35話 過去の確執　作：名無しのゴーレム

「何なのあいつ！ 智も何で言い返さないのよ！」
秀君が去ってすぐに、京子は怒りをあらわにした。
「……」
それに対して、播磨君はまだ一言も話さないまま俯いている。
「…ねえ郁哉、何があったの？ 郁哉は知ってるんでしょ？」
「…ああ、知っている。だが…」
神宮寺君は言葉を詰まらせ、播磨君の方を見る。
「…いいよ。郁哉、全部話してあげて。」
ようやく播磨君が口を開いた。しかし、顔が真っ青で、とても大丈夫には見えなかった。
「…そうか。じゃあ俺から話させてもらう。」


「まず、俺と智は以前LDSにいた。俺は総合コース、智は融合コースだった。」
…秀君の話からまさかとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「そして秀は今もLDSにいる。昔は俺ともよくデュエルしていたが…」
「ねえ、あの秀ってやつは強いの？」
京子が疑問を投げ掛けた。
「…あいつはシンクロコース所属で、少なくとも俺が居たときにはシンクロコース最強と言われていた。」
「そんなに強いんだ…」
「…話を戻すぞ。以前の智は、今とは比べものにならないほど弱かった。それで一度秀とデュエルしたんだ。当時シンクロコース最強と言われたあいつとな。」
「それじゃあ…」
「ああ。まともなデュエルにならなかった。…あれは本当に酷いデュエルだった。それ以来、智は秀を避けるようになった。」
「そんなことが…」
伊沢君が唖然とする。
「…頼む、美愛。秀とのデュエル、必ず勝ってくれ。今の智を秀と戦わせるわけにはいかない。」
「はい。絶対に勝ちます。」
美愛が頷く。と言っても相手はLDS所属、さらにシンクロコースのエリートときた。厳しい戦いになるだろう…


――翌日。
「ここがLDSか…」
何度か見たことがあったが、実際に入るとなるとその大きさに圧倒される。
「すごいね…、早く入ろうよ！」
京子がはしゃいでいる。何しに来たんだか分かってるんだろうな…？
「……」
それとは対照的に、播磨君はずっと押し黙ったままだ。
「…大丈夫か、智。」
その姿を神宮寺君が心配しながら、俺たちはLDSの中へと入っていった。


「やあ、待っていたよ。」
中に入ると、秀君が入り口で立っていた。
「案内するよ。」
秀君の後に付いて、LDSの内部を進む。途中の壁にはカリキュラムなどが写し出されていた。そのまま進んでいくと広い場所に出た。ここがデュエルフィールドか…
「はい、到着。ここがセンターコートだよ。」
そこには数十人の塾生が観客席にいた。まさか、２人のデュエルを見に来たのか…？
「あはは、ごめんね。俺がデュエルするって言ったら皆が見たいって言い出して。気にしないでよ。」
…いや、気にするだろ。本人にその気は無いのかも知れないが、とてつもないアウェー感が出てしまっている。
「あ、そうそう。実は１人、君たちのところの塾生とデュエルしたいって言ってるやつが居るんだ。えーと…」
秀君が周りを見渡していると、ズカズカと俺たちの方へ向かってくる塾生がいた。あの子のことか？


「…ここで会ったが百年目だな。神宮寺 郁哉！」
「沢渡…何のつもりだ。」
沢渡と呼ばれた少年は真っ直ぐに神宮寺君を指差して言う。
「何のつもりだだと？ 決まっている、お前が勝ち逃げしたから、そのリベンジに来たんだ！」
「勝ち逃げだと… お前、俺と何十回デュエルした。しかも全部俺の勝ちだっただろう。」
「うるさい！ いつまでもお前の知る沢渡 シンゴだと思うな！ 今度こそお前を負かしてやる！」
「はあ…。シンゴ、もういいか？ 俺は今からあの子とデュエルするからさ。」
秀君が呆れたようにしながら尋ねる。
「そうかよ。ならさっさと終わらせるんだな。その後に俺様が郁哉とデュエルするんだからな。」
「それなんだが、沢渡。１つ提案させてもらうが。」
「？ 何だよ。」
神宮寺君が笑みを浮かべながら沢渡君に言った。
「俺とやるまえにこいつとデュエルしないか？ お前が勝ったら俺とデュエルしてやるよ。」
「え？ 郁也、何を…」
美愛が神宮寺君の突然の提案に驚く。まあ、多分「6人目」の確保ということなのだろうが…
「あん？ どういうつもりだ？」
沢渡君もその提案に疑問を持ったようだ。
「こいつ、美愛は昨日俺に勝ったんだ。俺だって勝つと分かっているデュエルを受けるつもりはない。でもどうしてもデュエルしたいんなら、まずは俺に勝った美愛に勝つことだな。」
なんて露骨な挑発を… しかし、沢渡君は実に分かりやすく挑発に乗ってきた。
「上等だ！ おい、美愛とか言ったか。今すぐ俺とデュエルしろ！」
「ちょっとシンゴ、人の話を聞けよ！ まずは俺がデュエルするの！」
その後、少しの言い争いがあってから沢渡君が観客席に着いた。話が付いたらしい。


「ふう、これでやっと始められるよ。…さあ、始めようか！」
秀君の合図で両者はデュエルディスクを構える。
「頑張れ、美愛！」
「はい。…必ず勝ちます。」


「アクションフィールド、『真夜中の王宮』発動！」
デュエルフィールドが暗闇に包まれていく。こんなアクションフィールドがあるのか…
「これじゃあアクションカードを探せないよ…」
京子が呟いたように、この暗闇の中では相手のモンスターの姿さえも満足に見えないだろう。だが相手も条件は同じ。どんなデュエルになるのだろうか…


「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが、地を蹴り、宙を舞い、フィールド上を駆け巡る！」
「見よ、これぞ、デュエルの最強進化形！ アクション…」


「「デュエル！」」