side美愛：立ち込める暗雲　作：名無しのゴーレム

郁哉と東雲さんがデュエルを始めてしまった。郁哉が勝てば東雲さんが京子に謝罪、東雲さんが勝てば郁哉がバトルロイヤルを棄権…あまりに不公平な条件だ。


心希 LP4000 手札5枚
郁哉 LP4000 手札5枚


「私のターン、ドロー！ カードを3枚セット。これでターンエンド。」


心希 LP4000 手札2枚 伏せカード3枚
郁哉 LP4000 手札5枚


「俺のターン、ドロー！ 手札から永続魔法、英雄の信奉者を発動！ 1ターンに1度、手札の古の騎士を任意の枚数見せることで、その枚数分の信奉者トークンを特殊召喚する。俺は手札の『古の騎士 ゲオルギウス』と『古の騎士 ロビン』を見せ、2体の信奉者トークンを特殊召喚！」


英雄の信奉者（オリジナルカード）
永続魔法
「英雄の信奉者」の①、②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。①：手札の「古の騎士」と名のついたモンスターを任意の枚数相手に見せる。その後、見せた枚数分自分フィールド上に「信奉者トークン」（戦士族・地・星1・攻0/守0）を特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はこのカードの効果以外でモンスターを特殊召喚することはできない。②：表側表示で存在するこのカードが相手によって破壊されたとき発動できる。デッキから「古の騎士」と名のついたモンスター1枚を手札に加える。


『古の騎士』？ 初めて聞くカードです。あれが郁哉の本気のデッキ…

「さらに通常魔法、英雄の道標発動！ このターン、通常召喚に加えてもう一度古の騎士を召喚できる。俺は信奉者トークン1体をリリースして、古の騎士 ロビンをアドバンス召喚！ 墓地の英雄の道標の効果発動！ このカードを除外して、古の騎士をアドバンス召喚する際のリリースを1体分減らすことができる。俺はもう1体の信奉者トークンをリリースして、古の騎士 ゲオルギウスをアドバンス召喚！」


英雄の道標（オリジナルカード）
通常魔法
①：このカードを発動したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ「古の騎士」と名のついたモンスターを召喚できる。②：墓地のこのカードを除外して発動できる。このターンに1度だけ、自分が「古の騎士」と名のついたモンスターを召喚する場合に必要なリリースを１体少なくする事ができる。

古の騎士　ロビン（オリジナルカード）
星6/風属性/戦士族/攻2200/守1300
このモンスターは特殊召喚できない。①：このカードはリリースなしで通常召喚する事ができる。この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1600になる。②：この効果は自分フィールド上に「古の騎士」と名のつくモンスターしか存在しない場合のみ発動できる。相手が魔法・罠カードを発動したとき、自分フィールド上のこのカードをリリースすることでそのカードの効果を無効にし破壊する。

古の騎士　ゲオルギウス（オリジナルカード）
星8/光属性/戦士族/攻3000/守2600
このモンスターは特殊召喚できない。①：このモンスターの召喚に成功したとき、フィールド上のカード1枚を対象として発動する。対象のカードを破壊し、そのカードのコントローラーに1000ポイントのダメージを与える。②：この効果は自分フィールド上に「古の騎士」と名のつくモンスターしか存在しない場合のみ発動できる。1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を対象にして発動できる。対象のモンスターを破壊して、そのモンスターの攻撃力分このモンスターの攻撃力を上昇させる。


上級モンスターが2体…それでも、あの3枚の伏せカードの前には慎重にならざるをえないはず。となると…

「ゲオルギウスの効果発動！ このモンスターのアドバンス召喚に成功したとき、フィールド上のカード1枚を破壊して、破壊したカードのコントローラーに1000ポイントのダメージを与える！ お前の伏せカードを破壊！」

心希 LP4000→3000

「バトルだ！ ゲオルギウスでダイレクトアタック！ 」

ゲオルギウスの攻撃力は3000…この攻撃が通れば1ターンキルが成立する。

「…キヒヒ。リバースカードオープン！ 通常罠、神風のバリア ―エア・フォース―発動！ 相手の表側攻撃表示のモンスターすべてを手札に戻す！」

そんな！？ 郁也のモンスターはすべて上級モンスター。もう一度召喚するためには準備を要する。これが通ってしまえば…

「無駄だ！ ロビンの効果発動！ 俺の場に古の騎士のみが存在する場合、このモンスターをリリースして、相手の魔法、罠カードの発動を無効にして破壊する！」

ロビンの放った矢が罠カードを射抜き、そのまま破壊してしまった。

「そ、そんな…」
「残念だったな。バトル続行だ！ ゲオルギウスでダイレクトアタック！」
「くっ、リバースカードオープン！ 永続罠、死霊ゾーマ！ このカードを私の場に特殊召喚する！ ゾーマが戦闘で破壊されれば、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える！ どう、これでも攻撃する？」
「…バトル終了。ゲオルギウスの効果発動！ 俺の場に古の騎士のみが存在する場合、相手モンスターを破壊し、そのモンスターの攻撃力分、このモンスターの攻撃力を上昇させる！ 死霊ゾーマを破壊して、攻撃力を1800ポイントアップ！」

