side美愛：交錯する記憶　作：名無しのゴーレム

しばらくして、私たちは元の遊矢さんたちがいた場所に着いた。そこで私たち2人、先ほどの少女――方中 ミエルちゃんと彼女が連れてきた茂古田 未知夫さんと大漁旗 鉄平さんで暴れる遊矢さんをジャングルエリアまで連れて行き、今は彼を取り押さえようと力を尽くしていた。

「な、なんでこないなこと…痛！？」


…少しの時間の後、ようやく遊矢さんの暴走は治まった。今はミエルちゃんたちが介抱している。もう日も暮れて、私たちは休息をとる用意をしていた。

「あ、これ、兄さんがこれでも食っとけってくれたんだった。」
そう言って智はポケットからいくらかの携帯食料を取り出した。それをこの場の全員で分け、今晩の夕食とした。

「…兄さん、大丈夫かな…」
「智…」
遊矢さんが気を失った後、秀さんと連絡をしようとしたが繋がらなかった。どうやら通話機能が上手く働いていないようで…
「…朝になったら探しに行きましょう。大丈夫、きっと見つかりますよ。」


「それにしても、遊矢君に何があったんだい？ 権現坂君は知っているのかい？」
「いや、俺が見つけたときには遊矢は既にあのようになっていた。どうやら3人組とデュエルしていたようだが…」
「その3人組っちゅうんのも何者やねん。そこのお嬢ちゃんといい、なんで選手以外のデュエリストがバトルロイヤルに紛れ込んでんねん。」
「私はダーリンの戦ってる姿が見たかっただけよ。」
…なぜ彼女が遊矢さんを『ダーリン』と呼ぶのか気になるところではあったけど、この際気にしないことにしよう…


「あ、そうだった。美愛、実は兄さんに会う前に、矢次先生を見かけたんだけど。」
「え？ そんな、強志さんは今頃スタジアムにいるんじゃないんですか？」
「そうだけどさ、あれは確かに先生だったよ。美愛くらいの年の女の子も連れて、どこかに走っていったみたい。」

…強志さんまで？ なぜ、こんなに選手以外の人が居るのか、謎がどんどんと増えていく。
「…どうして強志さんがバトルロイヤルに…」
「…考えても分からないさ。それより、今はもう休もうか。」
――こうして、謎に満ちたバトルロイヤルの初日は終了したのであった。




――これは、私の記憶、なのだろうか。

「…『 』！？ どうしてここに！？」

少女が『私』に問いかけている。しかし、彼女が呼ぶその名を聞き取ることが出来ない。

「早く逃げて！ ここは…」

彼女の言葉に従わず、『私』は前に進む。そして…

「『 』！！」

…そこで、『私』の意識は途切れた。




「……ッ！ ……夢、ですか…」
目覚めると、もうすでに日が昇っていた。
「美愛、大丈夫？ 何かうなされてたみたいだけど。」
「…はい。大丈夫です。」
他の皆はすでに起きているようだ。
「ああ、美愛。おはよう。」
「…遊矢さん。もう大丈夫なんですか？」
「…大丈夫だ。それより、ご飯を食べたらどうだ？」
気付くと、目の前に美味しそうな料理があった。聞けば、茂古田さんが作ってくれたものだそうで、一口食べると元気が湧いてきた。

食事の間に、私は遊矢さんからあのとき何があったか、今何が起こっているのかについての説明があった。とても信じられる話ではなかったが、遊矢さんの表情から、決してこの話が嘘でないことが伝わった。
「…それで、これからどうするんですか？」
「実は、ミエルが飛び出して行っちゃってさ。先に2人が探しに行ったんだ。俺たちは美愛が起きるのを待って後から行くことになってた。」
「そうでしたか…すみません。皆さんに迷惑をかけてしまって…」
「そんな、気にしなくていいよ。じゃあ美愛も準備が出来たみたいだし、俺たちも行こうか。」
「はい。」
私たちが茂古田さんと大漁旗さんのあとを追おうとした、まさにその時だった。


「また会ったね。」


「な！ あ、あなたは…」
森の中から現れたのは、昨日氷山エリアで私たちの前に姿を現した男だった。
「…おい、お前！ 兄さんをどうした！」
「ん？ ああ、昨日のあいつね。それならほら、この通りさ。」
彼は1枚のカードを私たちの前に取り出してみせた。…そんな、それじゃあ！？
「お、お前、そのカードは…」
「何だい？ ああ、このカードが気になるか。それなら、ついてきなよ！」
男は森の中へと入っていった。
「待て！！」
それを智が追いかける。
「智！」
「俺たちも行くぞ！」
「おう！」
遊矢さんと権現坂さんが2人を追いかけようとする。
「2人とも、待って下さい！」
「美愛、なんで止めるんだよ！ 早く追いかけないと！」
「…どう考えても、あれは罠です。2人は茂古田さんたちの方へ。私が智を止めます。」
「…分かった。行こう、権現坂！」


「待て！ 逃げるな！」
「智！ 止まって下さい！」
2人の後を走るが、なかなか追いつけない。それどころか、だんだんと距離が離れていく。
（……あれ、なんだか、意識が……）
頭がクラクラとして、そのまま足がもつれて転んでしまった。
「と、も……」



「し……て、……。……う。」
…？ 声が聞こえる。この声、聞いたことがあるような…
「………て、日向（ひなた）！」
「…え？ 今、何て…」
「……！！ よかった、体は大丈夫ですか！」
「え？ え？」
突然の質問に戸惑う。どうやら、声の主は目の前の少女のようだが…
「…えと、あなたは？」
「！！ そんな…、やっぱり…」
私の言葉に少女は酷く傷ついたような顔をした。…一体なぜ？
「あ、あの…何か失礼なことでも…」
「……！！ いえ、何でも…」
…やはり、この少女の反応は妙だ。まるで…

「…あ！ 智、智は！？」
「…あなたの仲間のことですか。彼は今頃敦人たちが戦っているでしょうね。」
そ、そんな…早く助けに行かないと…
「無理ですよ。今のあなたは動くことは出来ない。私と共にアカデミアに戻りましょう。」
「…？ 戻るって、どういうこと？」
「覚えていませんか？ 私は天宮 月詠。アカデミアでずっと一緒に居たじゃないですか。」
「え？ 私が、アカデミアに…？」
「はい。あそこに戻れば、きっと記憶も元に戻るでしょう。さあ、早く…」


「待ちなさい！ 融合次元の刺客！」
「……あなたは。」
…さらにもう1人、少女が現れた。彼女は私には目もくれず、この少女、天宮さんを狙っているようだが…
「あなたたちの好きにはさせません！」
「…エクシーズ次元の残党ですか。いいでしょう、相手になります。」
え？ え？ ちょっと、わけが分からないんですが…



「「デュエル！！」」