60話 襲い来る巨悪、託された未来　作：名無しのゴーレム

「……おい。これ、どういうことだよ……？」



姉さんとともに走って十数分。研究所があるはずの場所に着いた、が……



「力尽くで研究所の場所を探し当てたってのかよ。……間違いない、霧生の仕業だ」
「じゃ、じゃあクレアさんたちは……？」
「っ……行くぞ、強志！」





研究所の中は見る影もないほどに荒れ果てていた。……何故か、人の気配もなかった。



「……クレアさん？ みんな、どこに……」
「強志。……これを見ろ」



姉さんが床から何かを拾い上げる。それはまるで、カードのようで……！！



「う、嘘だ……」
「嘘じゃねえ、これが真実だ。……あいつは、ここの奴ら全員をカードにしやがったんだよ」
「……なんで、なんでなんだよ！？」
「んなこと分かるかよ！ ……っ、まずは『機密兵器』を……クレアたちが遺したものを探すぞ。私はこの辺りを当たるから、強志は向こうの方を頼む」
「…………ああ」




……ついこの前ここで会話を交わしていた人が、もういないという現実。分かっていたつもりだったが、こう直面するとキツイものがある。



（……涼花は、こんなことを何回も味わってきたっていうのか……？）





『……生体反応、認識』
「！？」
『生体データのパターン把握……矢次 強志様、こちらは管理AIです』
「か、管理AI……？」
『はい。私はこの研究所に備え付けられたもので、この場所の全機能を管理しています』



……つまり、この研究所そのものってわけか。



『矢次 強志様。クレア様からの届け物がございます。向かって右側の壁のパネルに触れてください』
「え……これか？」



ﾋﾟｯ



指示通りパネルに触れた。すると……



「おい、これって……」
『クレア様からはこの研究所が襲撃された際、直前まで開発を行っていたカードをこの場所に隠しました。そして矢次 強志様たちがここを訪れたとき、私がこれを届けるように命令を残しました』
「……『機密兵器』の完成は、間に合ったのか？」
『研究所に保存されたデータから計算すれば、作業は全体のおよそ85パーセントほどのところで中断されました。しかしカード完成という面だけで再計算すれば、100パーセント……すなわちすべての工程が完了しています』
「……？ じゃあ、残りは何が出来ていないんだ？」
『……クレア様からのメッセージを再生します』



管理AIは俺の質問に答えることなく、何故か近くのスピーカーを起動させた。



『……えっと、ちゃんと動いているかな？ これでミスってたら最悪だけど……それは君を信じるよ、AI君』



……それは、間違いなくクレアさんの声だった。雑音が多いことから、襲撃を受けた際に急いで録音したのかもしれない。



『……さて、じゃあ本題に入ろう。上手く行けば私たちの努力の結晶、完成版機密兵器は強志君の元に届くはずだ。今このメッセージを聞いているのが彼自身なら問題ないが、それ以外……彼の知り合いなら、どうか彼に伝えて欲しい。……そのカードには、一切の安全装置がかかっていない。No.と同様に、そのカードも所有者に多大な負担を与えるんだ。1回2回くらいなら問題ないが、もしアカデミアの軍団に立ち向かうなんてことがあれば……無事は保証出来ない。それに、神のカードとの反応も予測不可能だ。リミッターがかかっていないそのカードが想定外の力とぶつかれば……正直に言って、何が起きるのかまったく分からない。その力を使う前に、どうかそのことだけは理解しておいて欲しい……おっと、そろそろ時間みたいだ。最後に、私たちも過去の人たちを見習って……後は任せた。未来を、託したよ……』



「…………」
『以上が、クレア様からのメッセージです』



……それっきり、管理AIからの声はなくなった。与えられた役目を果たしたということなのだろう……



「……そうだ、姉さんのところに戻らないと」



だが、一つおかしなことがある。今の管理AIの声は研究所内全体に響き渡っていたはずだ。なのに、何故姉さんは何の反応も起こさなかったんだ……？






疑問はすぐに解消された。……研究所内に、姉さんはいなかったのだ。



（……ってことは、外に出たのか？ ……ともかくここにいないことは明白だ。一先ず俺も外に……）






「姉さーん、どこ行ったん……だ……」



姉さんは地上に戻ってすぐに見つかった。……何故なら、出口のすぐ前に立っていたからだ。少女を抱えた、一人の女性と対峙しながら……



「……強志か。カードは回収したか？」
「あ、ああ……なあ姉さん。あいつは……？」
「……教えてやるよ。あいつが融合次元の『守護者』にしてアカデミアの一員、守るべき神のカードを部下に奪われるなんて失態を犯しながらなにやら良からぬことを企んでいるキングオブ怪しい奴、霧生 奈緒だ」
「……ご紹介にあずかった霧生だ。お前が矢次の弟か？」
「答える必要はねえぞ、強志。……さっさと涼花たちのところへ行け、そこに神谷 敦人もいる」
「え……？ 姉さんはどうするんだよ？」
「見て分かんねえのか。……目の前の怪物相手に、命賭けた時間稼ぎすんだよ」
「ハ……ァ！？ それ、どういうことだよ！？」
「今言った通りだ！ ……こうしてる間にも、向こうで何が起きてるのか分からねえ。……これを持ってけ」



半ば強引に、姉さんから1枚のカードを手渡された。



「こ、これは……？」
「お守り代わりみたいなもんだ。おら、とっとと行け！」
「…………絶対、絶対追い付いて来いよ！ もう二度と、勝手に俺の前からいなくなるなよ……」
「……当たり前だろ。なんたって私は、お前の姉なんだからな」
「…………っ！！」
「おら、分かったら……走れ、強志！」



姉さんに背中を蹴られ、その勢いのままに走り出す。振り向かないように、姉さんに涙を見られないように……



（機密兵器にオベリスクの巨神兵、そしてこのカード……全部終わったらまとめて突っ返してやる。だから……）






「無事で、いてくれよ……！！」