第21話　それは逃亡者か敵か　作：ター坊

学校を出て1時間程度。俺達は目的地に着いた。

新横浜ショッピングモール Duely(デュエリー)
横浜新地区内でも最大の商業施設。食料品･衣料･家具家電･カードなど大抵の物はここだけで揃うくらい豊富な品数で、中央のドームではカードのイベント･大会が行われていた。俺もここの大会の常連で、賞品として割引クーポン券や炊飯器とかも貰ったことがある、思い入れのある場所だ。

しかし、いつもの活気がない。平日でも人の雑踏や笑い声が聞こえてくるのに、今は死んだように静まり返り、店内は俺達9人分の足音がカツカツと響くだけだった。
店内を歩き、食料品コーナーに着いた。
「楽しそうな所よねー」
「舞さん、もう少し真面目に…」
「開いてなかったけど、服可愛かったよね」
「うん。私も、そう思う」
呑気に構える舞に呆れながらも付き合うアキ、ちゃっかり店をチェックする小鳥と龍可。今は逃亡中の身であるが、こういったやり取りを見ていると和む。
「朝から何も食ってねぇからな」ｶﾞﾌﾞ
「いや~ん。ゴーシュのダンナ豪快」
「ゴーシュ。いくらなんでも行儀が悪いぞ」
ゴーシュは青果コーナーにあるリンゴにかぶりつき、万丈目がそれを咎めた。
「ん？あら？おーい、ユイのダンナ~」
おジャマイエローが俺を呼んだ。
「どうした？」
「これを見てよ。誰かいたみたいよ」
そこには食べ終わった芯だけのリンゴと１００円玉があった。みんなもそれに集まる。
「ん？このリンゴの芯…変だ」
「どういうことナノーネ？」
「ゴーシュの食べ終わったリンゴの芯と比べても、それほど変色していない」
「ならば…」
「このリンゴを食べた人がまだ近くにいるってこと？」
俺はアキの言葉に頷く。俺達と同じくこの世界に来たのか、それとも羽蛾のように黒タイツ集団の仲間なのか。リンゴの芯だけでは推測できない。
「でも、リンゴを食べた人も助けを待ってこのショッピングモールに籠ってるのかも…」
「けど、そう思わせる罠かも知れないわ」
小鳥の意見を採用するならば探し出し、同行してもらうのが良いだろう。敵と戦う戦力が多いに越したことはない。だが、舞の意見ならば既にここは目を付けられているから一刻も早く立ち去るべきだろう。全員でどうするべきか議論していると

カラーンーカラーン！カラカラｶﾗｶﾗ…

2階の売り場からだろうか。何やら木が床に落ちたような音が無音の1階にまで響いてきた。その場にいる全員が誰かいると確信した瞬間だった。すぐ近くの階段を上がり、2階に着くと音の正体はすぐわかった。工作コーナーにあった木工用の細い角材が床に転がっている。
俺達は2班に分かれて謎の人物を捜索することとした。俺は万丈目･舞･小鳥･権現坂を連れて2階全体を、クロノス教諭を中心としてアキ･龍可･ゴーシュは3階を担当することとした。


~クロノス サイド~

ワタシ達は3階の捜索を開始したノーネ。3階はどうやらフロア全体がゲームコーナーになっており、筐体やらなんやらゴチャゴチャしていて、個人的にはあまり好きじゃないノーネ。けど、全ての電源が入っていないようでとっても静かナノーネ。
「ん！誰だ！そこにいるのは！」
シニョーレ･ゴーシュが叫ぶと、駆け足の音が向こうからしたノーネ。ワタシ達が追いかけると観念したのか、足音が止まり、カツ、カツと床を踏む音が近付いてくるノーネ。
「へっ。もう逃げるのはやめだ！」
出てきたのは、いかにもドロップアウト･ボーイといった感じの少年だったノーネ。
「ほう？てめぇ、いいノリしてるな…」
「ちょっと、ゴーシュさん！」
「もしかしたら私達と同じ立場の人かも知れないのに。まずは話し合いを…」
「…こいつの目を見てるとやりたくなってきたんでな。悪いが闘らせてもらうぜ！」
シニョーラ･龍可とシニョーラ･アキの制止を振り切ってデュエルディスクを構えてしまったノーネ。
「来やがれ！男･城之内、やってやらぁ！」