61話 次元を超えた力　作：名無しのゴーレム

「……よっ、と」



近くで倒れていた郁哉を担ぎ上げ、京子の隣に寝かせる。京子も安心して寝てしまったようだ。これで、ひとまずは大丈夫か……



「さて、それじゃあ始めるか」
「ハッ。わざわざやられにくるとは、お前も馬鹿な奴だな」
「そうでもねえよ。……あいにく、こんなところで負けるわけにもいかないからな」



……完成版機密兵器。アカデミアに対抗するために作られたこのデッキ、そのお試しといかせてもらうか。



強志 LP4000
アカデミアA LP1800 モンスターゾーン 古代の機械参頭猟犬（表側守備表示）
アカデミアB LP1500 モンスターゾーン 伏せモンスター1体
アカデミアC LP2100 モンスターゾーン 古代の機械究極猟犬 魔法・罠ゾーン 古代の機械戦車（古代の機械究極猟犬装備）



「俺のターン、ドロー……！？」



……なるほど、そういうことか。確かにこれは、他次元の力を組み込んでるな……！



「……機密兵器06 マージを召喚。マージの効果発動。このカードと手札の機密兵器03 ストリグスを融合する！」
「貴様も、融合を使うのか！？」



……まあ、『それだけ』じゃないけどな。



「反逆の機械たちよ、次元を超えし力を得て交われ！ 融合召喚！ 現れよ、機密兵器ζ（ゼータ） フューズ！ フューズの効果発動！ 墓地のマージを除外して、古代の機械究極猟犬の攻撃力・守備力を1000ポイント下げる！」

古代の機械究極猟犬 攻撃力3400→2400 守備力2000→1000

「フューズのこの効果は1ターンに2度まで使用できる！ 墓地のストリグスを除外して、もう一度究極猟犬を弱体化させる！」

古代の機械究極猟犬 攻撃力2400→1400 守備力1000→0

「くっ……」
「バトルだ！ フューズで古代の機械究極猟犬を攻撃！」

アカデミアC LP2100→1300

「古代の機械戦車の効果発動！ このカードが破壊されて墓地に送られたとき、相手に600ポイントのダメージを与える！」

強志 LP4000→3400

「……だがそれと同時に、フューズの効果も発動する。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、デッキから機密兵器1体を手札に加える。さらに破壊したモンスターが融合モンスターだった場合、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを、相手に与える！」
「究極猟犬の攻撃力は2800……クソッ！」
「これで一丁上がりだ。行け、フューズ！」

アカデミアC LP1300→0

「……カードを2枚セットして、ターンエンドだ。さあ、次はお前らのターンだぜ？」


強志 LP3400 モンスターゾーン 機密兵器ζ フューズ 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
アカデミアA LP1800 モンスターゾーン 古代の機械参頭猟犬（表側守備表示）
アカデミアB LP1500 モンスターゾーン 伏せモンスター1体


「チィッ、面倒だな……俺のターン、ドロー！ ……参頭猟犬を攻撃表示に変更、バトル！ 参頭猟犬でフューズを攻撃！」
「攻撃力が低い参頭猟犬で攻撃だと……？」
「手札から速攻魔法、決闘融合―バトル・フュージョン発動！ 参頭猟犬の攻撃力にフューズの攻撃力を加える！」

古代の機械参頭猟犬 攻撃力1800→4000

強志 LP3400→1600

「っ！？」
「俺はこれでターンエンド。……どうした、カッコつけて乱入した癖にこの程度か？」
「……そっちこそ、まだ勝ち誇るには早いんじゃないか？」
「フンッ、言ってろ……」


強志 LP1600 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
アカデミアA LP1800 モンスターゾーン 古代の機械参頭猟犬
アカデミアB LP1500 モンスターゾーン 伏せモンスター1体


