side凉花：地下デュエル場　作：名無しのゴーレム

私たちが言い争っている間に風音さんが強志を連れていってしまった。

「「…………」」
「…おい、お嬢ちゃんたち。大丈夫か？」

黙り込む私たちにたまらず1人の男性が話しかけてきた。

「…はい。」
「…じゃあ、早く行こうよ。」
「お、おう… お嬢の頼みだからな、俺たちも協力するぜ。まずは市場からかな…」

そうして、昨日のお客さんたちの案内を受けながら、私たちは望の捜索を開始した。

「そう言えば、なんで皆は風音さんのことをお嬢って呼んでるの？」

道中で京子が疑問を口にした。

「ああ、それはな…お嬢と兄貴、その兄妹のとある伝説から生まれたんだ。」
「伝説？ っていうか、風音さんにお兄さんがいたんだ…」
「その伝説というのはどんなものなんですか？」
「聞いて驚くなよ。…この前まで、この辺りはデュエルギャングが闊歩していたんだ。だから腕に自信の無いやつは外を出歩くことも出来なかった。そんな状況を、お嬢たちが変えたんだ。たった2人で町中のギャング全員を相手にしてな。」
「え！？ たった2人で！？」
「…それで、どうなったんですか？」
「…俺たちも、初めは無茶だと思ってたんだ。でも、あの2人は成し遂げた。すべてのギャングを倒して、町に平和を取り戻したんだ。だから、町の奴等は皆あの2人に感謝してる。それでお嬢、兄貴って呼んでるんだ。」
「へぇ～、そんなことが…」

町中のギャングを相手に… そこまで行けばもう『ただ強い』だけでは駄目だっただろう。

「…風音さんたちは、本当にこの町が好きだったんでしょうね。」
「ああ。お嬢のところじゃあ安く美味い飯も食える。だから皆あそこに集まるんだ。兄貴だって、ちょっと前まで俺たちにデュエルを教えてくれていた。」
「ふ～ん、風音さんのお兄さんってどんな人だったの？」
「兄貴はな…」
「京子、着きましたよ。」

話を聞いている間に、ずいぶんと歩いていたようだ。

「あ、そうだったの？ …よーし、なら聞き込み開始だね！」


「…うーん。」
「…結局、情報は無しですか。」

…まあ、正確には望が本当にこの次元にいるという確信すら無いのだ。ならばこの結果も妥当なものだと言えるが…

「…よし！ じゃあ次行ってみよう！」


その後も、私たちは多くの人が集まりそうな場所で望についての情報を募ったが、有力なものは何一つ得られなかった。

「…やはり、駄目なんでしょうか。」

知らず、弱音をこぼしてしまう。

「凉花、まだ終わってないよ。だから諦めちゃ駄目だって。…さあ、次はどこに行くの？」
「んー、っつてもめぼしいところはあらかた回ったし…そうだ！ あそこはまだだったな！」
「あそこ？」
「ああ、この町の闇の社交場……地下デュエル場だ。」
「「……地下デュエル場？」」



いかにも怪しげなビルに入り、中のエレベーターから地下へと降りていく。

「…ここ、大丈夫なんですか？」
「…確かに、怪しい感じがプンプンするけど…」
「まあ、違法ではある。だが俺たちはセキュリティなんかの言いなりにはならない。それに、ここなら表では手に入らない情報だってあるかもしれない。危険を冒す価値はあるはずだぜ？」
「…そこまで言うなら、行ってみる価値はあるのかな？」

京子はあっさり決意を固めたが、私はどうしても聞き流せないことがあった。

「…それでも違法であることは変わらないんですよね。それなら関わらない方がいいでしょう。」
「凉花、そんなこと言ってたら美愛を見つけられないよ？ 多少の危険は仕方ないでしょ。」
「危険を冒すことと法を破ることは違います。最悪の場合、この町を敵に回すことになるんですよ？」
「…なら、凉花だけ戻れば？ 私は美愛を見つけたい。だからどんなところにだって探しに行くよ。」
「…今のあなたは隼と同じです。大事なものを取り戻すために、どんなことでもする…その結果、彼は多くの敵を作りました。あなたには、その覚悟があるんですか？」
「そんなの…」


