第96話　降臨　魔王の城　作：ター坊

夜。俺は遊月さんに呼び出されて船のデッキにやって来た。やや肌寒い風と共に遊月さんは既に待っていた。
「遊月さん？」
「ユイ様。お呼び立てして申し訳ありません」
「いや、良いよ。それよりどうしたんだ？」
「それは…。気掛かりがございまして」
「気掛かり？」
「ここ最近、柴田殿をお見受けしていないので如何したものかと思ったのです」
柴田…。俺が遊月さん達と出会った時に戦い、お春さんを人質にしたあの武将だ。
「確かにな。たぶんマスターDはノーレッジ･サファイアを、織田は遊月さんの水の巫女としての力を欲してるから同盟を組んだんだろうな。マスターDは動いてるが織田側の動きがないのも言われてみれば気になるな…」
「柴田殿が諦めるとは考えにくいのです…」
「それに他の織田の連中がいないのも気になる」
「はい。織田の忠臣は柴田の他にもあと三人いてそれぞれが強力な召喚法を行う織田四天王と呼ばれています」
「柴田はシンクロだったな…。となると、あとは融合･エクシーズ･ペンデュラムって所か」
「はい…。……申し訳ありません。さほど有益な情報も言えず…」
「いや良いさ。それにどんな武将をぶつけてきた所で俺達は負けない。四天王の柴田だって俺達は2回も撃退しているじゃないか」
「…」
「そんな悲しそうな顔すんなって」
「いえ…。本来ならば私達だけで成すべきことなのに、ユイ様達に頼りっきりで…」ｳﾙｳﾙ
「…泣かないでくれ」
俺は遊月さんの髪をそっと撫でる。
「そんなこと言わず、頼って欲しいな」
「ですが…ご迷惑なんじゃ……」
「だって俺達は仲間だろ？」
「え…？」
「たとえ迷惑掛けるばかりでも、一緒にいることが損だとしても、それでも一緒にいたいって思う奴が仲間だったりするんじゃないか？そんなに一緒にいたいって思う仲間を助けるのって変か？」
「ユイ様…」
「だから頼ることを遠慮しなくていい。それに織田を倒せばマスターDの力を削ぐことにもなるしな」
「……はい」
遊月さんは力強く頷く。
「よし、それじゃ織田に関する話は終わりだな」
「あの…ユイ様……」
「ん？なんだ？」
「あの…。できれば、その…私のことを遊月と…呼んでくれませんか？」
「…いいのか？お姫様を呼び捨てなんて」
「その…私達の付き合いも長いですし……あ！けっして深い意味ではなく！仲間として！」
「そうだな。じゃあ、これからも頼むぞ。遊月」
「…はい！」
「さてと。それじゃあ中に戻るか。今日なんだか冷える」
俺達が戻ろうとした時だった。



ドォォオォオォオォォン！ゴゴ、ゴゴ、ガタタガタガタガタｶﾞｼｬｰﾝガタタドゥオーンﾊﾟﾘｰﾝグゴゴゴガァグァドブオバガドゥオー、ゴゴｶﾁｬｰﾝゴゴバキャガドドゴグシャブオベキャヂュベラガタタドゥオーンガタガタガタﾊﾟﾊﾟﾘｰﾝドブオバガグゴゴヴァオグゥオガガズブオデキュアガグシャガタガタガタドゥオーングガタガタガゴゴ！！

「なんだ！この揺れは！？」
まるであの時、ペガサス城やらデュエルアカデミアなどがやって来た時に似た地震だ。また何か建物が来るのか？
地震は程なく収まった。
「ユイ様…。今のは……」
「さぁ…？以前にもこんなことあったけど」
「姫様！」
扉を開けて出てきたのはお春さんと、続いて柳生さんと有馬さんもやって来る。
「姫様！お怪我は！？」
「お春さん、落ち着いて下さい。私はなんともありません」
「柳生さん。船内は無事か？」
「うむ。それが面妖なことにあれほどの揺れにも関わらず、何も落ちてはおらんのです」
あの時の地震と似ている。と言うことはまた新しい建物が？
「あれはなんじゃ？」
有馬さんの目線を追うと、夜の暗がりで分からないが、遥か遠方に巨大な建物の影があった。
「あれは…。少なくともあそこら辺にあんな巨大な建物は無かったハズだが…」
しばらくすると雲が流れ、月光が街を照らす。
「あれは！？」
「なんと！」
遊月を始め、他の3人の表情が凍り付く。月光に照らされて現れた建物は日本の城のようだが。
「なぁ。あれってたぶんお前達の世界の建物だよな？」
「はい…。ですが……来てしまうとは」
遊月は声を震わせながら言葉を続ける。
「あの城は魔王の城…。織田信重公の居城、阿津血(あづち)城です…！」