34話 新たな力、新たな嵐　作：名無しのゴーレム

「私のターン、…ドロー！ …！！」
美愛はカードをドローし、そのカードを見て固まっている。一体何を引いた？
「…私はチューナーモンスター、デブリドラゴンを召喚。デブリドラゴンの効果発動。墓地のアンブラル・アンフォームを特殊召喚。」
チューナーモンスターにもう一体のモンスター。シンクロ召喚か？
「私はレベル4のデブリドラゴンとアンブラル・アンフォームでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。来て、No.39 希望皇ホープ！」
美愛の場にホープが現れた。しかし、いくらホープが攻撃を凌げても、カオス・ソルジャーに除外されてしまっては意味がない。ここからどう繋げるつもりだ…？
「そして手札から、通常魔法、RUM-ヌメロン・フォース発動！」
「何！？」
神宮寺君が驚愕する。俺もまさかここでRUMが使用されるとは思わなかった。
「私はNo.39 希望皇ホープをランクアップさせます。カオスエクシーズ・チェンジ！ 来て、CNo.39 希望皇 ホープレイV！」
CNo.にカオスエクシーズ・チェンジ…美愛は俺が知らないエクシーズ召喚の方法まで知っていると言うのか…
「ホープレイVの効果発動。オーバーレイユニットを1つ取り除いて、相手モンスター1体を破壊して、その攻撃力分のダメージを相手に与えます。カオス・ソルジャーを破壊！」
ホープレイVがカオス・ソルジャーに突進し、その刃で切り裂き、その爆風が神宮寺君を襲った。
「ぐっ、ぐわぁぁぁ！！」

郁哉 LP4000→1000

「さらに装備魔法、ストイック・チャレンジ発動。ホープレイVに装備します。装備モンスターは効果を発動できず、攻撃力はそのモンスターのオーバーレイユニットの数×600ポイント上昇し、相手モンスターとの戦闘で与えるダメージを2倍にします！」
ホープレイV 攻撃力2600→3800
「バトル！ ホープレイVで大和神を攻撃！」
ホープレイVの刃が大和神を切り伏せた。

郁哉 LP1000→0



「勝者、美愛！ …おめでとう！」
仙波さんの宣言が終わるや否や、京子が美愛のもとに走っていった。
「美愛！ やったね！」
その勢いのまま美愛に抱きついた。しかし、美愛は先ほどのデュエルのダメージが残っていたようで、そのまま倒れてしまった。
「あ、ありがとう、京子… でも、あと、2戦、……」
「え！？ 美愛、大丈夫？」
美愛の言葉が途絶えた。連続4試合はさすがに厳しかったか。
「…美愛も疲れたんだろ。俺が運ぶよ。」
そう言って神宮寺君が美愛をおぶった。自分も相当疲れているだろうに…
「やっぱり京子の前だといい格好しておきたいんだね。」
播磨君が少しにやけながらそう分析した。…何じゃそりゃ？
ともかく、これで6戦のうちの4戦が終了した。あと2人か…
「対戦相手、どこから探したらいいだろうな。」
「そうですね… どこがいいんでしょうね。」
俺の疑問に、伊沢君も答えが出なかったようだ。
「…よし、それじゃあ美愛が起きたら帰るぞ！」
そうして、美愛が目覚めるまで次の対戦相手を考えていたが、どうにもこれといったものもなく、結局その日のうちに決まることはなかった。



――翌日の放課後。京子たちも集まって、美愛の対戦相手について話し合っていた。
「LDSは駄目なの？」
「あんな大手、うちなんかに構ってくれないだろう。」
「ここなんかどうかな？」

様々な案が出ているようだが、どれもいまいちなようで、最終的には全員黙り込んでしまった。

ちょうどその時、来客用のインターホンが鳴った。
「お客さんか。行ってくるぞ。」
俺が扉を開けると、そこには一人の京子たちと同じぐらいに見える少年がいた。
「えーと、何の用事かな？」
入塾希望の連絡はなかったはず。京子たちの知り合いだろうか。
「俺は播磨 秀（はりま しげる）って言います。播磨 智はここにいますか？」
なんだ、播磨君の兄弟か。
「ああ、智君なら中にいるよ。入るかい？」
「ありがとうございます！」
それにしても、播磨君のお兄さんが何の用だろう。忘れ物とかか？


俺が秀君を連れて戻ると、京子たちは未だに美愛の対戦相手を探している最中だった。
「ん？ お兄さん、その人誰？」
京子の発言で全員が秀君の方を向いた。
「播磨君、お兄さんが会いに来たそうだよ。」
俺の呼び掛けに、播磨君は答えなかった。…いや、正確には固まっていた。彼の兄、秀君を見たまま。
「な、何で……」
「どうしてお前がここに居るんだ、秀。」
言葉を紡げない播磨君の代わりに、神宮寺君が秀君に問いかけた。
「どうしてって…弟に会いに来るのも駄目なのかい？」
「……ふざけるな！！ 一体ここに何の用だ！！」
播磨君が激昂する。何やら彼らの間には因縁があるようだが…
「…智、お前ジュニアユース選手権の出場資格を手に入れたんだろう？」
「…だったらなんだって言うんだよ。」
「いや、大したことじゃないさ。」
秀君は大げさに体を動かしてそう言った。

「何、お前は選手権に出るなって言いに来ただけだよ。」

「…何だって？」
播磨君よりも早く神宮寺君が反応した。
「なぜそんなことを言う。お前に智の出場を止める権利などないだろう。」
「まあそうなんだけどさ、これは警告みたいなものなんだよ。今度のジュニアユース選手権は危険だ。だからお前みたいな半端者は出ない方がいいってね。」
「半端者…だと？」
「ああ、そうさ。LDSに居たときも一度しか俺にデュエルを挑まず、挙げ句の果てに郁也がいるからとここに逃げてきた。これが半端者でなければなんと言えばいいんだ？」
「ちょっと！ 黙って聞いてたら、いくら何でも言い過ぎじゃない！」
「そうだよ！ 智君が可哀想だ！」
京子たちが神宮寺君に加勢する。
「はあ、外野には黙っておいて欲しかったんだが… まあいい。じゃあさ、智、俺とデュエルしよう。」
「え…？」
「俺が負けたら俺はジュニアユース選手権に参加しない。もう二度とここに来ないと約束しよう。ただしお前が負けたら、今回のジュニアユース選手権を降りてもらう。」
「……」
播磨君は答えない。よく見てみると、彼の体が僅かに震えていることに気付いた。
「おい。播磨君…」
「それならそのデュエル、私が受けます。」
突然、美愛が口を開いた。秀君はその提案にやれやれというアクションをとりながら美愛に言う。
「話聞いてた？ 俺は智とデュエルしたいんだ。君には用事はないんだけど。」
確かにこの話、美愛には何の関係もない。なのにどうして…？
「私に勝ったら智とデュエルさせてあげます。どうですか？」
…まさか、美愛は播磨君の異常に気付いて…
「ふーん… いいよ。じゃあ明日、LDSに来てよ。そこでデュエルしよう。」
…？ どうしてLDSで？
「分かりました。」
「よし。それじゃあ俺は帰るよ。…智、明日、必ず来るんだぞ。」
最後に播磨君に言葉を残して、秀君はこの場を後にした。