…さてと。二人共、落ち着いた感じだな」
「はい…。ご迷惑をお掛けしました。早く合流しなくては」
そう言って立ち上がろうとしたら…

グラッ

「きゃっ」
「おっと」
体勢を崩してしまいそうになりましたがユイ様が優しく抱き起こしてくださいました。
「まだ少し疲れてるんだろ。あまり焦るな」
「…はい」
そう言われて長椅子に戻されました。
「そう言えばユイ。ここは一体どこなの？」
美羽様がそう尋ねました。そう言えば八兵衛や他の皆様の姿も見受けられません。一面のみが半透明な壁に囲まれた不思議な部屋です。
「ああ。ここは店の中にある喫煙室だ。他のみんなはその…まぁ、気を利かせてくれたというか…」
「そ、そうなんだ… / / / 」
そういうことだったのですね…。
「城之内達もまだ回復しきってないだろうし、気にすることはない」
「はい…」
そこで私はふと自分の印籠が気になりました。
「あの…ユイ様。私の水葵の印籠は…」
「それは…その…。マスターDが蒼海の宝珠を乱暴に取ったせいで粉々に…。宝珠も半分しか残ってないんだ」
「そうですか…」
どうしましょう…。これではメアリー様との約束が…。いえ、それ以前にもう戦うことが…。最後の最後で迷惑をかけたばかりか足手まといになるなんて…。自分が情けない…。

ｷﾞｭｯ

「そんなに思い詰めるなよ」
「え？」
そっと抱き寄せられていました。
「顔に書いてあるぞ。迷惑をかけて申し訳ないな…って。でも大丈夫。さっき柳生さんが言ってたけど予備用の決闘籠手を持ってるから、それを借りれば良いだろ。メアリーだって今日まで一緒に戦ってきた仲間だから、事情を話せば、きっと分かってくれる」
「そう…でしょうか」
「ああ。だからそう気を落とすなよ」
そう言ってユイ様は私の髪を撫でてくれました。


~美羽サイド~

寄り添ってる二人を見ると気持ちがモヤモヤする。これって…またヤキモチ…かな。
「…美羽はあの時、ぐったりしてたけど、マスターDに何かされたのか？」
「へっ？」
咄嗟にユイの言ったことに反応できなかった。
「えっと…うん…。これ…」
私は腕を見せた。
「これは…注射痕？」
「うん…。変な力で押さえられてるうちに、血を採られて…」
「はい…。私もそうはさせまいと抵抗しましたが、力及ばず…」
「そうか…。となるとマスターDは蒼海の宝珠だけじゃなくて美羽のバイオコードのデータとして血も奪ったのか…」
「…ごめんなさい」
「いや、誰も責められないさ。まさか敵のボスが女子トイレを強襲するなんて誰も思わないよ」
ユイはおどけた感じの笑顔で私の頭に触れた。
「それとさ…」
「なに？」





「また、妬いてる？」


「え？」
もう…。ユイって鋭いな…。
「…ちょっとだけ」
「そっか…。じゃあ…」
「え？」

ﾄｻｯ

私はユイにゆっくりベンチに押し倒されてしまった。
「きっと…同じくらい愛してるって言っても不安だろうから…。…嫌？」
私は小さく応える。





「ううん…」
「じゃあ…」






ちゅ…くちゅ…



「んあ…はぁ…」
すごい恥ずかしくて目を閉じてるけど分かる…。ユイの体が私に覆い被さるように重なっている温かさ。

ｸﾁｭﾑﾁｭ…ｸﾁｭｳ…ﾈﾁｭ…―

舌と舌、唾液と唾液が絡み合ってすごい音しちゃって…


ｸﾘｸﾘ　　ｻｯ

「ひゃうっ / / / 」ﾋﾞｸﾝ
うなじを指で押されたり、太ももを手で撫でられただけで体が反応して…変な声が出ちゃう。しかも…
「…」ﾄﾞｷﾄﾞｷ
すぐ後ろで遊月さんが見ていることが感情をさらなる高揚へと誘い、体が火照っていくのが分かる。


「ん。んふ…ぷはっ」
ユイが唇を離すと舌と舌の間にだらりと唾液が伸びた。
「美羽…信じてくれる？俺は確かに遊月が好きだけど、同じくらい美羽のことが好きってこと」
「はぁ…はぁ…」
私は興奮で声が出ず、小さく頷くことしかできなかった。
「じゃあ…次は遊月としちゃうけど、良い？」
私はまた小さく頷く。
「じゃあ…おいで」
「は、はい」
さっきのことを見たせいか、遊月さんの顔はすごい真っ赤になってた。今度は私が遊月さんみたく眺めるんだと思うと先程とは違った恥ずかしさが込み上げる。
遊月さんはユイの膝の上に跨がって唇を重ねた。
「ん。あぅ…んあ」
「んふ…ふぁ…」

ｸﾁｭ、ﾋﾟﾁｭ、ｸﾁｭｳ―

さっきの舌と唾液が絡み合う音もこんなに響いて聴こえてたのかな。先程の熱い感覚がぶり返して体温が上がるのが自分でも分かる。
ユイと遊月さんは体を密着させるようにお互いに腰や首の後ろに手を回していた。
「…ぷはっ」
「…はぁ…はぁ…あぁ…」
唇を離すと唾液の糸が逆さのアーチを描いて、程なく切れた。







