第119話　後押しされる恋路　作：ター坊

~メアリーサイド~

廊下を歩いて扉の前を通り過ぎようとすると、そっから誰かがすすり泣いてるような声が聞こえる。誰やろ？そう思って部屋をノックした。
「どないしたんや？入るで」

ｶﾞﾁｬ

部屋に入るとアキっちと美羽っちがおった。泣いてたんは美羽っちか。
「あれ？メアリーさん？」
「アキっち、なんで美羽っち泣いてるん？」
「いや、その…」
アキっちは困った様子で、美羽っちは俯いたまま泣いとる。何があったんやろ？
「えっと…。美羽。メアリーさんに話してもいい？」
アキっちがそう訊ねると美羽っちの頭は小さく縦に動く。
「実は…」
アキっちの話に耳を傾ける。
「…という訳なんです。私もそこまで経験なくて…。なんて言えばいいのか…」
「せやな…。ウチが言えそうなこと…」
ウチはベッドに腰掛けて考えてみる。ためになりそうな話…。せや。
「…昔のウチを見てるみたいやな」
美羽っちの体がピクンと動く。
「ウチがダンナに惚れたんは15の時、美羽っちと同じくらいやったな」
美羽っちは俯いた状態から、こちらを振り向く。泣いてたんか目ぇの周りが赤いわ。
「そんときダンナは39。歳で言ったら大人とガキやな」
「……メアリーさんはどうして…好きになったの？」
か細い声で美羽っちが訊ねてきた。
「…なんでやったかな？助けてもらった恩かもしれんし、憧れの人とずっと一緒にいたくなったからかもしれん…。まぁ全部ひっくるめてやな」
「……えっと…、その…断られたらどうしようって考えなかったの？」
「そら考えたわ。ナメたガキとして船から追い出されるかもしれんかったしな」
「それなのに…どうして？」
「そんときは多分そんなリスクよか好きっちゅう気持ちが勝ったんやろうな」
「好きっていう気持ち？」
「せや。美羽っちもユイっちのこと、好きなんやろ？」
「それは…そうだけど……」
やっぱ踏ん切りつかんか。
「それにな」
「それに？」
「たぶんユイっちなら大丈夫やろ」
「え？どういうこと？」
「だって美羽っちは元々は操られたとはいえ、ユイっちとは敵同士やったんやろ？」
「う…うん。でも、ユイはそんな私を許してくれて…」
「それで惚れたんやろ？」
美羽っちは少し頬を赤くして小さく頷く。
「ま、そんなことも許せるユイっちはきっと心の広い奴なんやろうな」
そう言えば、ウチが襲って返り討ちにあったときも、捕まりそうなところ、手荒なことはよしてくれ言うたっけ。
「そんなユイっちがや。美羽っちが言う背ぇや胸がちっこいからとか、変なもん描いとるからっていう理由だけで断らないと思うで」
「…そう……かな…」
「美羽っちが惚れた男やろ？心広いと信じて、気持ち言うたらええとちゃうんか？」
「メアリーさん…」
美羽っちの目ぇ、キラキラしだした。…少しは勇気出たんかな？
「まっ、頑張りぃや」
ウチが立ち上がって部屋から出ようとすると
「あの、ありがとうございました！」
美羽っちが礼を言うた。
「ええで。そんくらいの声でユイっちに大好きって言うてやり」
ウチはそう返して部屋をあとにした。



~舞サイド~

「ふーん。そういうことね」
「はい…。どうすれば良いのか分からず…。お手数掛けまして、申し訳ありません」
アタシは急にお春ちゃんに呼び出されて、遊月ちゃんの話を聴いていた。内密の相談っていうことで面白そうと思って乗ったけど…まさかこんな相談とは。
「…で？どうしたいの？」
「えっと…。確かに私はユイ様をお慕いしています。けど…」
遊月ちゃんは押し弱いからねぇ。…そうだ！
「じゃあ、アタシがユイに手を出しちゃおうかしら？」
「え？」
「アイツとも長い付き合いだしー、案外ユイも満更じゃないかもねー」
「そ、それはダメです！」
「あら？どうして？」
「確かに舞様の恋路を邪魔するのは良くないですけど、なんだか…上手く言えませんが、心が…嫌だと……」
「フフ…」
「舞様？」
「それが正直な気持ちじゃないのかしら？遠慮とか抜きの」
「え？」
「遊月ちゃん。アタシが手を出そうって言うのが嫌なら、ユイに迷惑を掛けるかもっていう遠慮も嫌だって言えるんじゃないかしら？」
「それは…」
「自分の気持ちのままにしてみたら良いんじゃない？」
「気持ちのままに？」
「そっ。それにユイだって今まで色々迷惑引き受けてた苦労人だからねぇ」
アタシは結構長い間、同行してるからね。全員分の食事の当番だったり戦いだったり…あいつの苦労は知ってるわ。でもアタシが見る限り一回も投げ出さなかった。
「遊月ちゃんのワガママくらい、笑って受け止めてくれるわよ、アイツなら」
「そう…でしょうか……」
「アイツはそういう意味ではイイ男よ？惚れた男ならワガママを受け止めてくれるって信じてやりな！」
「……はい！」
「よし！良い返事ね」
「ありがとうございました」
「あっ、そうそう」
「なんでしょうか？」
「告白するなら夜に…よ？」
「何故ですか？」
「夜は女の方が有利なのよ。じゃあ、頑張ってね♪」
アタシはそれだけ言って部屋をあとにした。



部屋を出てしばらく、メアリーと会った。
「あら？なんか機嫌良さそうね？」
「まぁ、ちぃとええことがあってな」
「へぇ奇遇ね。アタシもよ」
「そっか…。せや。お互いええことあったし、乾杯せえへん？ウチの部屋にワインあるんよ」
「あら？良いわねそれ。それじゃあ…ご一緒しようかしら？」
アタシはメアリーと一緒に祝杯をあげるために船長室へ向かった。他人の恋路を後押ししたあとの1杯はさぞ美味であろう、そう期待しながら―。