第67話　別世界の真実　作：ター坊

~夜~

夕食も済み、食器洗いをしている。かなりの大所帯となり皿の数も尋常ではないが、バイトの経験がここで活きようとは。人生何が役立つか分かったもんじゃない。
「それにしても、一国のお姫様に皿洗いをやらせることになるなんてな」
「いいえ、ユイ様。私を始め、じいや、八兵衛もお世話になっております故、ご遠慮なさらずにお使いください」
「うーん。様付けなんとかならないかな？」
「申し訳ありません…。努力してますがどうも落ち着かなくて…」
「まぁそのしゃべり方が遊月さんらしいと言えばらしいけど」
そんな他愛もない談笑をしていると


きゃあ！


悲鳴が聴こえた。この声色は北森さんか？
「何事でしょうか？」
「大丈夫だろうさ。どうせ城之内がまた女子更衣室覗いたとかそんなんだから」
「ですが…」
「…フー。だいたい片付いたし、様子見に行くか」
俺と遊月さんは悲鳴がした方向に向かった。


俺達が来た頃にはみんなが集まっていた。
「おい、どうしたんだ？」
「あっ遊月さん！」
「ユイ。こんなものが」
万丈目が手渡したものは1本の矢だった。
「なんだこれ？」
「分かりません…。けど私の目の前で刺さって驚いて…」
北森さんは恐々とあったことを話した。
「それとこんな紙が…」
なんだろうか？矢文ってことだろうか。
「えっと…なにこれ？」
柚子から手渡された紙だが…筆遣いが独特でなんと書いてあるか全く分からない。けれど矢文という時点で、これをやったのは恐らくアイツだろう。
「なぁ遊月さん。これ読めるか？」
「えっと…ですね」


女中お春は預かった。返して欲しくば、遊月姫と水葵の印籠と交換である。明日辰の刻、亜琉禍出射亜夢宇武免斗にて待つ。　　　　柴田秀長

「そんな！お春！」
「なりません！姫様！」
「ですが…」
確かお春とは行方不明となった遊月さん達の連れだ。
「でも水葵の印籠って何かしら？」
「それって拾ってきた有馬のじいさんが落としモンじゃないか？」
それを聴いて少々、有馬さんが顔をしかめる。
「有馬さん。どうしました？」
「いえ、なんでも」
「本当にそうか？」
「黒咲殿…」
「黒咲待ってくれ。有馬さん達にだってタイミングが…」
「そのタイミングが今じゃないのか？」
「又左衛門殿…」
「じいや…もう……」
「……分かり申した。真実をお話し致します」
有馬さんはその場で座禅を組み、呼吸を整える。
「…ところでユイ殿…。いつ頃からワシ達のことをお疑いに？」
「疑ってたわけじゃないさ。ただあの話が変に思っただけで」
「変？」
「魅河が滅ぼされたのは本当だと思う。けど、信重の考えが引っ掛かってたんだ。ただ単に結婚を拒否されただけで2つも国を滅ぼすのかって。信重には結婚以上に遊月さんが欲しい理由があったんじゃないかと思ったんだ」
「……勘の良い御方だ。確かに信重は婚儀が目的で遊月姫を欲してたわけではありませぬ」
全員が固唾を飲んで有馬さんの話に耳を傾ける。
「織田信重の狙い。それは日の本を支える力、五行を統べて世界を支配せんとすることなのです」
「五行？なんだそりゃ？」
「世界を支配するって…ピンと来ないわね」
「そうですな…。まずは五行についてお話ししましょう。五行とはこの世を統べる超自然的な力、木火土金水のことです」
「木火土金水…」
「そしてそれらの力は五行の巫女によって治められていました。日の本が危機に晒されたとき、その巫女達によって救われたと伝承にあります」
「伝承？物語なのか？」
「いいえ。世間では伝承として語られておりますが、歴史的な事実でございまする」
「なぜ事実だと分かるの？」
「…巫女達も永遠の命ではありませぬ。その後は子孫達が同じ任を継承し、日の本の平穏を保って参りました」
「まさか…」
「左様。遊月姫こそ五行の巫女の一角、水の巫女の子孫でございます」
「それじゃあ、信重の狙いは…」
「五行の巫女の子孫を手中に収めること？」
「……正確には違います…」
ずっと俯いていた遊月さんが口を開く。
「信重公の狙いは力そのものを吸収し、己の力にすることです」
「吸収？」
「信重公は五行の巫女の子孫を手に掛け、その血を飲み干して力を得ているのです」
「うえぇぇ…。きもちわるぅい」
「バンパイアみたいだな…」
「もはや五行の巫女の子孫で残ったのは私だけです…」
「それじゃあ信重の計画はあと一歩で…」
「待てよ？なんで柴田はこの世界にあるアルカディア･ムーブメントを知ってるんだ？」
「もしかして融合次元や黒タイツの集団と接触して同盟を組んだのか？」
全員がどよめく。
「そう言えば要求の品の水葵の印籠って？」
「それは私の力を具現化したものです。信重公は私の反抗を恐れて壊す気なのでしょう…」
遊月さんが話し終えると、少し沈黙が続く。