ガラガラ

スライド式の扉が開く音がした。
「ジュースを持っ」
そこに立っていたには柚子さんだった。
「あの…えっと…」
「ああ。ちょっと落ち込んでいたからこうして励ましてるだけだ。あまり気にしないでくれ」
「は、はぁ…」
呆気に取られて立ち尽くす柚子さんに慌てる様子もなく、ユイは受け答えする。
「城之内と舞の様子はどうだ？」
「は、はい。だいぶ良いみたいです。もうすっかり元気というか」
「そうか。それは良かった」
「それでユイさん達は？」
「まぁ、俺は大丈夫だ。二人も肉体的な疲労よりみんなに迷惑掛けたっていう精神的な面で弱ってたみたいだけど立ち直ったし」
「そう…ですか…」
「差し入れのジュースありがとうな。これ飲んだら合流してジェットコースターの所に向かおう」
「は、はい。それじゃあ失礼しました」
柚子さんはそそくさと立ち去った。
「ふぅ…。さてと、じゃあジュースを頂くか。二人共、ちゃんと気持ちを落ち着けなきゃな。顔…すごくエッチな表情だから」
「ふぇ！？」
「ひぅ…」
ユイのいたずらな笑みには敵わないや。






~アストラルサイド~

「いくぜ！『Ｈ-Ｃエクスカリバー』で攻撃！一刀両断！必殺真剣！！」

Ｈ-Ｃエクスカリバー ATK 8000 VS サイバー･ダイナソー ATK 2500

「ぐあぁ！」
ゴーシュの見事なコンボが決まり、我々を包囲した龍牙を返り討ちにした。他の取り巻きも仲間のデュエリスト達によって蹴散らされた。
「さて、テメェのアクセスカードキー、寄越してもらおうか」
「くっ…！」
ゴーシュの気迫に圧されてか龍牙はアクセスカードキーをなかば自棄気味に我々に投げた。
「おっしゃあ！やったなゴーシュ！すっげぇぜ！」
「ハハッ！まぁな」




「いやー。実に見事だよ」
聴いたことのない声がした。その声は我々の後方から聴こえ、振り返る。
「あなたは…マスターD！」
十六夜アキが口にした名。それこそ我々が打ち倒すべき相手の名。すなわち我々が倒すべき相手が目の前にいる！
「マスターD！今すぐ俺とデュエルしろ！」
「慌てるな不動遊星。私は取引に来ただけだよ」
「取引だと！？ふざけんじゃねぇ！」
「…バクラ。それに鬼柳京介は裏切ったか」
「へっ！テメェを利用させてもらうって最初に言ったはずだぜ？」
「裏切っただと！俺はそんな気はさらさらない！」
「まぁいいだろう。さて、取引だが…」
マスターDは我々の怒号を意に介さず話を続ける。
「九十九遊馬。君とだよ」
「なっ！俺と！？」
「君が持つ皇の鍵を渡してもらおうか」
「何！ふざけるな！」
「ふむ…やはりか。ならガールフレンドとの交換はどうかな？あれを見たまえ」
マスターDの指差す先は向こう岸。そこには
「あれってまさか…小鳥！？」
なんということだ。船に留守にしていたハズの小鳥がなぜここに…？
「彼女の周囲には爆弾が仕掛けられていてね。このスイッチを押せば…君でも分かるだろう」
「くそっ！…絶対小鳥は返してくれるのか？」
「おい！遊馬！あのマスターDだぞ！まともに言うことを聞くとは思えねぇ！」
「けどよシャーク…。俺は小鳥を…仲間を見捨てることはできねぇよ！…マスターD！絶対小鳥を返せよ！」
「ああ。私は紳士だからねぇ。約束は守るさ」
「…っ」
遊馬は首に掛けていた皇の鍵を外し、それをマスターDに投げた。
「ありがとう。…おおっと」

カチッ

チュドーーン！！


突然の爆音が空気を震わせ、向こう岸が煙に包まれる。
「すまないね。間違えて押してしまったよ。『緊急テレポート』」
マスターDがカードをかざすと跡形もなく消えてしまった。
「小鳥…。小鳥ぃぃ！」
遊馬は叫び、川へと飛び込んだ。我々もボートを爆発した岸に寄せる。







我々が着いた頃には煙は晴れていた。そこには…。
「小鳥…じゃねぇ…」
「これは…！」
我々が小鳥だと思ったのは完全な思い違いだったようだ。
「これ…ただマネキンに小鳥っちぽい髪型のウイッグを被せただけやん」
「ちくしょう。まんまと騙された訳か…」
「みんな…。ごめん……。俺…」
遊馬…。
「気にするなよ遊馬」
「十代さん…」
「俺達はもうアクセスカードキーを３枚持ってるんだ。遊戯さん達が無事に回収してくれていたら全部揃ってマスターDをぶっ飛ばせるぜ！」
「ああ。それにマスターDが必要なものにはノーレッジ･サファイアと美羽のバイオコードもある。だからまだ手遅れではない。それに俺が同じ立場なら、同じことをしていた」
「遊星さん…」
落ち込んでいた遊馬の目に光が戻ってきた。
「遊馬」
「アストラル…」
「ここで立ち止まる君ではない。そうだろう？」
「…ああ！待ってろよ！マスターD！！」













お知らせ

次回からしばらく１周年記念企画掲載予定のため本編は一時お休みです。
記念企画はキャラクター募集締切から書き始めますので若干間が空きますが楽しみに待っていただけたらと思います。今後ともカオスジェネレーション、よろしくお願いします。