56話 進化する最終兵器　作：名無しのゴーレム

「……あ、凉花、おはよー。よく眠れたか？」
「恭治、凉花は別に寝てたんじゃないぞ。」
「んなことは分かってるよ。……ずっとここにいるのも危険だし、早く移動しようぜ。」
「危険……？ 強志、まさか！？」
「……アカデミアのデュエリストが辺りをうろついてる。倒してもよかったんだが、凉花が起きてから決めようと思ってな。」
「そうでしたか……応援を呼ばれては厄介です、一度身を隠しましょう。」
「分かった。……っても、どこに行けば……」




プルル、プルル、プルル……



「……凉花？」
「連絡が入ったみたいです。……開きます。」


ピッ……



『………し、もしもし。凉花、聞こえているかい？』
「はい。そちらはクレアさんですか？」


クレア？ 凉花の知り合いなのだろうか……


『そうだ。君の次元転移の反応を検知したから連絡を入れたんだが……反応を見るに、他にも誰かを連れてきたのかい？』
「ええ。実は、いろいろ事情があって……」
『なら、一度ここに来て欲しい。君に渡したいものもあるし……』
「分かりました。それでは……」


ピッ……


「……行き先が決まりました。ここから少し歩いた先にある研究所です。」
「オッケー。」
「いや、待てよ。まず今のは誰なんだよ。それに研究所って……」
「それも後で話します。……ついて来てください。」



凉花がスタスタと歩いていく。……まあ、まずはこの場を離れるのが先決か。




「……ここです。」
「……は？ おいおい、ただの廃墟じゃねえか。さっき研究所って言ってたよな？」
「見える場所にあったらアカデミアに襲われてしまいますから。……強志、どこにもアカデミアのデュエリストはいませんね？」
「ああ。上手く撒けたみたいだな。」
「……入りましょう。ここの地下に研究所があります。」



凉花の案内に従って地下へと進んでいく。


「……それにしても、俺のD・ホイール、大丈夫かなぁ……」
「近くに隠しといたんだろ。奴らもそんなもの気にしやしないさ。」
「まあ、それもそうだろうが……あれ、師匠に借りてるやつだからな……失くしたりしたら殺されちまう。」


……そんな心配かよ、と言うのは止めておいた。




しばらく歩くと、急に明かりが見えた。ここか……？



「ようこそ、我々の研究所へ。私はクレア、一応ここの所長を務めている。」
「どーも。恭治だ。」
「……俺は矢次 強志です。」


俺たちを出迎えたのは白衣を来た男性であった。心なしか少しやつれているようにも見えるが、たぶんそれが今のハートランドの状態を物語っているのだろう。


「……さて、挨拶はこれでいいとして。凉花、どうして戻ってきたんだい？ 他の2人、隼とユートは一緒じゃないみたいだし。」
「それは……少し長い話になりますが。」





「……ふむ。次元戦争に神のカード……どうやら、事態は予想以上に複雑化しているみたいだな。」
「はい。それで、私たちは神のカードを奪還するためにこの次元に戻ってきたんです。」
「そうだったのか……けど、ちょうどよかった。君にこれを渡したかったんだ。」


そう言うと、クレアは凉花に1枚のカードを手渡した。


「……これは。」
「君のナンバーズの力を解析して生み出した、ナンバーズのさらなる力を引き出すためのカードだ。あいにくサンプルも無かったから、一度も実験は出来ていないけれど……」
「……ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。」
「そうしてもらえると嬉しいよ。……次は、君の番だね。」


クレアがこちらを向く。……まさか、俺に言ってるのか？


「そのデュエルディスク、間違いないはずだ。君、『機密兵器』の所持者だろう？」


……え？


「ど、どうしてそれを？」
「強志、『機密兵器』はここで作られたんです。」
「……マジで？」
「ハハハ、マジだよ。……なるほど。君が、あの時の……」
「あの時？」
「記憶にないのかい？ ……まあ、当時の転移技術ではある程度の記憶障害は仕方ないのか。」


……記憶障害だって？ 確かに、舞網市に来る直前のことは曖昧だが……


「では、簡単に当時のことを説明しておくよ。と言っても、大部分は我々の想像でしかないが。……君は何らかの用事でここの地上部分に訪れていた。そこでアカデミアの襲撃に遭ったんだ。」


何らかの用事……仕事だったのだろうか。


「君は逃走した。そして偶然に地上にあった我々の研究室に……『機密兵器』が置かれていた部屋に入った。」
「…………」
「おそらく当時の君は自分のデッキを持っていなかったんじゃないのかい？ 故に、アカデミアのデュエリストに対抗するためにそれとデュエルディスクを……実験用のものを持ち出した。」


