47話 新たな戦い　作：名無しのゴーレム

『これをもって、ジュニアユース選手権は中止といたします。』



「…やはり、そうなるのか。」

会場近くのベンチ、以前凉花と再会したところで俺は中継を見ていた。凉花は未だに目覚めず、隣のベンチに寝かせてある。


「…『ランサーズ』、か。」

赤馬 零児がその言葉を発すると、会場が沸き立った。

『ランサーズ！！ ランサーズ！！』

…それがどういうことを意味しているのか、彼らは本当に理解しているのだろうか。選手たちも、そのほとんどが暗い表情をしていた。その中には郁哉、智の姿もあった。どうやらあいつらは勝ち残ることが出来たようだ。しかし…


「……やっぱり、美愛はいないのか。」

凉花の話によると、美愛は融合次元のやつらにさらわれたらしい。さらにその時、東雲 心希もいたらしい。会場にも彼女の姿がないのを見ると、恐らくそれは事実だろう。


しばらくして、赤馬 零児からの説明が終わった。その後、仙波さんから電話から掛かってきた。

「もしもし、強志君！？ 今どこに居るんだい！？」
「…会場近くに居ます。どうかしましたか？」
「…そうか。今から言う場所に来てくれないか？ 皆で話がしたいんだ。」
「…分かりました。」

…凉花も連れていくか。



「ああ、強志君。来てくれたんだね！」
「はい。…郁哉、智。無事でよかったよ。」
「……」
「…矢次先生。美愛がどこに行ったか知りませんか？」

郁哉の質問に、答えることが出来なかった。

「お兄さん！！ 美愛はどこに行っちゃったの！？」
「…………」

京子がこちらに走り寄ってくる。その表情は、今にも泣きそうなものだった。


「……ん、ここは？」
「…凉花、起きたか。」

京子たちの声が凉花を起こしたようだ。

「…強志君、その子は？」

仙波さんに聞かれる。…もう、隠すことはないか。


「……皆、聞いてくれ。実は、俺は…」





「……これで、俺が知ることはすべてだ。」

「……」
「……」

俺の今までの経緯、俺が体験したこと、凉花から聞いたこと、そのすべてを話した。この場にいた全員が、その事実に固まってしまった。

「…強志の話したことはすべて事実です。望、いや、美愛は私の目の前で姿を消しました。」
「…どうして、どうして美愛を助けられなかったの！？ あなたはそこに居たんでしょ！？」

京子が凉花に詰め寄る。

「止めろ京子。凉花は…」
「…確かに、私の力不足のせいで彼女は連れ去られてしまいました。責任は私にあります。どうぞ、好きなだけ責めて下さい。」
「凉花…」

凉花のその言葉に、京子も凉花の気持ちを理解したようだ。

「…ごめん。その場に居もしなかった私が、言っていいことじゃなかったね。」
「…でも、私は必ずあの子を取り返します。その為に、強志と共に次元を超えるつもりです。」
「…そういう訳だ。俺たちで、必ず美愛を連れて帰る。京子たちはここで待っていてくれ。」
「そ、そんな…」

京子は納得のいかないような顔をしている。そんな京子に郁哉が話し掛ける。

「…大丈夫だ。俺も智も戦う。そして絶対にあいつと一緒に帰ってくる。だから、心配するな。」
「…郁哉、智。お前たち、ランサーズに加わるのか。」
「…まあ、そうするつもりです。仲間を取り返す、世界を守る。次元を超えるには十分な理由だと思わないですか？」
「……危険だぞ。覚悟は出来ているのか？」
「…はい。」
「もちろんです。」



――こうして、ジュニアユース選手権は幕を閉じた。そして、新たな戦いの火蓋が切って落とされたのだった。




「…もう大丈夫なのか？」
「はい。」

あの後、俺たちはそれぞれの家に帰ることになった。凉花はまだ体調が戻らないようだったので、仙波さんに無理を言って今夜だけ泊めさせてもらった。

「まさか、いきなり明日からなんてな。」
「私たちはランサーズとは別行動になりますから、時刻を合わせる理由はないんですけど、出来るだけ早くした方がいいと思いまして。」

