48話 旅立ち　作：名無しのゴーレム

「強志、京子。準備は出来ましたか？」

凉花が俺たちに確認する。俺はいいが、京子は…

「京子。これ、お弁当よ。向こうに着いたら皆で食べてね。」
「わあ！ お母さん、ありがとう！」
「いいか、向こうで粗相のないようにするんだぞ。」
「もう、お父さんったら。分かってるってば！」
「京子ちゃん、気を付けてね。これ、お守りだから。」
「ありがとう、幹治！ 絶対美愛を連れて帰ってくるからね！」

「…何か、今から次元を超えるって感じじゃないね。」

智が思わず呆れてしまうほど、何だかのどかな見送りだった。

「…京子。これ、頼まれていたものだ。」
「郁哉、本当に準備してくれたんだ！ ありがとう！」
「…別に構わないさ。…気を付けろよ、お前は、俺たちよりも危険なところに行くんだからな。」
「うん、大丈夫だよ。お兄さんも、凉花も付いてるからね。」


「…強志君。」
「仙波さん。どうかしたんですか？」
「…京子のこと、よろしく頼んだよ。」
「…もう、京子は俺の生徒じゃありません。今は、一緒に戦う仲間です。だから、一方的に助けるとかじゃなくて、互いに助け合っていくつもりです。…もちろん、絶対に全員で帰ってきます。美愛も連れて。」
「…ああ、任せたよ。」



「それでは、次元転移を始めます。2人とも、私の側にいて下さいね。」

凉花のデュエルディスクにカードがセットされていく。No.の力を使うのだろう。

「……行きます。お願い、銀河眼の光子竜皇！」

凉花の声に応じるように、俺たちの周りが光に包まれていく。

「わあ、何これ！ すごい！！」
「…京子、あんまりはしゃぐな。」

光に包まれたまま、俺たちは段々と上昇していく。…っていうか、これ…

「…うわあ！ 空飛んじゃってるよ！」
「…凉花、本当に大丈夫なんだろうな？」
「……今集中しているので、出来れば黙っておいて欲しいんですけど…」

上昇の速度は増していく。…おい、これ、本当に…



「「うわぁぁぁぁ！！」」





……何だ、この感覚。

どこかで体験したようなこの感じ、えっと、何だったか…

……ああ、そうだ。昔、一回だけ姉さんと一緒に乗った、あの…そう、ジェットコースターだ。

…いや、あのときはもっと、地に足が着いているような感覚があったはず。

…じゃあ、今、俺に何が起きている？

「……し、つ…し、強志！ 京子！」

…？ これは、凉花の声か？ …あ、そうだった。俺たちは、次元を超えて…

「……え？ へ、あ、うわぁぁぁ！！」

ようやく意識を取り戻した俺は、現在の状況を一瞬で把握した。というか、今の状況は、分かりやすく言えば…


「何で、俺たち落ちてるんだよぉぉぉ！！」

自由落下、フリーフォール、パラシュート無しのスカイダイビング。だいたいそんなところか。そして、そのすべてに共通するのは…

「死ぬ、死ぬぅぅぅ！！」

「くっ…お願い、銀河眼の光子竜皇！」

凉花の叫びに呼応して、再び俺たちは光に包まれた。

「ふぅ。助かった…」

幸い、京子はまだ気絶しているようだ。さて、このまま着地すれば…

「……強志、後は任せました…」
「ちょっ、おい、凉花？ どういう…」

その言葉を最後に、凉花も気を失ってしまった。

（…おいおい、どうしろってんだよ！？）


幸い、俺たちを包んでいた光はすぐには消えず、自由落下体験は地上から１メートルほどのところで決行された。

「…ぐうっ…凉花、京子、大丈夫か…」

何とか2人を抱えたまま着地できた。しかし、その衝撃は思った以上のものだったようで、周りにあったものが吹き飛んでいった。

「…ここが、融合次元…」

凉花から聞いていたアカデミアの感じとは違う。恐らく、アカデミアの近くだと思うが…


「なんじゃこりゃあ！！ 俺様のD-ホイールが！！」

突然、大声が聞こえた。そちらを見ると、3人組の男たちがこちらを見ていて、真ん中のリーダー格らしき男が頭を抱えていた。

「てめぇ… 俺様の魂をこんな風にしやがって、ただじゃ置かねえぞ！！」
「ま、待ってくれ！ 誤解だ、実は…」
「問答無用だ！ お前ら、やっちまえ！！」

男の号令に、周りの2人がこちらへと近づいてくる。…くそ、凉花たちを抱えたままじゃ逃げることも出来ない。デュエルするにしたって3対1。絶体絶命のピンチってやつか…



「待ちなさい！！」

男たちの後ろから、1人の女性が現れる。見た目は俺と同じくらいだが…

「…あぁ、なんだ？ 女が何の用だ？」

…まずい。女性を巻き込むわけには…

「…な、兄貴！ あいつは！」
「逃げましょう兄貴！ あの女に喧嘩売っちゃ、いくら兄貴でも…」

なんだ？ 取り巻きの男たちが急に慌て始める。しかし、リーダー格の男はそうではないようだ。

「…お前ら、俺をナメてんのか！ 俺があんな女に負けるっつってんのか！」
「…へぇ。あなた、最近ここに来たの？」

女性が男に質問する。

「あ？ それがどうしたってんだ？」
「ふーん… あなた、私とデュエルしなさい。」
「…ハハハハ！！ まさか女が俺にデュエルを挑もうとはな！ おもしれぇ、パパっと倒して、身の程を思い知らせてやる！」

…俺の知らないところで勝手に話が進んでいく。よく分からないが、今はあの女性に任せてみよう。



「「デュエル！！」」