12話　4人目の塾生　作：名無しのゴーレム

　そうしているうちに、京子たちが学校から帰ってきた。
「ただいま！　どう？　あの子、もう起きた？」
「ああ。今は家でゆっくりしてるよ。」
「そうなんだ。よかった～。」
…こいつもちゃんと心配してたんだな。…あの言動からして、少し怪しかったんだが。
「それで、あの子のこと、何か分かったんですか？」
伊沢君が俺に聞いてきた。
「いや、何も思い出せないらしい。」
「そうなんですか…」
「……」
「……」
そのまま俺たちは黙り込んでしまった。
　そのとき、まるで昨日のように勢いよく入り口の扉が開いた。
「久しぶり―！　みんな、元気にしてた？」
あまりに突然で、俺は呆然としてその来客を見ていた。そうしていると、向こうがこっちに近づいてきた。
「…新しく入ってきたっていう先生？」
「ああ、そうだが。」
「ふーん…」
俺が答えると、その少年は少しの間俺のことを見つめ、その後笑顔で俺に言った。
「挨拶が遅れてすみません。僕はここの塾生の、播磨　智（はりま　とも）っていいます。これからよろしくお願いします。」
「あ、ああ…矢次　強志です。よろしくお願いします。」
播磨君の丁寧な挨拶に、思わずこちらも敬語になってしまった。
「ようやく帰ってきたのか。もう終わったのか？」
「うん。いやー。本当に大変だったよ。どこに行ってもまともに相手にされなかったからね。」
神宮寺君と播磨君が話し出した。一体何の話だろうか…
「ん？　ああ、先生。僕、今までよそのデュエル塾を巡っていたんです。ジュニアユース選手権の出場権のために。」
俺の心を読んだように、播磨君が説明してくれた。
「ジュニアユース選手権に出場するには50戦以上デュエルして、勝率を6割以上にしなきゃいけないんだよ。私たちはほかの塾との対抗試合とかでもう達成してたんだけど、智はそういうのサボってたから、今まで塾にも来ないでデュエルしに行ってたってわけ。」
京子がさらに補足してくれた。だから今まで塾に来ていなかったのか。
「ところで、もう講義の時間じゃないんですか？　仙波先生はどこに？」
不思議そうにする播磨君に、俺は諸々の事情を説明した。昨日少女が近くで倒れていたこと、その少女が記憶喪失であること、そして今、仙波さんの家にその少女がいて、仙波さんが何か手がかりがないか周りに聞いて回っているということを。
「ふーん…、そんなことがあったんだ…。…それじゃあさ。」
すべて聞き終えた播磨君は、俺たちにある提案をした。
「1回その子とデュエルしてみればいいんじゃないですか？」
「…いや待て。どうしてそうなるんだよ。」
俺が思っていたことをそのまま神宮寺君が言ってくれた。
「だってさ、デュエルディスク以外何も持ってなかったんでしょう？　それだけその子にとってデュエルが大事ってことなんじゃないの？　それならさ、デュエルを通じて何か思い出すこともあるかもしれないよね？」
…まあ、理に適っているような、そうでないような。でも、ほかにできることはなさそうだし、やってみる価値はあるかもしれない。
「でも、誰がデュエルするの？」
伊沢君のその言葉に、俺も少し思いとどまった。誰がデュエルするんだ…？
「僕でいいでしょ。言いだしっぺは僕だし、矢次先生に僕のデュエルを見てもらうってのも悪くはないでしょ。いいですか、先生？」
「あ、ああ。わかった。今、呼んでくるよ。」
…正直、うまくいく気はしない。それでも、やるだけやってみようという気にはなった。俺は少女を呼びに、家の方へと向かった。