凉花は一度赤馬 零児と連絡を取り、今後の活動について話し合っていた。その結果、俺たちはランサーズとは別行動をとることになったのだ。

「…一応、もう一度行動指針を聞いておいていいか？」
「はい。私たちは融合次元に向かい、アカデミアの行動を調査します。そして機会がくれば、アカデミアに乗り込んで直接アカデミアにダメージを与え、あの子を取り戻します。」

アカデミアは孤島にあるらしい。そこに突入して安全に離脱出来るのはNo.の力を操る凉花のみ。故にこの計画が立てられたらしいが…

「…そもそも、次元ってそんな簡単に超えられるのか？」
「私のNo.の力、さらに赤馬 零児が開発した次元転移装置の力があれば、まず失敗はないでしょう。私たちはNo.の力を使って、あの子のいる次元へと飛びます。あの子はNo.39を持っていますから、それを辿れば融合次元に到着するはずです。」
「ふーん、そうなのか…」


バタンッ！！


「お兄さん！ …お願いがあるんだけど。」
「…どうした、京子。」

扉を開けた勢いの割に、京子の言葉は静かなもので、表情も至極真面目なものだった。

「……私も、一緒に連れていって欲しいの！」
「京子、それは…」
「駄目です。」

凉花が京子の願いを強く切り捨てた。

「私たちが向かうのはとても危険な場所です。選手権にも勝ち残れなかったあなたに、何が出来ると言うんですか。」

…凉花は、わざと強い口調にしているんだろう。以前彼女が言ったように、余計な犠牲を出さないために。

「…それでも、美愛を助けに行きたいの！ 私だけ置いてけぼりなんていやだよ！」
「…あなたには両親も友達もいるでしょう？ 彼らを悲しませてまで、今ある幸せを捨ててまで、あなたは戦うと言うのですか？」
「…それは違うよ！！ 私は美愛の、家族のいない日常を幸せなんて思わない！！」
「……！！」

凉花が言葉を詰まらせる。京子の言い分に思うところがあったのだろうか。

「……あなたは知っているんですか？ 敵に負ければカードにされてしまうんですよ？」
「…知ってるよ。でも、美愛は融合次元に1人でいるんでしょ？ そんなの可哀想だよ。私も美愛を迎えに行ってあげたいの。だから、お願い！」
「……分かりました。私はもう何も言いません。強志はどうですか？」

凉花が俺に話を振ってきた。

「……1つだけ条件がある。」
「…何？」
「…仙波さんと紗枝さんの許可を貰うこと。それが条件だ。」
「…分かった。今からお父さんたちのところに行ってくるよ。」
「俺たちも一緒に行こうか？」
「いや、いいよ。お兄さんは凉花ちゃんの面倒を見てあげて。」


その言葉を最後に、京子が部屋を出ていった。

「…よかったんですか？」
「いいかどうかを決めるのは仙波さんたちだ。俺がとやかく言うことじゃない。…お前こそ、なんで京子を認めたんだ？」
「…彼女、以前の私と似ていたんです。」
「凉花と？」
「…私がこの次元に来る前、隼たちに止められたんです。お前に戦う覚悟はあるのかって。」
「…それで？」
「正直、かなり悩みました。それでも私がここに来たのは、私があの子を助け出すんだと思っていたからなんです。」
「だから、なのか。」
「…はい。」

部屋の外から足音が聞こえてきた。どうやら塾の方へ向かっているらしいが…

「…なるほど。そうなったか。」
「強志？ 何があったんですか？」
「…いや、何にも。お前はもう休んどけ。」
「でも…」
「いいから、さっさと寝とけ。お前には明日、頑張ってもらわないといけないからな。」