09話　生徒の思い、講師の思い　後編　作：名無しのゴーレム

デュエルは神宮寺君の勝利で終わった。
「うう…やっぱり郁哉君は強いね。僕じゃ全然勝てないや。」
「そんなことはない。あそこでブラック・ホールを引いていなければ俺が負けていた。幹治は確実に強くなってる。」
「うんうん。私もそう思うよ。ねえねえ幹治、次は私とデュエルしようよ！」
そのまま京子たちはデュエルを始めてしまった。

「いつもこんな感じなんですか？」
「そうだよ。ああやってデュエルを繰り返してお互いのデッキの弱点を指摘しあったりする。講師が一方的に教えるよりもずっと効率的な方法だと私は思ってるよ。」
…なるほど。これが自習に重点を置いた塾、というわけか。いくら広いデュエルフィールドがあるといってもずっとデュエルをし続けるならあまり大人数では使えない。少人数だからこそできる方法だ。
「実際、去年のスタンディングデュエル大会では郁哉君が優勝、京子と幹治君もベスト8に入ったんだ。」
「それはすごいですね…じゃあ入塾希望者が押し寄せたりしたんですか？」
「それは……」
俺の問いかけに仙波さんが言葉を詰まらせた。もしかして俺が何かまずいことでも言ってしまっただろうかと考えていると、仙波さんが口を開いた。
「確かにスタンディングデュエルでは実績を残した。でも時代はもうすでにアクションデュエル一色になっていたんだ。」
「アクションデュエル？　何なんですか、それ？」
「アクションデュエルは少し前にプロデュエリストの榊　遊勝が生み出したとされているデュエルでね、デュエリストがモンスターたちと共にデュエルフィールド上を駆け巡る新しい形のデュエルなんだ。」
「へぇ…そんなデュエルがあるんですか…」
「そうなんだ。でもうちの塾にはアクションデュエルのための機材がなくてね。だからここではスタンディングデュエルしか教えられないんだよ。」
昨日京子が言っていたのはこのことだったのか。
「だからあまり入塾希望者はいなかった。今はLDSを筆頭にアクションデュエルも教えているデュエル塾が主流だからね。」
「…そうだったんですか。」
「ああ。だから京子たちも必死になってデュエルの腕を高め合っているんだ。もうすぐ開かれるジュニアユース選手権で結果を残そうとしてね。」
「…いい塾生たちですね。」
「俺もそう思っているよ。だからできるだけのことはしてやりたいんだ。君を採用したのだってそのためでもあるんだよ。」
エクシーズ召喚を学べば戦略の幅も広がる。確かに仙波さんの言うとおりだ。でも…
「…俺を採用した理由って、それだけじゃないですよね？」
「……、ああ、もうこんな時間か。そろそろみんなを帰さないと…」
…露骨に誤魔化した。まあ、もうおそい時間っていうのも事実か。
京子たちがデュエルフィールドから出ていく。
「郁哉、幹治、また明日！」
「京子ちゃん、バイバイ。先生たち、さようなら。」
「さようなら。」
伊沢君と神宮寺君が塾を後にする。
「さようなら。帰り道には気を付けるんだぞ。」
「さようなら。」
俺と仙波さん、そして京子がそれを見送った。

…仙波さんの思い、京子たちの思い。そのどちらにも答えるためにも、早くエクシーズ召喚を教えてやりたい。それが、そのときの俺の素直な気持ちだった。