……言われてみれば、そうだったかもしれない。


「そうして君はデュエルを行った。その結果は知らないが、たぶん途中で安全装置が作動したんだろう。」
「安全装置、ですか？」
「ああ。……結論から言おう。『機密兵器』は未完成だ。そのため完成するまでに融合召喚のエネルギーを検知したとき、所持者ごと次元転移を行うように設計されていた。」
「……どうしてそんなものを？」
「……矢次 杏からアカデミアの情報を知らされたときから、我々はなんとしてでもそれを完成させる決意だった。……それと同時に、完成のためにはどうしても他次元の力を組み込みたいとも考えていたんだ。」


他次元の力……？ 融合召喚にシンクロ召喚、それにペンデュラム召喚のことか。


「……だから最悪の場合には研究員の誰かが『機密兵器』を持ち出す手はずだった。しかし、数々の偶然が重なりその役目を君が果たすことになったんだ。……このようなことに巻き込んでしまったことは謝っておくよ。」
「……いえ、気にしないでください。俺が勝手にやったことですから。」


クレアさんの言うことが嘘である可能性もあるが……何にしても、そのおかげで俺は今ここにいるんだ。


「そう言ってもらえるなら良かった。……さて、ここからが本題になる。……君は別次元にて『機密兵器』を使ってデュエルしたかい？」
「……はい。スタンダードに融合次元、シンクロ次元のデュエリストとデュエルしました。」
「それはこちらの想定以上の結果だ。……これはお願いだが……我々は今から『機密兵器』を完成させたい。だからそのデュエルディスクとデッキを貸してもらえないか？」


このデッキの、完成……それはこれからの戦いに役立つことだろう。


「分かりました。……これです。」
「ありがとう。……我々の総力を挙げて作業を行う。2日……それまでには君に返してみせよう。」
「……はい。」
「クレアさん、それまで私たちはどうすれば？」
「好きにしてくれて構わない。こちらの作業が終わり次第凉花に連絡を入れよう。」
「……なら、私たちは外でアカデミアの迎撃にあたります。理由は分かりませんが、彼らがこの辺りを巡回していました。もしそれが、ここの捜索を目的としていたならば……」
「私たちの護衛役を務めてくれるのかい？ ……恩に着るよ。でも、絶対に無茶はしないで欲しい。」
「大丈夫ですよ。……こう見えて、この2人は頼りになりますから。」
「……おい、こう見えてって何だ。」
「自分もちっちゃいじゃねえか。」
「なっ……恭治！ それはどういう意味ですか！」
「どうって、まんまの意味に決まってるだろ？」
「ッ……！ それは低身長に対する差別発言です！」




「……元気だねぇ。ここ最近、あんな声を聞いたことはなかったよ。」
「すみません、騒いでしまって……」
「いいんだよ。……いつかは、前のように笑顔の絶えない街に戻るといいんだが。」
「……その願いは、俺たちが叶えてみせますよ。……そのためにも、姉さんの託してくれたそのデッキをお願いします。」
「……なんだって？ ……まさか、君は……」
「矢次 杏は俺の姉ですよ。……なんだか、姉さんがここまで導いてくれたようにも思えます。」
「……立場上、あまり言うべきことではないのだろうが……今だけは、運命というものを信じてしまいそうになるよ。……君のお姉さんの意思は必ず成し遂げてみせるよ。」
「はい。俺も頑張ります。」







「……2日、か。長いような短いような。」
「その間に、私たちも出来ることをしましょう。」
「……そうだな。」
「……強志、無茶はしないでくださいね。今の強志のデッキは普通のものなんですから、今までのようには……」
「分かってるよ。俺に出来る範囲で頑張るさ。」
「まあ大丈夫だろ。いざという時は俺が助けてやるから安心してな。」
「……実際、ヤバくなったら恭治のD・ホイールで逃げるのも手だろうな。」
「逃げるって、3人乗りか？ ん〜……その時は強志が凉花を抱きしめといてくれよ。」
「……抱きしめ、？ ……〜〜！！」
「分かった。……凉花？ 顔赤いけど大丈夫か？」
「……え？ ……い、いや、何でもないですよ。」


どう見ても何かあるが……本当に問題があるなら打ち明けるだろうし、何でも話せばいいって訳でもないからな。




「……よし、行くか！」
「おう！」
「は、はい！」