第156話　恋人を討つ覚悟　作：ター坊

~ユイサイド~

「おっとと…」
ダメージを無効にしてるとはいえ、痛みはある。盾で攻撃は防げても、防いだ盾の振動で手が痺れるような、そんな感覚に近い。その痛みは小さいが蓄積すれば大きい。足元が少しふらつき、目も少しぼやける。
「ユイ！大丈夫か！？」
「ユイさん！」
「みんな！来ないでくれ…」
近寄ろうとするみんなを止める。
「ユイ！アンタの体は…」
「舞。止めないで…」
そう言って俺はいよいよ片膝を着いてしまう。
「ユイさん！」
「大丈夫だって…。少し疲れてるだけだ…」
「でも、こんなに痛々しいデュエル…」
「柚子…心配ないさ。それに…」
「それに？」
「もっと痛いのはアイツらだ。マスターDに無理矢理おかしな力を与えられ、無理矢理戦わされて…。きっとアイツら…心の中で泣き叫んでる…。そんなに苦しんでるのを助けてやれないで、何が大切な人だ…！」
全員に言うと同時に、自分自身に言い聞かせて奮い立たせようとする。
「…」
だが自身のデュエリストとしての戦況分析の結果はかなり厳しい。スキュルートＥＰは『悪夢の鳥籠』に囚われ攻撃も効果の発動もできない。手札にはサーチした『礼弦の救世者アリア』のみ。これで何かを作り出したとしてもどちらにもトドメを刺すことはできない。返しのターンで押し負けるのがオチだ。
……考えても…埒が明かないか。俺は気を静めるつもりで目を瞑る。









―ユイ…どの

―ゆう…くん。がんばって


幻聴か？いや、この声は確か。

―男の正念場でごわす

―生き残りとちっちゃい女の子、助けなきゃダメだよ！

―愛する人のために…ね？

姉さん…。それに五行の巫女の末裔の方々…？

「貴殿に我らの力を再び！」




パァｧ…


「ゆう君…。将来のお嫁さん、ちゃんと助けなさい。男の子なんだから」







「…はっ！」
目を開けると…
「ユイのデュエルディスクが…光っている…！」
遊戯を始め、俺のデュエルディスクの変化には誰しもが気付いた。
「…？」
なんだろうか。この淡い光を見ると…心が安らぐ。多くの人に支えられてるような温かさを感じる。
「美羽…、遊月…」
「？一体なんなの？」
「はっきり申し上げて、ユイ様が勝つ見込みはないと思いますが？」
「俺はお前らを助けるためなら…何回でも奇跡を起こすよ。今からも、この先も！俺のターン、ドロー！！」

ｼｬｷｰﾝ

…この奇跡で恋人を討つことになるけど、恋人を、大切な人を救えるなら、それでもいい！
「俺は手札から罠カード、『共鳴する運命(レゾナンス・フューチャー)』を発動！」
「そんな！手札から！？」
「このカードは相手のフィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、俺のターンに限り手札から直接発動できる！これで俺は墓地からチューナーモンスターのシエラとゴールド・ゴーレムを選択し、この２体の組み合わせで召喚可能な融合モンスターとシンクロモンスターを同時に特殊召喚する！」
「ウソ…一気に２体のモンスターが…」
「来い！新たに生まれ変わったモンスター達よ！」
墓地から浮かぶ2つの魂は天空で混じり、輝く渦と星の輪を作り出して場を眩しい光に包み込む。
「融合召喚！『叡智の救世者 ユグドランＺ(ゼウス)』！！」
輝く渦からは巨大な木龍が、
「シンクロ召喚！『天舞の救世者 アメウズメＮ(ナデシコ)』！！」
星の輪から舞姫の女神が降臨する。
「細部が違う…？」
「ユグドランＺの効果発動。このカードの融合召喚成功時、ターン終了時までこのカード以外のフィールドのモンスター達の攻撃力は０になる！」
「そんな！…だけど攻撃力１０００程度じゃ！！」
「続いて手札のアリアを見せてアメウズメＮの効果発動。サイコロを２回振り、サイコロの目によって三種類の効果を適用する。ダイスロール」

ｺﾛｺﾛｺﾛ…３、６！

「３と４の目の効果は２枚ドローし、５、６の目の効果は相手のライフに１０００ダメージを与えて俺のライフを１０００回復する。遊月、お前のライフをもらうぞ」
「くっ！けどそのくらいで私達の盤面は揺らぎません」
「そこでだ。『礼弦の救世者アリア』を召喚しコイントス判定」

ﾁﾘｰﾝ…裏！

「これでデッキから『勇気の救世者 シグナム』を特殊召喚」
「レベル４のモンスターが２体…」「俺は２体の救世者でオーバーレイ！闘神の剣、全てを救う希望の牙となれ！エクシーズ召喚！『闘魂の救世者 Ｇ(グレート)ダイブレード』！！」
「また…新しい救世者」
「美羽…、遊月。あと少しで終わるからな。…Ｇダイブレードの効果発動。オーバーレイユニットを２つ使うことでこのカード以外の俺のモンスターを全て守備表示に変更し、変更したモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。チャージ･フォースブレード」
Ｇダイブレードの持つ剣に光が集い、巨大な刃を形成する。
「ユグドランＺの１０００、アメウズメＮの２３００、スキュルートＥＰの２５００を上乗せ、トータル８４００となる」
「そんな…！これじゃあどちらかが…」
「いや、もう終わりと言ったはずだ。ユグドランＺは守備表示の状態でも攻撃でき、守備力を攻撃力としてダメージ計算を行うことができる」
「…！！」
「ユグドランＺでクロイカヅチに、Ｇダイブレードでジャーマンダーに攻撃！さらにアメウズメＮの効果でユグドランＺに戦闘ダメージ倍加の効果を付与する！」
「なっ！」
「これでThe ENDだ…」
そう、全部終わる…。


叡智の救世者 ユグドランＺDEF(=ATK)3200 VS 雷龍帝クロイカヅチ ATK 0　(戦闘ダメージ倍加中)

「ああぁぁ！」
苦しい悪夢のような時間も…。



闘魂の救世者 Gダイブレード ATK 8400 VS 悪夢人形ジャーマンダー ATK 0

「きゃあぁぁ…！」
今までの幸せな関係も…きっと。







でもこれで良いんだ。
コイツらが目を覚ましたら…。
そうしたらちゃんと、正直な気持ちで話し合おう。
今はただ、恋人が、大切な人が戻ってきたことを喜ぼう。