「俺のターン、ドロー。……古代の機械猟犬を反転召喚。古代の機械猟犬の効果発動！ 相手に600ダメージを与える！」

強志 LP1600→1000

「かはっ……！！」
「バトル。古代の機械猟犬で……」
「させるか、よぉ！！ リバースカードオープン！ 永続罠、機密技術―バリア！ 手札の機密兵器04 シーラーを墓地に送って、このターン俺が受ける戦闘ダメージは0になる！」
「……凌いだか。ターン、エンド」


強志 LP1000 魔法・罠ゾーン 機密技術―バリア 伏せカード1枚
アカデミアA LP1800 モンスターゾーン 古代の機械参頭猟犬
アカデミアB LP1500 モンスターゾーン 古代の機械猟犬


「……俺のターン……ドローッ！！」



よし……これなら！



「スタンバイフェイズにストリグス、マージの効果発動！ この2体を特殊召喚する！ チューナーモンスター、機密兵器07 チューンを召喚。チューンの効果発動！ 墓地の機密兵器04 シーラーを特殊召喚する！ レベル4のシーラーにレベル2のチューンをチューニング！ 反逆の機械よ、次元を超えし力を得て同調せよ！ シンクロ召喚！ 現れよ、機密兵器ε（イプシロン） ギャロップ！」
「融合召喚だけでなく、シンクロ召喚まで……」
「まだだ！ レベル4のストリグス、マージでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れよ、機密兵器α デストロイ！」
「……融合、シンクロ、エクシーズ。3つの召喚法を、同時に扱うってのかよ……！！」
「ギャロップの効果発動！ 1ターンに1度、デッキ・墓地から機密兵器1体を除外して、このモンスターの攻撃力をそのモンスターの攻撃力分アップする！ 俺が除外するのは攻撃力1300の機密兵器05 クラッシュ！」

機密兵器ε ギャロップ 攻撃力2000→3300

「さらにデストロイの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、参頭猟犬をこのモンスターの装備カードにする！」

機密兵器α デストロイ 攻撃力2000→3400

「……マズイぞ！ このままじゃあ……」
「ああ、お前たちはこのターンで終わりだ！ バトルだ！ デストロイでダイレクトアタック！」

アカデミアA LP1800→0

「……さて、あとはお前1人だな」
「う、嘘だろ！？」
「残念だが現実だよ。ギャロップで古代の機械猟犬を攻撃！」
「くっ、ぐわぁぁぁ！！」

アカデミアB LP1500→0





「……ふうっ。これでとりあえず、この辺りは大丈夫か……」
「強志！！」
「ん？ ……なんだ、涼花か。そっちはもう片付いたのか？」
「はい……やっぱり、京子たちもこの次元に来ていたんですね」
「そうみたいだな。……ありがとう、シルビアさん。おかげで仲間を助けることが出来ました」
「いえ、お気になさらずに。私の方もあまり詳しい話は聞いていませんでしたので、まさかお嬢様たちのお仲間だとは……」
「シルビア、2人の治療を任せてもいいですか？」
「かしこまりました、お嬢様」
「……強志。京子がここにいるということは、風音さんも一緒に来ている可能性が高いかと。もしかしたら、風音さんも窮地にいるかも……」





「その心配は……」
「いらないわよ！！」
「「「！？」」」





どこかで聞いたことのある声が、爆音とともに……



「……って、危ねぇ！？」
「きゃあぁぁぁ！！」
「お嬢様！！」



こっちへ猛スピードで突っ込んできた一台のバイクは、しかし俺たちの目前で急停止した。



「……久し振り、ってほどでもないか。よかった、2人とも無事で」
「危うく轢かれるところだったがな……」
「何言ってるのよ。そんなことするのはお兄ちゃんだけだっての」
「俺だって人を轢いたりはしねえよ！」
「いや、お前が言うな。……まあともかく、風音と恭治も無事で……？ なあ恭治、その腕はどうしたんだよ？」
「えっと、これはな……」






