24話　新たな1歩　作：名無しのゴーレム

オッドアイズの一撃を受けて、美愛は大きく吹き飛ばされた。
「っ…」
「おい、大丈夫か？」
デュエルが終了し、遊矢君が美愛のもとへ駆けていく。
「…はい。大丈夫です。」
デュエルに負けたのに、美愛は笑っていた。…なるほど。これが遊勝塾のいうエンタメデュエルか。
遊矢君が美愛を起こして、2人は握手した。

「は～。これでうちの負け越しか～。」
京子がため息を吐く。どうやら遊勝塾は予想以上の強敵だったらしい。
2人が戻ってきた後、別れの挨拶を済ませ、俺たちは遊勝塾を後にした。

「結局、結果はどうだったんだ？」
帰路の途中、気になった俺は京子に聞いてみた。しかし京子はわざとらしく目を逸らし答えようとしない。そんな京子の代わりに播磨君が答えてくれた。
「僕は勝ちましたよ。でもほかの皆は…」
「僕は紫雲院くんに負けちゃいました。」
「京子に邪魔されてまともにデュエルできませんでした。」
「ちょっと、郁哉！　喧嘩売ってるの！」
「冗談だよ。向こうの方が一枚上手でした。」
つまり、播磨君以外は全敗というわけか。これは厳しい結果だな。
「美愛、どうだった？　遊矢君とデュエルできて。」
京子が美愛に尋ねる。…いや、聞くまでもなくあの表情を見たら分かるだろう。
「楽しかったです！　ペンデュラム召喚、まさかあんなにすごいものだったなんて！」
…だろうな。そう思うくらいに、美愛は満面の笑みを浮かべていた。
「そうなんだ、よかった。ところで、お兄さんは用事だったんでしょ？どうだったの？」
話題が俺に移った。ヤバイ。さすがに京子たちにこんな話をするわけには…
「いや、特に何もなかったよ。大した用事でもなかったからな。」
「ふーん、大したことない用事で対抗試合をサボるなんてね～。」
「そ、そういうわけじゃなくてな…」
「京子、塾に戻ったら反省会だぞ。今のうちに何が駄目だったのか考えておいた方がいいんじゃないか？」
「え～、明日でもいいんじゃ…」
「いや、今日するぞ。」
仙波さんのおかげで話題が逸れた。…まったく、仙波さんには感謝してもしきれないな。


反省会も終わり、皆を帰した後、俺は仙波さんに呼び出された。
「何かあったんですか？」
「一応、何か分かったことがあったのか聞いておこうと思ってね。」
「……」
やはり、涼花に聞いたことを打ち明けるのは躊躇われた。あまりにも突拍子がなさ過ぎて信じてもらえるとは思えなかったし、それ以上に危険に巻き込んでしまうかもしれないという恐れがあった。それを察したのか、仙波さんは優しく俺に言った。
「…言いにくいことなのかい。」
「…すみません。」
「いいよ。話しにくいのなら話さなくてもいい。でも、困ったときはいつでも言ってくれ。必ず力になるよ。」
「…ありがとうございます。」


夕食を食べ終わった後、俺は一足先に自室に戻っていた。目の前には2つのデッキ。ハートランドで使っていたデッキと、こちらに来てから使っていたデッキ。それらを見ながら、俺は涼花に言われたことを思い出していた。



「…なんで姉さんの名前が出てくるんだよ。」
「杏は以前、偶然融合次元に飛んでしまったらしく、そこで『アカデミア』について知ったそうです。それからは、何度も融合次元に飛んでは私たちに情報を渡していてくれました。最初は私たちも信じることができませんでしたが、杏の失踪をきっかけに、私たちも融合次元への対策を立て始めました。」
「…姉さんは、今どこにいるんだ？」
「分かりません。恐らくは融合次元だと思いますが…」
「なら、どうして戻ってこないんだよ！」
「私も知りませんよ！！　…すみません。ともかく、杏のおかげで作成されたカード、それがあなたの持つ『機密兵器』なんです。」
「…黒咲は俺がこのデッキに相応しくないと言った。…正直、俺はあいつの言葉を否定できない。このデッキはお前に返すよ。」
俺は涼花にデッキを差し出した。しかし、涼花はそれを受け取ろうとしなかった。
「いいえ、そのデッキは強志が持っていてください。確かに強志は隼に負けてしまいましたが、だからといってそのデッキを持つ資格がないわけではないでしょう。相応しくないのなら、これから相応しくなっていけばいいんです。」
「…どうすれば、俺はこのデッキに相応しくなれるんだ？」
「そんなの分かりませんよ。でも、まずはデッキを組みなおしてはどうですか？」
「デッキを？」
「ええ、ちょうど以前のデッキも戻ってきたところですし、自分が使いやすいように組みなおしてみるんです。そうすれば、よりそのデッキを使いこなせるようになるんじゃないですか？」



「自分の使いやすいデッキ、か…」
涼花のアドバイスをもとに、デッキを組み上げていく。しかし、思ったよりも難航し、結果朝までデッキ構築に時間を費やしていた。