01話　始まり　作：名無しのゴーレム

……とりあえず、確認から始めよう。
俺の名前は矢次　強志（やつぎ　つよし）。
年齢は……18だったか、いや、この前誕生日を迎えたから19か。
職業は…機械修理工、といったところか。
家はハートランドにある、少し小さな一軒家。
……よし。特に思い出せないことはないな。
――たった一つの事実を除いて。



今、俺はどうやら家の中にいるらしい。確かなことは言えないが、生活感がところどころにあり、ずっと人が住んでいることを感じる。
……まあ、そんなことはどうでもいい。今大切なのは…
「……ここ、どこだよぉぉ～！！」
「あ、起きたんだ。」
声がしたほうを向くと、そこには俺より少し年下っぽい少女がいた。
「おはよー。なにがあったか知らないけど、あんなところで寝てたら風邪ひくよ？　気をつけなよ。」
「お、おう。…じゃない！　待ってくれ、俺、いったいどこで寝てたんだ！」
俺が少女に問い詰めると、少女は呆れたように、
「覚えてないの？　お兄さん、ゴミ置き場の中で寝ていたんだよ？　酔いつぶれたにしてもなんであんな場所で寝ちゃうかねえ？」
「俺は未成年だ！　酒なんか飲んでない！」
俺がそう言うと、少女は疑わしいというような目線をこちらに向けた。間違いない。あれはこちらの言うことを完全に信用していない目だ。
「じゃあなんであんなところに？」
「……わからない。」
「……お兄さん、家まで一人で帰れる？」
「当たり前だろ。ここがどこだか知らないが、なんとかして帰ってやるよ。」
俺はそう言い残し、少女の家を後にした。出ていくときに気付いたが少女の家は思ったよりもはるかに大きく、おそらくなにか店でもしているのだろうとそのときの俺は思っていた。



――少女の家を出て数十分後。
俺は絶句していた。どこまで調べても、ここがどこかわからない。いや、地名はわかった。ここは舞網市。それなりに発展した都市で、なによりデュエルへの力の入れようがすごいようで、デュエル塾もかなりの数あるようだ。
でも今はそんなことはどうでもいい。問題は本屋で地図を見てもハートランドが存在していないということだった。その事実に気づき、俺はその本屋から動くこともできなくなった。


そうして地図を手にして一歩も動けず固まったままの俺に、一人の男性が話しかけてきた。
「なあ、君、ゴミ置き場で寝ていた子だよね？」
「…あんたは？」
「ああ、自己紹介が遅れたな。俺は仙波　風斗（せんば　ふうと）。君、俺の娘と話したんだろう？」
「…ああ。あの子のお父さん。それで、どうかしたんですか？」
俺がたずねると、仙波さんはデュエルディスクを俺に差し出してきた。
「これ、君のデュエルディスクだろう？家に忘れていたから渡しに来たんだ。」
そのデュエルディスクを見て、俺はなにか違和感をもった。まるでなにか忘れてしまっているような…
「……」
「おい、大丈夫か？」
俺が考え込んでいると、仙波さんは心配そうな目で俺を見ている。
「…いえ、大丈夫です。」
俺は仙波さんからデュエルディスクを受け取った。
「なあ、君、家に帰れそうかい？娘が心配していたんだが。」
「……」
俺は思い切って、仙波さんに現状を説明した。俺がいたはずのハートランドが地図にないこと、だから家に帰るめどはついていないということを、正直に打ち明けた。
「…ハートランドか。確かに、俺も聞き覚えのない地名だな。で、君は自分の家が見つけられないということだね？」
「…はい。」
改めて説明してみると、ハートランドを知らない人からすれば信じるのは難しい話だ。おおかた、そんな話を信じることはできないと言われるだろうと予想していた。しかし、仙波さんは、少し考え込んだ後、俺にある提案をした。
「なら、一度うちに来ないか？このままじゃあ君もどうしようもないだろう？」
「え？」
思わず驚いてしまった。まさかこんなことになるとは思っていなかった。だが、仙波さんの提案はとんでもなく魅力的だ。受けない理由はないだろう。
「はい！ ありがとうございます！」
「ああ、一つ聞くのを忘れていたよ。」
仙波さんは改まったようにして俺の顔を正面から見据え、俺に問いかけた。
「君の名前は？」
「…矢次　強志です。」
仙波さんは俺の名を聞くと、ついてきてくれと外へと歩いて行った。これからどうするか、まったく方針はなかったが、なんとかしなければ、と俺はそのとき心に誓って彼の後についていった。