side凉花：Let’s 拷問タイム♪　作：名無しのゴーレム

人気のない倉庫が立ち並ぶ場所、その中の1つの内部に、その3人はいた。1人、男は縛られて椅子に座らされている。もう1人、女性はその姿を仁王立ちで見つめている。最後の1人、というか私は……


「……フッフッフ、ようやく捕まえたわよ、お兄ちゃん！」
「くっ、これまでか……」
「…………」


絶賛困惑中だった。……この状況、一体何なんでしょう？ まあ、きっかけは分かっているんですが……





――それは、数時間前の町中レースまで遡る。その頃、私たちは町を抜けてハイウェイまで辿り着いていた。


『……ああ、もう！ なんでもっと速く走れないのよ！』
『きゃああぁぁぁ！！ つよし、たすけてぇ～！！』
『うるさい！ なんとかして追い付かないと……』
『か、かのんひゃん、わたひにていあんぎゃ！』
『もっとまともに喋りなさい！ ん？ 提案？ 何よ。』
『いいまふから、すぴーどおろひてぇぇ！！』
『……仕方ないわねぇ！ これでいい！？』
『は、はい…… お願い、No.55 ゴゴゴゴライアス！』
『え？ いきなり何を……うわ！？』
『うわぁぁぁ！！』
『……ちょ、何よあれ……まあいいわ、お兄ちゃんが止まった今がチャンス！』




……ということがあってからいくらかの時間をかけて、この状況が出来上がったのであった。ちなみに強志たちには連絡済みで、もうすぐここに来ることになっている。


「さぁて、洗いざらい全部話してもらうわよ。」
「だ、誰がお前に話すか！」
「へぇ……そんな態度を取れるなんてね。今の状況分かってるの？」
「何をする気だ……」
「……まずは、これから始めましょうか。」


風音さんが恭治さんへと手を伸ばす。ついに『あれ』を始めるんですか……




「……アヒャヒャヒャ！！ 止めろ！ ぐふ、死ぬ、死んじまう！」
「ならさっさと吐きなさい！ プロデュエリストになる前に笑い死にたい！？」
「ヒャヒャ！ ハ、こんなのに俺が屈するか、アヒャヒャ！！」
「…………」


一体、何をやっているんだか……


「……ふーん、なら次はこれね。」
「な、それは……止めろ、それだけは！！」
「止めないわよ！ さあ、苦しみなさい！」
「ぐわぁぁぁ！！」


……一応何が起きてるか解説するならば、風音さんが恭治さんを徹底的にくすぐった後、恭治さんの大嫌いな食べ物（らしい）であるピーマン（何故か色とりどりな）を無理矢理口の中に押し付けている。しかも生でそのまま。あれは誰だって嫌になる。見てるだけで気分が悪くなりそうだ。


「ほら、まだ1本目よ！ 後19本、耐えきって見せてよ！」
「ム、ムガ、やめてくれ……」
「止める条件は1つだけよ。さあ、早いこと……」
「く、くそっ！ 何が聞きたいんだ！」
「話す気になった？ なら、まずは……時系列順に行くわ。かなり前のことだけど、私がユーゴ君と店先で話していたときに、突然お兄ちゃんが突っ込んできたわよね。あの後ユーゴ君を追い回していたけど、あれはどうして？」
「それは……あの時、お前が泣いてたじゃねえか。あいつが泣かせたんだろう？ だから、あいつに謝らせようとして……」
「勘違いよ！ ユーゴ君は私を慰めてくれてたの！ それなのに……あれからユーゴ君、うちの店に全く来なくなったのよ！」
「ま、待て！ あいつが来ないのは多分……」
「ん？ 何よ。」
「……あー、いや、何でもない。」
「何か隠してるわね。吐きなさい！ ピーマンの準備は出来てるのよ！」
「か、勘弁してくれぇ～！」


プルルッ、プルルッ、……


……？ 電話でしょうか。一体誰の……


「……ん？ お兄ちゃんのかしら。凉花ちゃん、代わりに取って。」
「え、いいんですか？ 人の電話を勝手に……」
「もう1度だけ言うわ。……代わりに取って。」
「は、はいっ！」


急いで恭治さんのデュエルディスクを取り、通話機能をオンにする。


「も、もしもし……」
『恭治！ テメェ、今どこにいる！！』
「ひぃっ！？ だ、誰ですか！？」
『……うん？ 君は？ そのデュエルディスクの持ち主はどこにいる？』
「え、えーと、恭治さんは、今……」
「凉花ちゃん？ 誰なの？」
「わ、私にも分からないんですけど……」


声から、何とか年を取った男性ということは分かるけれど……


『……聞こえているか？ 恭治がどこにいるのかと聞いている。』
「……あの、恭治さんは今、少し取り込んでいまして……あなたのお名前は？」
『……才賀（さいが）だ。恭治に重要な話があると伝えてほしい。』
「は、はい。……恭治さん、才賀さんという方かららしいですが……」


私の言葉に反応して、恭治さんがガタンと動いた。


「師匠か！？ ……風音、頼む！師匠と話をさせてくれ！」
「なら、私の質問に……」
「風音さん。重要な話だそうです。話をさせてあげてくれませんか？」
「……凉花ちゃんがそういうなら。仕方ないわね、ただし話の内容は私も聞かせてもらうわよ。」
「なっ！？ ふざけるな、そんなこと……」
「凉花ちゃん、電話切っちゃって。」
「えぇ！？」
「わ、分かったよ！ ディスクをこっちに持ってきてくれ。」
「は、はい。」



『恭治、今どこで何やってんだ！』
「師匠、それは……」
「すみません。私は恭治の妹で速見 風音と申します。突然で申し訳ありませんが、兄との関係について伺っても？」
「な、風音！ 関係ない話をするな！」
『風音、か。……すまないが、今はこちらの用件だけを伝えたい。緊急事態なのでな。』
「……分かりました。その代わり、話は私も聞かせてもらいますよ。」
『構わない。……恭治、至急隠れ家に来い。そこでこちらの現状について説明する。』
「……何かあったんですね。分かりました、急いで……」
「もちろん、私たちも行くわよ。」
『止めた方がいい。今、我々は大変危険な事態に巻き込まれている。君たちは……』
「なら、どうして兄を呼ぶんですか？ 何の説明も無しに、そんなところに行かせる訳にはいきません。」
『……いいだろう。しかし、安全の保証はしないぞ。』
「そんなもの必要ありません。それでは。」


風音さんが電話を切った。


「……さて、案内よろしくね、お兄ちゃん？」
「……まずは、この縄をほどいてもらおうか。」
「いいわよ。でも……」


風音さんが恭治さんのデュエルディスクを操作する。一体何を……？


「……よし。これでお兄ちゃんの居場所の情報が常に私のところに来るようになったわ。」
「おい！ 勝手に何やってんだ！」
「ふん、1度放して逃げられても困るからね。そんなことよりも、早く行きましょう。」
「くっ……」


縄をほどかれた恭治さんは渋々といったようにして彼のD・ホイールへと向かっていく。


「凉花ちゃん、ぼさっとしてないで私たちも行くのよ。」
「はい。あの、強志たちには……」
「今連絡しておいたから。お兄ちゃんの位置情報も一緒に送っといたから、すぐに追い付くはずよ。」
「分かりました。」


恭治さんの後に続いて私たちも倉庫を出た。――まだこの時は、後に起こる事態など知る余地はありませんでした。