……ガシャン！


「…着いたぞ。喧嘩もその辺にして、まずは中に入ろう。」

彼らが会場へと入っていく。京子もその後に続く…

「…行くしか、ありませんか…」

仕方なく、私も会場へと足を踏み入れた。



「行け！！ そのまま押し切っちまえ！！」
「何やってんだ！！ こっちはお前に有り金全部賭けたんだぞ！！」



「ここが地下デュエル場。非合法の賭けデュエルが行われる場所だ。」
「賭けデュエル…そんなもの、デュエルに対する冒涜です。デュエルは賭けの道具ではありません！」
「まあまあ、落ち着きなって。俺たちもお嬢に言われてからは賭けんのは止めてる。でもデュエル自体は面白ぇから、たまに見に来んだよ。」
「……」
「…あれ？ ねぇ凉花、今デュエルしてるのって…」

京子がスタジアムの中心にある大きな電光掲示板を指差す。そこには今デュエルしている選手の紹介があった。えーと…


「…え？」


そこに大きく映し出された名前、それは…

「…隼！？ どうして隼がこんなところに！？」
「そっちもだけどさ、対戦相手の方も見たことあるよ。たぶんランサーズのメンバーだと思うけど…」

もう片方の紹介では『デニス・マックフィールド』という名前が。確かに見たことがある。ということは…

「どうして仲間同士でデュエルを！？ というか、なんでバイクに乗ってデュエルしているんですか！？」
「知らないのかい？ あれはライディングデュエル。俺たちコモンズが生み出した、スピードの中でのデュエルだ！」
「…いや、さすがに危ないんじゃ…普通に立ってデュエルしようよ…」

京子も呆れ果てている。だが、今はそれよりも…


「…どうやら、デュエルも終盤のようですね。」

互いのライフは100。場にはエクシーズモンスターが1体ずつ。もうすぐ決着も着くだろう。

「…このデュエルが終わったら、2人に接触してみましょう。なぜここにいるか、聞きたいことはたくさんありますから。」
「…そうだね。でも今はこのデュエルを見てようよ！ どっちが勝つかな！」

…はぁ。当初の目的を忘れていないといいんですが…

「……？」

今、向こうの観客席に…

（あれはまさか…バトルロイヤルのときに戦った、アカデミアの…）

彼女らしき人影はデュエルを見ずに、何やら周りを見渡しているようだ。

「…京子、少しの間出掛けます。」
「え？ ちょっと…」




その時、急に停電が起きた。そのまま会場に制服を来た警察らしき人たちが押し寄せる。


「セキュリティだ！ 違法なデュエルの現行犯で、貴様らを」



「セ、セキュリティが来た！ 逃げろ！」
「うわああぁぁ！！」

観客たちが逃げるが、もうすでに包囲網が敷かれていて次々と捕まっていく。


「え、何！？ 何が起きてるの！？」
「京子、私から離れないで！ お願い、No.48 シャドー・リッチ！」

シャドー・リッチが私たちの周りに幻影を作り、セキュリティと呼ばれる彼らの目を欺く。

「さあ、今のうちにこっちに！」
「え…凉花！ あれ！」

出口への道に壁が現れる。このままではここを通ることは出来ない。

「くっ…お願い、No.34 電脳機獣テラ・バイト！」

…よし！ 読み通り、テラ・バイトの力によって目の前の壁が消えていく。私と京子は何とか出口への道に辿り着いた。




「…ハァ、ハァ、なんとか、間に合いました…」
「…でも、他の人たちが…」

…京子の言う通り、私たちを案内してくれた方たちが捕まってしまった。

「…すみません。あなたしか守ることが出来ませんでした。」
「…謝らないでよ。ありがとう。凉花のおかげで逃げられたんだから。」
「……取りあえず、風音さんのところに戻りましょう。強志たちにも、このことを知らせないと。」
「…そうだね。急ごう。」



私たちが風音さんの家に着いてしばらくしてから、強志たちが戻ってきた。

「…あ、2人とも、お帰り…」
「…京子？ どうかしたか？」

京子の力無い声に、強志が心配したような声を上げる。

「そう言えば、一緒に行ったあいつらは？ もう帰っちゃったの？」
「……」

どうやら、2人は何も知らないようだ。…私たちから、この事実を伝えなければならないのか。


「強志、風音さん、実は…」


私は意を決して、2人に今さっき起きた出来事を話すことにしたのであった。