65話 残された光　作：名無しのゴーレム

「諦めんじゃ、ねえよ！！」






…………え？ この声、まさか……！！






「……姉さん！？ 無事だったのか！？」
「当たり前、だろうが……まあ、霧生の奴に手酷くやられてさっきまで意識が飛んでたんだがな」



……よく見れば、姉さんの身体には至る所に怪我がある。どれも命に関わるものには見えないが、数が多すぎる。



「そんなことはどうだっていいんだよ……お前ら、何始める前に降参してんだ！！」
「っ……じゃあどうすりゃいいんだよ！！ 霧生にはもう手出し出来ない、そしてもうすぐハートランドが……この次元が消えてなくなるんだぞ！？」
「……ロクでもないことを企んでるとは思ってたが、まさかここまでとはな。だが、まだ終わっちゃあいない」
「え……姉さん、まさかこの状況をどうにか出来るってのか……？」
「……強志。いいか、よく覚えとけ。……出来るかどうかなんて問題じゃねえ、やらなきゃ何にも出来ねえんだよ。頭を使え、身体を使え、他人を使え。目的のために周囲のすべてを利用しろ。『出来ない』ってのは、そこまでした後の結果で分かることなんだよ」
「っ……！！」



この状況で、俺たちに出来ること……考えろ、考えるんだ……！！



「……姉さん。今ここには3枚の神のカードがある。その力はあいつに奪われたが……守護者の力を使って、神の力を一時的に取り戻すなんてのは可能か？」
「……いや、残念だがそれは無理だ」
「っ、そうか……」
「だが、霧生の元に殴り込む手段はある」
「え！？ ど、どうやってだよ！？」
「奴のいる次元の狭間、そこに辿り着く鍵は……お前だよ、強志」
「…………俺？」
「ああ。お前の持っている機密兵器……それには対アカデミアの最終兵器とは違う、もう一つの側面がある。それは……奪う力だ」



奪う……力？



「まあ、元々は他次元の力を取り入れてより強力なものに仕上げるためのものだったんだが……神と闘ったそのデッキには、欠片ほどではあるが神の力が宿っている。そいつと神のカードがあれば……神のカードの枚数分、3人くらいは向こうに送れるはずだ」
「3人、か……」



もはや人ではない霧生を打倒するのは、俺一人では不可能だろう。でも……



「……矢次先生。俺も……連れて行ってください」
「え……郁哉？」
「このカード……『禁断融合』は神の力の一部を有しています。それに……あいつは、絶対に許せない」
「郁哉……」
「……ざっけんなよ。お前がやられたら、僕は今まで何のために闘ってきたってんだ……」
「そんなこと知るか。……負けてやるつもりはない、必ず勝って戻ってくる。だから……それまでは生きてろ、神谷 敦人」
「……まったく、弟の癖に生意気なんだよ……」
「先生、いいですか？」
「……分かった。じゃあ、あと一人は……」
「わ、私が……」
「涼花、お前は駄目だ」
「なっ……杏、どうしてですか！？」
「お前には他にすべきことがある。お前にしか、出来ないことなんだ」
「…………」
「なら、俺が行くとするか」
「恭治……」
「お兄ちゃん！？ 自分が何言ってるのか分かってる！？」
「分かってるに決まってるだろうが。……師匠曰く、俺のデッキは神を倒すために作られたらしいからな。なら、今使わずにいつ使うってレベルだろ？」
「で、でも怪我が……！！」
「こんなもん気合いでどうにかなる。ともかく、止めたって無理にでも行ってやるからな！」
「……ハァ、分かった。……今度は、絶対に戻って来てよね」
「ああ。絶対だ……ってわけだ。強志、俺も行くぜ」
「……おう。これで、3人揃ったか……」



……この闘いに、すべての次元の存亡がかかっている。



「…………」
「強志……大丈夫です。私は、強志を信じていますから」
「涼花……」
「だから、お願いです……必ず、戻ってきてください。強志までいなくなったら、私は……」
「……大丈夫だ。霧生を倒して……そして、美愛の奴も助け出す。俺だって、これ以上やられっぱなしなのは嫌だからな」
「！！ ……分かりました。私も全力を尽くします。全部終わらせたら……」
「そうだな、またハートランドが平和になったら……どこかに遊びに行こうか。遊園地とか、涼花は行ったことないだろ？」
「……はい。楽しみにしていますね」



「……神宮寺 郁哉」
「月詠……？」
「お願いします。彼女を……霧生 奈緒を止めてください」
「……言われなくても、そうするつもりだ」
「そう、ですね……」
「郁哉！ ……絶対勝ってね！」
「……ああ」



「お兄ちゃん」
「なんだよ風音、そんな怖え顔して……」
「……こんな闘いさっさと終わらせて、早くプロデュエリストになってよね。お母さんの治療費を稼いでくれるんでしょ？」
「お、おう……当たり前だろ」
「じゃあとっとと行ってきなさい。……信じてるから」
「……ハッ、誰に言ってると思ってんだ？ 相手がどんな奴だろうが知ったこっちゃねえ。俺の……俺たちの未来を邪魔する奴は、正面からぶっ潰してやるぜ！」
「……そうね。ギッタンギッタンにしてやりなさい！」
「おう！」






「……郁哉、恭治。準備はいいか？」
「はい」
「いつでも行けるぜ！」
「よし、じゃあ……」



……いや。そういえば、絶対にしておかなくちゃいけないことがあったっけ。



「なあ、姉さん」
「うん？ どうした、強志」
「……いや、あの時の答えを言っておきたいと思ってさ」
「……分かった、聞かせてもらおうか」
「神谷とのデュエルで思ったんだ。あいつは1人だったけど、紛れもなく強かった。……それを見てさ、俺もあんな強さがあったらなって。たぶんさ……守りたいものがある奴は強い、姉さんが言いたかったのってそういうことだよな？」
「…………」
「ああ、悪い。いきなりこんなこと言っても訳分からないよな」



あれは夢の中での問いだ、現実の姉さんに答えたところで……



「いいや、お前の思いは伝わったぜ。……やっぱり、お前は私の自慢の弟だ」
「ね、姉さん……」
「強志。今のお前に、守りたいものはあるか？」
「……ああ、もちろん」



突然スタンダードに来て右も左も分からない俺を助けてくれた仙波さん、まるで母親のように優しくしてくれた紗枝さん、こんな俺を先生と呼んで慕ってくれた幹治や智、郁哉。シンクロ次元で共に闘った京子と風音、エクシーズ次元で命を賭けて俺たちに希望を残してくれたクレアさん、危険を顧みないで力を貸してくれたシルビアさん……そして、凉花や姉さん。



「なら、そいつらのためにも負ける訳にはいかねえな？」
「……そうだな」
「もっと胸張って言え！ お前は、何のために闘うんだ！」
「……守るためだ！！ 俺たちの世界を、俺たちの日常を……もう誰にも奪わせはしない！！」
「よし、行ってこい！ 大丈夫だ、お前なら……お前たちなら出来る！！」



そう、俺一人じゃない。俺には、皆がついてるんだ……！！



「……みんな、行ってくる！！」
「……必ず勝つ」
「風音、美味い飯でも用意しとけよ！」






俺たちは霧生が開けた次元の狭間へと足を踏み入れる。……終わらせる。今度こそ、すべてを……！！