ゲオルギウス 攻撃力3000→4800

「攻撃力…4800！？」
「俺はカードを1枚セットしてターンエンド。さあ、かかってこいよ。」


心希 LP3000 手札2枚
郁哉 LP4000 手札1枚 古の騎士 ゲオルギウス 英雄の信奉者 伏せカード1枚


「私のターン、ドロー！ …キヒヒ！ 私は手札から…」

ブー、ブー、ブー、……

突然、東雲さんのデュエルディスクから音が鳴った。

「あー、ちょっとごめんね～。はい、もしもし～。…分かった。今から行くよ。」

東雲さんは通話を終えると、デュエルを中断して森の方へと歩いていく。

「おい。決着はまだ着いていないぞ。」
「ああ、ごめんごめん。この勝負、私の負けでいいよ。はい、ペンデュラムカード。」

東雲さんが郁也に向けて2枚のペンデュラムカードを投げた。

「…お前の負けってことは、このバトルロイヤルが終わった後に…」
「分かった分かった。あの子に謝ればいいんでしょ。ちゃんと約束は守るよ。……その時に、私がこの次元にいたらね。」
「…？ おい、何言ってんだ…」
「じゃあね～！！」

東雲さんは別れの言葉を言うと、その格好からは想像も出来ないような軽々とした動きで、この場を去っていった。


「…俺はあいつの後を追ってみる。…あいつから、何かおかしなものを感じた。」
そう言い残して、郁哉は東雲さんの向かった方へと行った。私は、先ほどのダメージが回復してから移動することにした。


体も動くようになって、他のデュエリストを探そうとした、ちょうどその時。


「な、何あれ…」


同じ遺跡エリアの上空に、禍々しい漆黒の龍が現れた。それにしてもあの龍、どこかオッドアイズに似ているような…

「…行ってみますか。」

誰があの龍を操っているのかも興味がある。そちらの方へと歩みを進めたのであった。


デュエルの行われている場所に着いた。そこには仮面を付けた3人組と、そして…

「あれは、…遊矢さん？」

姿形を見ると、あれは確かに遊矢さんだ。…でも、あの禍々しい龍を従え、普段の彼とは程遠い表情を浮かべたその姿に、私は遊矢さんだと認めることを躊躇ってしまった。


「行け、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン！」

「うわぁぁぁ！！」

漆黒の龍が3人組を薙ぎ払い、彼らのライフを0にした。一体何が起こっているの…？

遊矢さんに倒された3人組は光となって消えていった。遊矢さんはそのままどこかに向かって歩き出して…

「…！ 危ない！！」

先ほどのデュエルの余波か、遺跡の柱が遊矢さんの方へと倒れていった。このままでは…

「遊矢！！」

大柄の男の人が遊矢さんをかばって柱に直撃した。あれは確か、選手の権現坂さんだったか…

「大丈夫ですか！？」

私は2人の前へと走っていった。権現坂さんはなんとか大丈夫なようだが、遊矢さんは苦しむように暴れている。

「くっ… そこの2人！ 誰か人を連れて来い！」

気づけば私の近くにもう一人の少女がいた。こんな子、選手の中にはいなかったはずだけど…
「何してるの！？ 早く人を探すわよ！」
「は、はい！」
少女に言われるがまま、私は氷河エリアの方へと向かった。


「あ、智！ それに…え？」
氷山エリアで私は智と、それと…
「ん？ ああ、美愛ちゃんか。やあ、久しぶり！」
「…えーと、なんで秀さんが？」
「…運営の手伝いなんだってさ。」
そうなんだ。…じゃない！
「すみません！ 2人に急いで来てもらいたいんです！」
「美愛？ 何があったの？」
「それは…」


「……分かった。今すぐ向かうよ。」
「ありがとうございます！」
「ち、ちょっと待ってよ！ 選手以外のデュエリストがバトルロイヤルに混じってるっていうの！？」
「…恐らくは。それより、今は遊矢さんのところへ！」
「…分かったよ。」
よし。これなら…



「残念だけど、行かせる訳にはいかないんだよね。」



「！！」
突如、私たちの前に1人の男性が現れた。年は強志と同じくらいでしょうか…いや、そんなことより。

「…あなたは誰ですか？ あの仮面をした人たちの関係者ですか？」
「…ああ、オベリスク・フォースに会ったんだ。…そうだよ。僕たちはこの次元にちょっと用事があってね。」
「『この次元』…？」
「あ、もしかして何も知らなかった？ 口を滑らせちゃったな…まあいいか。とにかく、君たちをここから行かせる訳にはいかない。これ以上デュエリストに集まられても厄介なんでね。」

…この人に付き合っているわけにはいかない。早く遊矢さんのところへ向かわなければならないのに…

「…はあ。2人とも、ここは俺に任せて先に行け。」
「兄さん！？」
「お前は早く榊 遊矢のところに行け！ 美愛ちゃん、案内は任せたよ。」
秀さん…
「…智。行きましょう。」
「でも、兄さんが！」
「秀さんなら大丈夫です。それよりも、早く遊矢さんのところに行かないと！」
「……」

そうして、私たち2人は遺跡エリアへ向かった。あの男も追っては来ないようだ。


（……一体、何が起きているんですか！？）
暗雲が立ち込め始めたバトルロイヤルに、私は不安を感じながら走り続けた。