第25話　小休止　作：ター坊

「クソ！クソ！なんで勝てないんだ！しかもエクシーズを使う奴なんかに！！」
素良という少年は俺に負けたのが余程悔しいのか、苛立ちを隠すこともなくこちらを睨み付ける。
「もう一度勝負だ！もう一度勝負して僕の実力を…！ちっ！…分かったよ。お前、覚えてろよ」
「なっ！」
素良は急に冷めた表情をし、デュエルディスクをカチカチと操作したと思ったら、光の粒子となって消えてしまった。逃げたのか？取り囲んでいたオベリスク･フォースとかいう連中も同じように消えてしまった。
「みんな、大丈夫か？」
「えぇ…。なんとか」
「ユイさん！万丈目さんとゴーシュさんが！！」
龍可の呼び掛けで俺も二人に近寄る。
「アニキィ~！おねがい、死なないで~！」
「えぇい！うるさい！」
「万丈目、大丈夫か？」
「このくらいなんとも…っつ！！」
「あまり無茶するな」
万丈目は強がっているが脚は赤く腫れていて、歩くのが辛そうだ。骨は折れていないようだが、しばらくの安静が必要だろう。
「俺もそんなには…」
そう言うゴーシュも同様に脚が赤く腫れている上に多少切れて出血もしている。
「ユイ、どうするの？」
「うーん」
今後も追手が来るだろうから留まるわけにはいかない。だが怪我人を連れ回すのも酷というものだろう。はて、どうしたものか？

「すまねぇな、ユイ…」
「ゴーシュ、そんなに気にするな」
俺は結局、二人の治療を最優先としてDuelyに留まることにした。幸いショッピングモールということもあり、医療品や寝かせるベットも確保は容易であった。今は１階の寝具売り場にいる。
「だが良いのか？追手もある中で…」
「いいのよ~アニキィ~。オイラたちもたっぷり休めるチャンスなんだから~」
「おジャマイエローの言う通りだ。ここんところ連戦や逃亡でみんなバテ気味だったからな」
実際、バテているのは本当だし、他のみんなも賛同してくれた。
「だから、お前らもゆっくり休んでくれ」
「あぁ。そうする」
俺は二人がちゃんと休めるよう寝具売り場を離れた。

「ねぇ、ユイ」
「アキか。どうした？」
「あのオベリスク･フォースや素良という子供についてなんだけど…」
「あぁ…。コレな」
俺達がいるのは先程まで激闘を繰り広げていた3階のゲームコーナーだ。壁や床は深く抉れ、ゲームの筐体も潰れたり切り裂かれたりと滅茶苦茶に壊されている。
「まるでサイコデュエリストのような…」
「サイコデュエリストか…」
以前アキから聞いたことがある話だ。ソリッドビジョンの映像を具現化し、実際に物を壊したり、戦闘ダメージなどで対戦相手を傷つけることもできる、そんな恐ろしい能力である。現実にこの惨状や万丈目とゴーシュの怪我を見てもその線が濃厚だろう。
「…」
アキは沈んだ表情で黙りこんでしまった。
「どうした？」
「その…、私も同じ力を持っているから…。それで万丈目とゴーシュが傷ついたと思うと…私も恐がられる存在なのかなって…」
「…大丈夫さ」
「え？」
「そのサイコデュエリストってーのは…つまり…包丁みてぇなものだと思う」
「ほ、包丁？」
「そう。包丁は食材を切って旨い料理を作るためのものだ。けど、やろうと思えば人を傷つけたり殺すこともできる」
「え、えぇ…」
「要は使い方ってわけだ」
「使い方？」
「アキは他人を傷つけるためにサイコデュエリストという名の包丁を振り回したりしない。みんなそう思っているさ。だから誰も恐がったりしない」
「…！ユイ…」
「だから気に病む必要はない。今度オベリスク･フォースに遭遇したら、お前のサイコデュエリストの力で正しい使い方を教えてやれ」
「えぇ！」
しょんぼりしてたアキの眼に活気が戻ったような気がした。


アキのように、今回のオベリスク･フォースや素良という新たな敵の出現によって、全員新たな不安や悩みを抱えたことだろう。万丈目とゴーシュの怪我が治るまで2,3日掛かりそうだが、それまでにみんなリフレッシュできればな、と思った。