side美愛：造られた存在　作：名無しのゴーレム

「…………え？」
「何がおかしい。お前は勝つために存在している、ただそれだけの話だが？」
「ぃ、いや、わけが分かりません。あなたは、私の何を知っているんですか！？」
「すべてだ。初めにお前という存在を認識した瞬間から現在に至るまで、私はお前という事象を研究してきた。確証こそないが、少なくとも私にはこれ以上現実味がある仮説は提唱出来なかった。だからこそ、あえて断言しよう……お前は、人間ではない」



…………人間では、ない？



「…………」
「私からすれば、その反応こそ理解不能だがな。疑問には思わなかったのか？ 幾度も次元を超え、その度に記憶を失う……まず『何の力も借りずに次元を超える』、これ自体があり得ないことだ。赤馬 零王が融合次元に現れるまで、次元を超えるには私たち守護者が持つ神のカードの力が不可欠だった。だがもちろん、お前が神のカードを持つなどということはない。つまり……お前は神のカードと同等の力を有している、そう私は判断した」
「……神の、カード……？」
「なるほど、そこからか。簡単に言うなら……融合次元・シンクロ次元・エクシーズ次元にそれぞれ存在する文字通り神の如き力を持ったカード、とでも言っておこうか。……ともかく、私はお前の特異性を知ったときからその調査・研究を始めた。そしてその結果……おっと、サービスはこの辺りで止めておこうか。『私に勝てばすべてを教える』、そういう契約だろう？」
「…………」



これ以上を聞きたいならデュエルで勝て、ということか。


奈緒 LP3500 手札3枚 モンスターゾーン 黙示録の悪魔―赤の竜、黙示録の悪魔―バビロン（表側守備表示） 魔法・罠ゾーン 黙示録の地―メギドの丘、黙示録の象徴―獣の数字 伏せカード1枚
美愛 LP3200 手札4枚 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚


「……私のターン、ドロー」

奈緒 LP3500→5500

「手札のアンブラル・ゴーストの効果発動。手札のヘル・セキュリティとこのカードを特殊召喚します。さらに通常魔法、死者蘇生を発動。墓地のミドラーシュを特殊召喚します。レベル2のアンブラル・ゴーストとレベル5のエルシャドール・ミドラーシュにレベル1のヘル・セキュリティをチューニング。シンクロ召喚。来て、琰魔竜レッド・デーモン！」
「今度はエクシーズ召喚か。だが、そのモンスターでは……」
「リバーズカードオープン。永続罠、強化蘇生。墓地のヘル・セキュリティをレベルを1つ上げて特殊召喚します」

ヘル・セキュリティ レベル1→2

「レベル8のレッド・デーモンにレベル2のヘル・セキュリティをチューニング。シンクロ召喚。来て、琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル！」
「シンクロモンスターを、さらにシンクロ素材にしたか……」
「バトル。レッド・デーモン・ベリアルで赤の竜を攻撃」

奈緒 LP5500→5000

「メギドの丘の効果発動。蘇れ、赤の竜！ さらにリバーズカードオープン。永続罠、黙示録の光―福音の書を発動。私がダメージを受けたとき、デッキから黙示録モンスター1枚を墓地に送ることでこのカードにアポカリプスカウンターを1つ置く。私は黙示録の予言者―ヨハネを墓地に送る」
「レッド・デーモン・ベリアルの効果発動。このカードが相手に戦闘ダメージを与えたとき、デッキ・墓地から同じレベルのチューナーモンスターを1体ずつ特殊召喚します。来て、ヘル・セキュリティ、チェーン・リゾネーター！」
「チューナーモンスター、だと……まさか！？」
「リバーズカードオープン。通常罠、緊急同調。効果によりバトルフェイズ中のシンクロ召喚を可能にします。……私は、レベル10のレッド・デーモン・ベリアルにレベル1のヘル・セキュリティとチェーン・リゾネーターでチューニング。シンクロ召喚。来て、琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ！」
「……凄まじい迫力だな。そのモンスターもやはり、元からシンクロ次元にあったカードだとは思えない。考えてみろ……いや、思い出せ。お前は、そのカードをどうやって手に入れた？」



……このカードを、どこで手に入れたか？








『……わ、たしは……負けたく、ない。勝って……みんなのところに、戻るんだ……っ！！』










突如、頭の中に電撃が走ったように感じた。今のは……？



「……これは私の推論になるが、おそらくそのカードはシンクロ次元で創られたカードだ。……他でもない、お前自身によって、な」
「私が、このカードを……？」
「違うと言うのなら、いつどこで誰から受け取ったか、私に教えてほしいものだ」
「…………」
「……やはり、答えられないのだろう。そうだ、つまりお前は知らず知らずのうちにカードを創り上げる存在……人ならざるものだ」
「ち、違います！ 私は……！」
「『私は人間です』、とでも？ ……笑わせるな。ここまで異常な存在だという事実を突きつけられながら、よくもそんなことをのたまうものだな」
「……！！ レッド・デーモン・カラミティの効果発動！ このカードのシンクロ召喚に成功したターン、相手はカード効果を発動できない！」
「……再び、メギドの丘が封じられたか」
「レッド・デーモン・カラミティで赤の竜を攻撃！」

奈緒 LP5000→3500

「っ……」
「レッド・デーモン・カラミティの効果発動！ このカードが相手モンスターを戦闘で破壊したとき、相手にそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える！」