「なぁ、有馬さん。何故その事を伏せてたんだ？」
「ユイ殿…。そして他の皆様方、申し訳ありませぬ！」
有馬さん、柳生さん、遊月さんは跪き、頭を垂れた。
「なっ…」
「拙者らは助けられた御恩があるにも関わらず、織田の隠密や間者ではないかと疑っており申した！」
「この不義不忠の行い、如何様な罰も！」
「皆様のことを信じることができず…」
土下座をする三人。しばらくすすり泣く声がこだまする。
「…フーッ。姫、泣かないで下さい。貴女のような美人に涙は似合わない」
「吹雪様……？」
「兄さん。何どさくさに紛れて口説こうとしてるの？」
「ほら、八兵衛おじさんも立って♪」
「アユ殿？」
「有馬さん、今あなたがやるべきことは土下座をすることではないでしょう？」
「ユイ殿…」


- - -そう。俺達の意志は決まっていた。
「世界を守るか…。悪くねぇノリだな」
「別の世界だからって、どうでもいい訳ねぇもんな」
「未来を守った私達なら…このメンバーなら出来そうな気がする」
「お人好しの集まりだな。だが、敵も纏まれば、一気に討つ好機となる」
「黒咲、素直じゃないわよ」
「やれやれ。バリアン世界といい、どうも世界の崩壊とかに縁があるみたいだな」
「そうね、凌牙」
「まっ。元から滅茶苦茶な世界だしね。驚かないわよ」
「別の世界を救う…。燃える展開だぜ、こりゃ！」
「そうじゃのぉ、城之内！」


「皆様…私達を……許してくれるのですか…？」
「いや。許すって言うよりみんな吹っ切れたんじゃないか。正直に話してくれて、スッキリしたんだと思う」
「皆様…」
「さてと…で明日誰行く？」
「やっぱ助けるなら最強メンバーじゃない？」
「ユイ殿…何の話を？」
「何って…お春さん助けないとダメじゃないの？」
「お春を…？」
「だって文面には一人で来い的なことは書いてないぞ？」
「アルカディア･ムーブメントって場所に殴り込んで、敵ぶっ飛ばして、助ける。簡単だぜ！」
「城之内の出番はないがな」
「なんだと万丈目！」
こうして１つの壁が消えて、夜は更けていく。




- - -朝

「それではじいや。行って参ります」
「姫、お気を付けて。八兵衛殿も頼みましたぞ」
「無論。命に代えても」
「ユイ殿…。ご迷惑をお掛けし…」
「有馬さん。そういうのは無しで」
「ユイさん、みんな！」
「小鳥？」
「みんなにデュエル飯作ったから持っていって下さい」
「ほう。これは」
「でかっ！」
小鳥や龍可、アユたち留守番組が作ったデュエル飯と呼ばれるものは握り拳より一回りほど大きいおにぎりだ。
「ありがとうな」
「頑張って下さいね！」
「よし、じゃあ行くか！」
俺達は留守番組に見送られつつアルカディア･ムーブメントを目指した。今回のメンバーは俺･柳生さん･アキ･クロウ･舞･黒咲･吹雪さん･凌牙、それに遊月さん。

こうして俺達のアルカディア･ムーブメントの激闘が始まろうとしていた。