side心希：裏切りの発覚　作：名無しのゴーレム

「くっ、探せ！！ 必ずどこかにいるはずだ！！」

生徒たちに指示を飛ばしながらも、内心苛立ちを隠すことが出来なかった。何故なら…

「…どうだ。見つかったか。」
「マスター！ …申し訳ございません。実験体は現在行方不明で…」
「…マスター。」

気付くと、私たちの前に月詠が立っていた。その沈痛な面持ちから、何かがあったのが分かるが…

「月詠、どうした。」
「…彼女が、海へと飛び降りました。」
「……はぁ！？」

どうしてそんなことに！？

「…何故そのようなことに？」
「…私が彼女を発見して、連れ戻そうと説得していたら、突然…」
「…そうか。ところで、敦人はどうしている。」
「それが、どこにも姿が見えず…」

…まさか！？ その考えに至った瞬間に、私の足は既に動き出していた。

「心希！？ 何があったんですか！？」
「マスターの部屋へ！ 月詠は次元転位反応の確認を！」

月詠にそう言い残して、私は目的地へと走った。もし私の考えが正しいなら…


「…やっぱり。」

私の目の前の光景、それがすべてを物語っていた。開けっ放しの扉、荒らされた内部、そして…

「…ない。実験体のデュエルディスクとデッキが…」

そういうことだったのか。思わず歯ぎしりしてしまう。

「アイツ…クソッ！！」
「…なるほど。こういうわけか。」
「…ッ！ マスター！」

扉の方から、マスターの声が聞こえた。

「…敦人が、裏切ったのだな。」
「…どうやら、そのようです。」

マスターは静かに部屋へと入っていき、ある机の棚を開ける。

「……やられた。」

マスターは静かに、しかし確かに悔しそうに顔をしかめた。

「どうかしたのですか？」
「…『あれ』も奪われた。」
「…そんな！？」
「…完全にしてやられた。心希、月詠を連れてこい。」
「はい。分かりました。」

…恐らく、任務が言い渡されるのであろう。内容は…

「…ただいま到着しました。」
「転位反応はどうだった？」
「…この付近で1つ、そして…海上で1つ。」
「…やはりか。…東雲 心希、天宮 月詠、お前たちに任務を言い渡す。」
「「はい。」」
「神谷 敦人、及び実験体を回収しろ。実験体は生きたまま確保しろ。敦人は…生死は問わない。必ず捕らえろ。」
「はい。」
「……」
「…月詠。」
「…はい。」
「今すぐに準備を。…心希、お前はここに残れ。」
「はい。」


「…心希。お前にこれを渡しておく。」

マスターは私にカードを手渡した。

「これは…？」
「…ようやく完成したものだ。今までのものは未完成だったが、長らくの研究によってやっとこれが出来上がった。」
「これを、私に？」
「…ああ。このカードを使いこなせるのはお前だけだ。…期待しているぞ。」
「…ッ！ ありがとうございます！ 必ずやご期待に答えて見せます！」


…次元転位の準備は整った。あとは月詠が来るのを待つだけだが…

「…準備が出来ました。」
「遅いよ月詠～。早く敦人と実験体を確保しないといけないんだよ～？」
「……」
「…あんまり乗り気じゃないみたいだね。なんでなのかな～？」
「…あの子は、自分の意思でここを去ったんです。あんなことをしてまで…」
「そうだね。だから何？ マスターの命令は絶対。忘れた訳じゃないよね？」
「……そうですが…」
「なら決まりだね。…実のところさ～、敦人が実験体を唆したんでしょ？ なら、悪いのは全部敦人だよね？ 早く敦人を捕らえて、実験体を連れて帰ればいいんだよ。簡単な話だね。」
「……そう、ですよね。」
「そうそう。ちゃちゃっと済ませちゃおうよ。」


（…まったく、同僚のメンタルケアまでしなきゃならないなんて、損な役回りだよね。でも、マスターが認めてくれた…それだけで、張り切っちゃうんだよね。）


「次元転位を開始。転位先は…シンクロ次元。転位まで…10秒前。」


やれやれ。手がかりも無しに探すんじゃ苦労しそうだな～。まあ、それなりのサポートが入るみたいだし、なんとかなるよね。

「6、5、4、…」

月詠の方は…まだ浮かない顔をしてるみたいだね。はぁ、変な気を起こさないといいんだけど。

「3、2、1、…」

マスターに頂いたカードを見る。この力があれば、私は誰にも負けない。例え、敦人が『あれ』を手にしていても…


「次元転位、開始します。」

私と月詠が光に包まれていく。さぁて…



「…キヒヒ！ 裏切り者のハンティングの開始だね。」