side郁哉：突然の災難　作：名無しのゴーレム

眩い光が消えた後、俺たちは見知らぬ土地に立っていた。


「…ここが、シンクロ次元…」
「どうやら、皆とははぐれちゃったみたいだね。」

…融合次元に戦いを挑むための戦力集め、それが俺たち『ランサーズ』がシンクロ次元にやってきた理由だ。だが、この場にいるのは俺、智、そして……


「ふーん、ここが…思ってたのとは違うな…」
「……なんで兄さんがいるんだよ。」
「何言ってんだよ。赤馬社長の話を聞いてなかったのか？ 俺はシンゴと一緒に敗者復活戦に勝ち残って、ランサーズに入ったんだよ。」
「そうじゃなくて、なんでよりによって兄さんが僕と同じところにいるんだよ！」
「そんなこと知るかよ。それより郁哉、これからどうする？」

…まずは現在の状況確認からか。仲間は…俺たち3人だけ。現在地は…

「ここ、多分…」
「車やバイク専用の道路だろうな。どこかに降りるところは無いのか…」


ウーーー……


「なんだ？」
「サイレンみたいだな… おい、こっちに来るぞ！」

サイレンを鳴らしているのはこちらに向かって来るバイクのようだ。そしてその前を走るバイク、それはだんだんとこちらへ近づいてきて…

「……え？ うわ、ぎゃああぁぁぁ！！」
「智！」

逃走するバイクから伸びた手が智を掴み、そのまま走り去って行った。

「うわー、すごいな。あれって人質のつもりなのかねぇ？」
「何落ち着いてんだよ！ 早く追いかけないと…」

相手はバイク、普通にやっても追い付かないだろう。どうすれば…

「まあそう焦るなって。郁哉、デュエルしようぜ。」
「……はぁ？」



「くそっ、放せよ！」
「ハハッ、良いのか？ 今放したらどうなるのか分かってるのか？」
「…くっ。」
「おいセキュリティよぉ！ 下手なことをしたらこいつの命はねぇぞ！」

逃走者は智を掴みながら依然逃走を続けている。…秀じゃないが、確かにあれはすごいな。セキュリティと呼ばれる追跡者もどうしていいか悩んでいるらしく、ずっと距離を保ったままの状態だ。

「ハッ！ いい気味だぜ！ …？ なんだ？」

…どうやら、こちらに気付いたようだな。

「…行くぞ、秀。」
「おう！ さあ、出番だ！」

秀がモンスターを召喚する。それは逃走者の目前に現れ、男の逃走を阻んだ。

「う、うわあぁぁ！ 何だよこれ！？」
「これは…ピラミッド・タートル？」


「足止めは出来た。後は任せたぞ。」
「ああ。…行け、古の騎士 ナラシンハ！」

どこからともなく姿を現した半獣の騎士が瞬く間に男から智を引き離す。

「な、なんだ！？」
「うわぁぁ！？」

「おい、そこのお前！ よくも人の弟を人質にしてくれたな！」
「誰だ！ …ま、まさか…」

男が空を見る。どうやら気付いたようだな。

「な…モンスターに乗ってる、だと…」
「正解！ ちなみにこいつはデスカイザー・ドラゴン。お前も馴染み深いはずの、シンクロモンスターだよ。」
「智は返してもらった。おとなしくするんだな。」

間もなく後方のバイクも追いついた。彼も目前の状況に驚愕しているようだ。

「な……と、ともかく、ようやく追いついた。お前を逮捕する！」


逃走者はすぐに拘束され、どこかへと送られていった。それを見届けると、追跡していた男性がこちらに話しかけてきた。

「…君たち、どうしてこんなところに？」
「えーと、それは…」
「……まあ、答えにくいならそれでもいい。君たちには凶悪犯の確保に協力してもらったんだからね。家はどこだい？ 歩いてここを出るのも大変だろうし、よかったら送っていくよ。」
「あー、それが…」
「…俺たちは、よその町からやって来たんです。だから、泊まる場所も…」
「……おい、郁哉！ 何言ってんだよ！」

一部を隠して真実を話した俺に、秀が小声で抗議した。しかし、その結果は…

「…なるほど。何か用事があってこの町に来たと？」
「はい。強い。デュエリストを探しに来ました。」
「……ハハハ！ つまり、武者修行ってところか？」
「え？」
「はい。その通りです。」
「…いいだろう。君たち、うちに来るといい。狭い家だが、何とかなるだろう。」
「本当ですか！？」
「ありがとうございます！」

…よし、予定通りだ。この人の感じからして、正直に話せば協力してもらえると推測できた。最終的に、予測よりもいい結果を得られたな。


「…うわ～。」
「これは、すごいな…」

智たちが揃って驚きの声を上げるほど、彼の自宅は素晴らしいものだった。彼自身が言ったように部屋自体は一人暮らし用と思われる広さだったが、家具の一つ一つが俺たちの目からしても明らかな高級品だった。だが、それよりも…

「…これ、全部あなたの？」
「ああ、昔のやつだけどな。」

…部屋に飾ってあった、無数のトロフィー。そこに刻まれている『優勝』、『準優勝』…

「デュエル、強いんですね。」
「それほどでも無いよ。まあ、これがあったからコモンズの俺がセキュリティに入れたんだけどな。…それはいいとして、まずは自己紹介だ。俺は宮地 颯馬（みやじ そうま）。君たちは？」

俺たちも自己紹介を終えて、本格的に彼――宮地さんの家に居候する身となった。


夜になり、俺たちは布団の中に入った。それは明るいうちに宮地さんが手に入れてきてくれたものだった。


「……郁哉、起きてるか？」
「…どうした、秀。」

見ると、智はもう眠っているようだった。…まあ、朝のこともあったからな。

「お前、こうなることを予想してたのか？」
「…まさか。いいとこ今日だけ泊めてもらえるくらいだと思ってたよ。」
「そうか。…あの宮地ってやつ、信頼出来ると思うか？」

…宮地さんは、俺たちが話さなかったことについて一切の追及をしなかった。突然モンスターが実体化していたことにも。敢えて言えば、そこが怪しいだろうが…

「…大丈夫だよ。あの人は信用できる。」
「……根拠は？」
「…俺の勘だよ。」
「…ハッ、なんだよそれ。…でも昔から、お前の勘ってよく当たってたよな。いいよ、なら俺も信頼しておくさ。おやすみ。」
「おやすみ。」



（……京子たちは大丈夫なんだろうか…）


――こうして、融合次元にいる彼女たちのことを思いながら、俺たちのシンクロ次元での最初の夜は過ぎていった。