奈緒 LP3500→1000

「カ、ハッ……グ、ここまでライフを削られるとはな……！ だがお前は1つ、大きなミスを犯したぞ」
「…………」



……確かに、先ほどのカラミティの攻撃でバビロンを破壊していればこれ以上相手のライフが回復することはなかっただろう。



「勝負を焦るあまりに目先のダメージを優先するとは……どうした、そんな調子では私には勝てないぞ？」
「っ……！ ターン、エンドです……」


奈緒 LP1000 手札3枚 モンスターゾーン 黙示録の悪魔―バビロン（表側守備表示） 魔法・罠ゾーン 黙示録の地―メギドの丘、黙示録の象徴―獣の数字、黙示録の光―福音の書
美愛 LP3200 手札3枚 モンスターゾーン 琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ


「私のターン、ドロー。バビロンの効果発動。墓地の赤の竜とヨハネを特殊召喚。赤の竜の効果発動。レッド・デーモン・カラミティを破壊し、このカードの攻撃力を500アップする！」

黙示録の悪魔―赤の竜 攻撃力2500→3000

「レッド・デーモン・カラミティの効果発動！ このカードが破壊されたとき、墓地のこのカードを特殊召喚できる。舞い戻れ、レッド・デーモン！」
「……バトル。赤の竜でレッド・デーモンを攻撃！」



両者の攻撃力はともに3000。相打ちになるが……



「メギドの丘の効果発動！ 蘇れ、赤の竜！ 赤の竜でダイレクトアタック！」

美愛 LP3200→700

「っ、くうぅ……！」
「ターン終了。……お前はこの程度なのか？ もっと敗北を恐れろ、勝利を望め！ そのための力を創造しろ！」



…………勝ちたい。勝って、勝って……



「……勝つ、勝つ、勝つ……」
「フハハハ！！ そうだ、やはりお前は人ではない！ 神の手によって造られた舞台装置よ、見事その役目を果たして見せろ！！」


奈緒 LP1000 手札4枚 モンスターゾーン 黙示録の悪魔―赤の竜、黙示録の予言者―ヨハネ（表側守備表示）、黙示録の悪魔―バビロン（表側守備表示） 魔法・罠ゾーン 黙示録の地―メギドの丘、黙示録の象徴―獣の数字、黙示録の光―福音の書
美愛 LP3200 手札3枚


「私のターン、ドロー！」

奈緒 LP1000→3000

「カメンレオンを召喚！ カメンレオンの効果発動、墓地のアンブラル・グールを特殊召喚！ レベル4のカメンレオンとアンブラル・グールでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚、来て、No.39希望皇ホープ！」
「……そのカードが、まさしくお前の最後の希望というわけか」
「さらに手札から通常魔法、RUM-ヌメロン・フォースを発動！ ホープをランクアップして、フィールド上のすべてのカード効果を無効にする！」
「それは通さないぞ。ヨハネの効果発動。このカードをリリースし、相手が発動した魔法・罠カードの効果を無効にして破壊する」
「！？」



……そんな。今のが最後の逆転への手だった。それを、潰された……



「……だが、その後相手はカードを1枚ドロー出来る。さあ、カードを引け。お前のすべてを賭けて、自らの存在理由を示すがいい！」



このドローに、すべてが……



（……勝ちたい。勝たないと、勝って……）



「……ドローッ！！ ……RUM-アストラル・フォースを発動！！ ホープを2つランクアップさせる！ ダブルランクアップ・エクシーズチェンジ！ 来て、No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ！！」
「……ハハ、ハハハハ！！ そうだ、それでいい！ さすがは神が造った兵器だ、よもやここまで進化するとはな！」
「ビヨンド・ザ・ホープの効果発動！ このカードのエクシーズ召喚に成功したとき、相手フィールドのすべてのモンスターの攻撃力を、0にする！」

黙示録の悪魔―赤の竜 攻撃力2500→0

「ビヨンド・ザ・ホープの攻撃力は3000……この一撃で、勝負をつける気か」
「バトル！ ビヨンド・ザ・ホープで、赤の竜を……攻撃！！」
「くっ……！！」


奈緒 LP3000→


これで、私の…………



























奈緒 LP3000→6000






「…………、え？」



そんな、あり得ない。どうして、ライフが回復して……



「……フゥ、危ないところだったな。黙示録の光―福音の書の効果を発動させてもらったぞ。このカードに置かれたアポカリプスカウンターを1つ取り除くことで、自分が受けるダメージを無効にし、それと同じ数値回復する……即ち、3000ポイントのライフを得たわけだ」
「あ、ぁ…………」



全身から力が抜け落ちていく。…………駄目だ、もう勝てない。



「……完全に戦意を喪失したか。つまらないものだ、もしかしたら『奥の手』を使うことになるかもしれないと覚悟していたが……どうやら、まだ最終兵器としては未完成だったようだな」
「…………」



……ごめんなさい、みんな……出来ることならもう一度会って、きちんと話したかったかな……



「……やれ、赤の竜よ。最後の希望を、焼き尽くせ！」



目の前に君臨する暴竜が、私のモンスターを……みんなからもらったカードを、すべて燃やし尽くしていった。



「…………ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……なぁに、謝ることはない。これからお前はこの世界を統べるための大いなる力、その器となるのだ。いわばそれは、神の意志を愚民どもに伝える伝道師と言ったところか……さあ、疾く眠りにつけ。永遠に覚めぬ、悠久の暗黒へ旅立つがいい……止めを刺せ、赤の竜！！」








（……ああ、きっと、また逢えますように……だからそれまでは……さようなら、みんな……）