side敦人：過去と現在、『彼ら』の変化　作：名無しのゴーレム

「……交渉、だと？」
「ああ。お互いアイツーー霧生 那緒に狙われてる身だろう？ 敵の敵は味方、そう言うじゃないか。」
「……どうしてそれを？」
「どうしてって、決まってるさ。さっきからそこで覗き見してたからね。」


……うわ、睨むなぁ。郁哉からの視線が痛い。


「まあまあ、そう怒るなって。……郁哉、『アレ』を……ハンニバルを、使ったんだな。」
「……え？ 郁哉、どういうこと？」
「…………」
「敦人。やはりあれは、あなたが彼に渡したものだったんですね。」


なんだ、郁哉の奴、まだ月詠たちに見せてなかったのか。


「そうだよ。どうだ郁哉、その『ヒント』でお前は何か分かったか？」
「……説明しろ。なぜお前がこのカードを持っていた。……お前は、俺の何を知っている。」
「……嫌だ。ハァ、僕だって本当はそのカードを渡すつもりはなかったんだ。でもあの様子を見てたら、ほっといたらお前がもっと危険な闘いに挑むのが目に見えていた。それさえあればまず負けることはないと思っていたけど……いやいや、さっきのは予想以上だったよ。さすがは……」


……おっと、口を滑らせるところだった。


「……そろそろ話を戻そうか。僕が提供出来るのは『神のカード』の力、そしてアイツの動向についての情報だ。その上で提案なんだけど……僕と手を組まないか？」
「……待った。なんであなたと協力しなくちゃいけないのよ。」


名前も知らない女性が声を上げる。……やれやれ、どうやらまだ状況を把握出来ていないらしい。


「じゃあ聞くけど、このまま君たちだけでアイツを止められるとでも？ ……言っておくが、アイツの相手が出来るのは神のカードを持つ僕だけだ。そんなこと、月詠も分かってるだろう？」
「そうなの、月詠？」
「……彼女は、とてつもない実力の持ち主です。アカデミアを未曾有の危機に陥れた矢次 杏を打ち破ったのも彼女でしたから。」


……まあ、あれはその前に数え切れないくらいのアカデミアのデュエリスト、それに『彼女』との連戦の後だったから、あっちもかなり疲弊していたとは思うけれど……


「そういう訳だ。君たちには力が足りない。それに……この情報を聞けば、嫌でも僕の力を借りたくなるさ。」
「……情報？」
「これはアイツの部下をとっ捕まえて得た情報だけど……今から約1時間後、奴らがこの次元の生き残りが集う難民キャンプを強襲するらしい。」
「……証拠は？ まさか、ただでお前の言葉を信じろなんて言わないよな？」
「それならそれで構わない。1時間後にそれが事実だったことを知るといい。……最も、その頃には何人の犠牲者が出るか、僕には想像もつかないな。ついでに言うとするなら、敵の数は100を超えるそうだ。アイツも総力を結集させるつもりなんだろうな。」
「……俺たちを、脅すつもりか？」
「脅すだなんてとんでもない。僕としては君たちにはとっととここから去って欲しいくらいなんだ。でも、そうはいかないだろう？ それでいて、奴らがこの次元の住民を襲うところを無視することも出来ない。違うかい？」
「…………」


……本当、随分甘くなったものだ。『以前』とは比べ物にならないな。ま、それも当然だし、こちらからすれば喜ぶべきことではあるんだが。


「……それじゃあ、改めて聞かせてもらおうか。僕と手を組んでアカデミアに対抗するか、このまま勝ち目のない闘いに身を投じるか。君たちはどちらを選ぶ？」
「……質問だ。どうしてお前はこんな提案をする？ いくら考えてもお前のメリットが分からない。」
「メリット、ねえ……実は、まだ3枚目の神のカードの在り処が分からないんだ。その手がかりを掴むためにも、まだこの次元を完全に滅ぼされちゃ困るんだよ。あとは、そうだな……君たちと同じように、バカバカしいヒーロー気取りな気持ちも、完全には否定しきれないかな。……あ、話し合うなら好きにしなよ。僕は向こうにいるから、話がまとまったら呼んでくれるといい。」
「……では、そうさせてもらいます。」






……良かった。僕が離れている間に逃げられる、なんてことはなさそうだ。


（それにしても、すっかり月詠も郁哉たちの仲間って感じだな。……こっちにとってはその方が都合がいい。月詠が居れば郁哉もそう無茶はしないだろう。）


「……敦人。」
「月詠か。決まったかい？」
「はい。こちらに来てください。」



「さて、それでどういう結論になったのかな？」
「……ひとまず、お前の言い分を信じてやる。その代わり、こちらからも1つ条件がある。」
「条件、か。なんだい？」
「お前が知るすべてを話せ。……こっちだって分かってるんだ。お前も1人じゃあいつらに対抗出来ないってことはな。」
「……まったく、月詠が話したのか？ やれやれ……じゃあこうしよう。奴らの迎撃が終わったら、望み通り全部話してやるよ。もう時間もない、構わないな？」
「……分かった。」
「よし、ならこれで交渉成立だ。これからよろしく。」
「……フン、忘れるなよ。これはあくまで一時的なものだ。これが終われば俺たちは……」
「再び敵同士って？ まったく、お堅いことだ。」




「ねぇ、えっと……敦人さん、だっけ。」
「ん、君は？」
「あ、私は仙波 京子って言うんだけどさ。どうしてその……神のカードを探しているの？」
「それはね……まあ、秘密だよ。」
「えぇ〜。」
「……僕からも質問していいかな？」
「そっちは答えなかったのに？」
「細かいことは気にするなよ。……世界には知らない方がいいこともある、そうは思わないかい？」
「何それ？ ん〜……難しい話は分からないけどさ、そんなの知ってから分かることなんじゃないの？」


……それでは遅い気がするが。でもまあ、そういう考えもありか。


「……そうだね。答えてくれてありがとう。」
「じゃあ私の質問にも……」
「それは駄目だ。」
「ケチ〜。」



……これが郁哉の仲間、か。これなら大丈夫かもしれない。すべてを明かしても、彼女たちならきっとあいつを支えてくれる。


「何やってる。早く行くぞ。」
「あ、郁哉。ゴメンゴメン！ ほら、敦人さんも！」
「……ああ。」






（……待ってろよ、『 』。全部終わらせたら今度こそ、お前と……）