「……と、そんなことがあったんだよ」
「そうだったのか……その怪我、大丈夫なのか？」
「まあ……デュエルする分には問題ないな。治療もここの人たちにやってもらったし……ところで、アカデミアはもういないのか？」
「え？ どうだろうな……」
「音は……しませんね」
「……そう言えば、神谷と月詠ちゃんは？ あの二人に限って、アカデミアにやられたなんてことはないでしょうけど……」



…………ん、！？



「おい、風音……今、『神谷』って言ったか！？」
「……ああ、強志にも説明しなきゃいけないんだっけか。えっと、実はね……」






「あ、みんな集まってるんだ。お疲れ〜……」
「……アカデミアの迎撃を、完了しました」
「！？ お前は……！！」



1人の少女を連れて現れた男、そいつは……



「神谷……敦人！！」
「？ 君は……スタンダードでデュエルした奴か。なんだい？ 僕は今、君に構ってる暇は……っ、グアァァ！！！」
「敦人！！」



……なんだ？ 神谷が突然苦しみ始めた……



「…………、ハッ。なぁに、問題ないさ。ちょっと、眩暈がしただけだ……」
「そんな調子で大丈夫なわけないでしょうが。顔色も悪いし、全身傷だらけじゃない」
「……ま、それも全部事実だけど。それでも、やるしかないんだよ……まったく、郁哉はやっぱり無茶したみたいだね。そこは変わっちゃいないわけだ……」



神谷は郁哉に近づいて行く……



「おい、郁哉に何する気だ！」
「心配するなよ。……『禁断融合』はあいつの手によって神のカードの力を取り込み作り出された、文字通り禁忌のカード。その代償は並大抵のものじゃあないが、それに対する手っ取り早い治療法は一つ。……神のカードの力を使い、その代償を取り除くことだ」



奴は郁哉に向けて神のカードをかざした。すると……！



「…………？ おれは……」
「おはよう馬鹿野郎。僕の忠告も聞かなかった結果ここでぶっ倒れてたわけだけど、気分はどうだい？」
「…………！！ そうだ、アカデミアは！？」
「大丈夫だ郁哉。あいつらは俺が……俺と京子が倒したよ」
「矢次、先生……？ どうしてここに……」
「えっと、それはだな……」
「ガァッ、グッ、アアァァァアァァ！！！」
「なっ……！？」
「敦人！！」
「神谷！？」
「……なんだよ、何が起きてるんだ！？」



……そうか。あいつは確かに言った、『神のカードの力を使って』と……



「グゥアァァァァ！！ ガァァァアァ、グァ、アァァ…………はぁ、はぁ、……」
「……神谷。今のは、神のカードの力を使った代償か？」
「…………そう、だよ……それを知ってるってことは、君は神のカードに関係あるみたいだね……」
「……関係あるどころか、今は持ち主だよ。お前が探してる3枚目の神のカード、『オベリスクの巨神兵』の、な」
「おいおい、マジかよ……よりにもよってこのタイミングで見つかるなんて、僕はどこまで神に見放されたら気が済むんだ……」
「……その身体でこれ以上神のカードの力を使えば、命に関わるだろう。悪いようにはしない、俺に神のカードを……」
「お断りだ。僕には、やらなきゃいけないことがあるんだよ……！」
「やらなきゃいけないこと？ そんなボロボロの身体で、神のカードを使ってでもか？」
「……まあね。ともかく、君を倒せば3枚の神のカードが僕の手の中に揃う。……デュエル、しようか」



……やはり、説得は無理か。



「……いいぜ。このふざけた闘いを、今ここで終わらせてやる」
「よし、それじゃあ……」
「ま、待ってくれ！！」



……郁哉？



「……神谷 敦人。先生とデュエルする前に、約束を果たしてもらうぞ。……お前が知っていること、そのすべてを話せ」
「……だ、そうだ。君のところの生徒がああ言ってるんだ、ちょっと時間をもらってもいいかい？」
「…………」



郁哉の方を見る……その目は、真剣そのものだった。



「……分かった」
「どうも。さて、それじゃあ始めようか。僕が知るすべて……『僕ら』の過去を、明らかにしよう」