52話 捜索開始　作：名無しのゴーレム

俺たちがここ――おそらくシンクロ次元に着いてから数日が経った。風音も店を一度閉めて、今日から本格的に美愛の捜索を始めるのだが…


「4人いるんだし、２グループに分けようと思うんだけど。片方は都市部、もう片方はその他の場所でさ。」

この風音の提案により、俺たちは2人づつに分かれて行動することにした。


「どっちの方が安全なんだ？」
「んー。都市部は治安が良いけど、セキュリティが怖いわね。この辺りはギャングが多いけど、まあ昨日の連中と一緒に行動すれば問題ないでしょう。」

そうか。じゃあ…

「…あのさ、私ともう1人で都市部に行かない？ 私のD-ホイールに乗った方が移動も簡単だし。」
「そうだな。じゃあ誰が風音と一緒に行く？」

俺の問いに、凉花が静かに答える。

「…私は、強志とこの辺りの捜索を。危険な場所なら京子は行かない方がいいでしょう。」

その言葉に、京子はムッとして反論する。

「何よそれ！ なら私とお兄さんでここを探すよ！ 凉花は風音さんと一緒に安全な方に行ってきなよ。」
「……」
「……」

…はぁ、なんだこれ。2人とも黙ってお互いを見つめている。

「……そう。なら私と強志で出かけるわ。行くわよ、強志。」
「え、ちょっ、風音？」

風音に連れられ、俺は彼女のバイクのサイドカーに乗せられる。

「ち、ちょっと待って下さい！」
「そ、そうだよ！ なんでそうなるの！」
「2人は要望通り、この辺りをお願い。あいつらを頼れば主要な場所は探せるから。じゃあ、また後でね！」

バイクが走り出すと、すぐに2人との距離が空いていった。


「そ、そんな～～！！」
「うそでしょぉぉ～～！！」


そんな叫び声を後ろに聞きながら。




風音はバイクを走らせ、道路を進んでいく。だんだんと景色が近代的なものになっていった。
「…なあ、なんでさっき、あんなことをしたんだ？」
「…あんな言い争い、させとくだけ時間の無駄よ。ああいうのはこっちでさっさと決めてしまった方がいいの。」
「…そんなもんか。」
「そんなもんよ。」
「…そう言えば、『D-ホイール』ってなんなんだ？ ただのバイクじゃないんだよな？」
「ああ、知らなかったんだっけ。じゃあまずはライディングデュエルの説明からかな…」



「…ふーん、そんな歴史が…」
「まあね。うちのお兄ちゃんもプロデュエリスト目指して、うちを出ていっちゃったし。」
「へぇ…って、風音、兄がいるのか！？」
「居るわよ。…そんなに驚くこと？」

風音の兄…どんなやつだろうか。

「そんなことよりも、早く風子を探すわよ。……おかしいわね、セキュリティが多すぎる。」
「…？ どうかしたか？」
「周りを見て。同じ服着た奴等が山ほどいるでしょ？」

…確かに。彼らは周りを見張っているようだ。

「…事件でもあったのか？」
「分からないけど、普通じゃないことだけは確かね。あまり変な行動は取らない方がいいかも。」
「…了解。」


「っつても、何の手がかりも無しに探すのは無茶だったかね…」

しばらくいろいろなところを探したが、何の情報も得ることが出来なかった。

「そうね…あんまりやりすぎるとセキュリティに目をつけられそうだし、ここらで一旦止めておきましょう。食材の買い出しがあるから、そこのお店にでも入りましょうか。」


「これと、…ああ、これも買っておかないと。」
「……」

次々と俺の持つ買い物袋に食品が入れられていく。

「後は…あの2人にお土産でも買ってあげようかしら。何がいいと思う？」
「さあ…出来れば早くしてくれ。」

もう時間も遅いし、何より……重い。

「分かったわよ。…ねぇ、あれ見て。」
「ん？」

風音の指差す先には、1人の少女が。どうかしたのだろうか。

「あんな格好してるの、初めて見たわ。まるでドレスみたいだけど、やっぱりトップスのお嬢様なのかしら？」

…？ 待て。あの姿、見覚えがある。過剰なフリルで、どう見ても歩きにくそうな格好をした、そう…

「…東雲、心希？」
「え、知り合いなの？」

風音が驚きの声を上げる。

「…あいつの跡をつけたい。いいか？」
「…分かったわ。」

東雲はどうやら何か買い物をしたらしく、小さな袋を手に店を出ようとする。

「…あの子、何者なの？」
「あいつはアカデミアの――美愛を拐ったやつらの仲間だ。なんでこの次元にいるのかは分からないが…」
「…なるほど。だから跡をつければ何か見つかるかもしれない、と？」
「ああ。何かというよりも、美愛本人の居場所に繋がってるんじゃないかと思ってるがな。」
「…試してみる価値はあるわね。私が追いかけるわ。強志はその荷物を持って先に私のD-ホイールのところに戻っておいて。」
「いや、俺が追いかける。風音にそんな危険なこと…」
「私の方がこの辺りを知ってるわ。それに、向こうは私のことを知らない。尾行するなら大きな利点だと思うけど？」
「…分かった。でも、無理はしないでくれ。」
「もちろん。じゃあ、行ってくるわ。」

そう言い残して、風音は素早く東雲の近くへと迫っていく。そのまま店を出ていってしまった。



風音が尾行を始めて数十分が経った。

（…それにしても、どうして東雲 心希がここに？）

美愛を拐った張本人の東雲がいるということは、やはり美愛もいる可能性も高いだろう。だが、なぜ？ アカデミアからこちらに移動する理由があるのか？

（…分からん。風音、無事に帰ってくるといいが…）

「…ただいま～。」
「風音！？ どうだった！？」
「…ごめん、逃がしちゃった。っていうか、何なのよあの子！ すごい動きしてたわよ！」

…やはり、その辺りは訓練されているというわけか。

「…まあ、風音が無事で良かったよ。」
「…はあ。折角手がかりが見つかると思ったのに…」
「東雲がいるって分かっただけでも収穫だ。恐らくあいつはこの近くにいるんだろう。次はもっと入念に調べてみよう。」
「…そうね。さて、帰りますか。凉花ちゃんと京子ちゃんたちはどうだったかな？」



そうして、俺たちは風音の家に戻った。そこには既に京子と凉花がいた。

「…あ、2人とも、お帰り…」
「…京子？ どうかしたか？」

珍しく元気のない京子の声に違和感を覚えた。

「そう言えば、一緒に行ったあいつらは？ もう帰っちゃったの？」
「……」

凉花も俯いて黙ったままだ。一体何が…




「強志、風音さん、実は…」