16話　「榊　遊矢」　作：名無しのゴーレム

『揺れろ！　魂のペンデュラム！　天空に描け光のアーク！』

――仙波家に2人目の居候ができてから2週間が経った。

『ペンデュラム召喚！　出でよ！　我がしもべのモンスターたちよ！』

現在美愛は京子の部屋を共同で使っている。一緒のベッドで寝ているらしく、寝ているときに京子が抱き付いてきて困るということを1度相談された。昼は学校に行くということもないので、仙波さんや俺の仕事を手伝ってくれている。といっても俺たちもずっと仕事をしているわけでもなく、結構暇な時間もある。そういう時に決まって美愛はあの映像を見ている。

「おお…」

…何回見ているんだろうか。そう思うくらいに彼女は数日前のあるデュエルの映像――ストロング石島と榊　遊矢のデュエルに見入っていた。というより…
「そんなに気になるのか？　ペンデュラム召喚。」
「はい。見たことがなかったので。」
…そりゃあ世界で初めてらしいからな、当然だろう。
「塾同士で対抗試合ができれば生で見れるんだがな。」
「それは難しいと思います。世界で唯一のペンデュラム召喚の使い手ですから、それこそ世界中のデュエリストからデュエルを申し込まれているはずです。きっと今頃大手のデュエル塾が山ほど対抗試合を申し込んでいますよ。」
「…そんなもんかねぇ。」
美愛は再びデュエルに目を移していた。何回も見て、よく飽きないもんだ。


夕方になって、デュエル塾が開講する。俺と仙波さんはそのための準備をしていた。そこに、京子が帰ってきた。かなり急いだらしく、息を切らしていた。
「大変だよ！」
「京子、帰ってきたらまずはただいまだろう？」
「あ、ただいまお父さん。…そうじゃなくて！」
京子が慌てたようにして帰ってきた。何かあったのだろうか。
「何が大変なんだ？」
「それがね、なんと……、遊勝塾との対抗試合が決まったの！」

「それにしても、どうやって対抗試合を組んだんだ？　遊勝塾も今は忙しいだろうに。」
「そうだよね、私もそう思ったんだけどさ、柚子に聞いてみたらオッケーもらっちゃったの。いや～、本当に驚いちゃったよ。」
――どうやら、京子は榊　遊矢と彼の通う遊勝塾の塾長の娘の柊　柚子とクラスメートで、特に柊　柚子と仲が良いらしい。それで何の気なしに対抗試合をしないかと持ちかけたらまさかのOKがでてしまったとのことらしい。
「なんでもさ、最初は入塾者が押し寄せたらしいけど、ペンデュラム召喚にはペンデュラムカードが必要だってことが分かるとみんな入塾を取りやめたらしいよ。」
ペンデュラムカード？　…なるほど。現在、ペンデュラムカードは遊矢君しか持っていないカード。それがなければペンデュラム召喚ができないのであれば、入塾する理由もなくなってしまうわけだ。
「だから対抗試合も普通に組めたと？」
「うん、今はもういつもみたいな感じらしいよ。」
「ふーん…、あ、美愛にも伝えてやったらどうだ。あいつ、生でペンデュラム召喚を見たがってたからさ。」
「そうだったね。じゃあ今から言いに行ってくるよ！」
そう言い残して、京子は家の方へと走って行った。

「まさかこんなことになるとは思いませんでしたよ。」
「ああ、俺もそう思ったよ。事前に1度挨拶に行かないとね。」
京子が美愛のところへ向かった後、俺と仙波さんは準備を続けながらそんなことを話していた。
「それにしても、対抗試合っていつするんでしょうか？」
「さあ。京子が戻ってきたら聞いておかないとね。」
そこへ、京子が美愛を連れて戻ってきた。
「遊矢さんとデュエルできるって本当なんですか！」
美愛が興奮した様子で俺に詰め寄ってきた。こいつがこんなに興奮してるの、初めてだ…
「いや、俺に聞くなよ…」
「なあ京子、その対抗試合はいつにするのかとかは決まってるのか？」
仙波さんの質問に、京子は笑みを浮かべてこう言った。
「もっちろん！　なんと…3日後だよ！」
「……」
「……」
「えっと、2人とも、大丈夫ですか？」
呆然としている俺と仙波さんを見て、美愛が心配してきた。…、いや、いくらなんでも、


「「急すぎるだろう！」」