side？？？：アカデミアからの刺客　作：名無しのゴーレム

――融合次元、アカデミア――


カツ、カツ、……

いつもこの辺りまで来ると静かになる。少なくとも、自分の足音しか聞こえないくらいには。

数分後、ようやく目的の部屋に着いた。扉を開けて中へ入ると、そこには僕の仲間である少女、それと僕たちの上司にあたる女性がいた。

「敦人、遅いですよ。」
「アハハ、ごめんごめん。面白そうな話があったから、ついつい聞いてきちゃって…」
「…紫雲院 素良が送還されたことか。」
「ああ、さすが『マスター』。もうご存知なんですか。」
「…今からお前たちに与える任務に関係しているからな。…神谷 敦人（かみや あつと）、天宮 月詠（あまみや つくよ）、お前たち2人には『スタンダード』へ向かってもらう。」
「はい。分かりました。」
「いや月詠、返事が早いでしょ。…どうしてスタンダードに？」
「…あいつから報告があった。『実験体』を見つけたそうだ。」

「……！！」
月詠が動揺する。まだ『あのときのこと』を気にしてたのか…
「…へぇ、まさか見つかるなんて。それで、僕たちで確保に向かうってことですか？」
「その通りだ。ただし、事態は少し厄介なことになっている。」
「厄介なこと？」
「…セレナが脱走した。」
…あのお嬢様、ついに脱走したんだ。
「プロフェッサーもセレナの確保に向かうだろう。できれば私の動きはプロフェッサーに知られたくない。だから、お前たちには名目上セレナ確保を目的として、プロフェッサーの刺客と共に動いてもらう。」
「…今すぐ出発ですか？」
「いや、今プロフェッサーがスタンダードに向かわせるデュエリストを選抜している。彼らと同じタイミングで出発してもらう。」
「…分かりました。さっそく準備に取り掛かります。」


僕と月詠はマスターの部屋を出て、それぞれの部屋へと向かっていた。
「月詠、大丈夫？ さっきも全然喋らなかったけど。」
「…大丈夫。それより、まさか『あの子』がスタンダードにいたなんて…」
「あのこと、まだ気にしてるの？ あんなの事故みたいなものなんだし、気にしなくてもいいんじゃない？」
「そういうわけにはいきません。あの子がここから居なくなったのは私のせいだから…」
「…そんなに気にするなって。見つかったんだから、また連れ戻せばいいさ。」
「……」
…黙り込んでしまったか。本当に、責任感が強いよな。
「まあ、向こうで頑張ればいいさ。じゃあね。」
手をヒラヒラ振って僕は月詠と別れた。


月詠と別れた僕は、自分の部屋、ではなくある場所に向かっていた。一部の人しか知らない、月詠だって知らない隠し通路を通り、その場所にたどり着いた。
「…調子はどうですか？」
「…いつも通り最悪だよ。」
「それはよかった。」
そこには1人の女性がいた。いや、正確には『いた』というより『閉じ込められていた』、か。
「僕、スタンダードに向かうことになりました。あなたのせいで居なくなったあの子を連れ戻しに、ね。」
「…私のせいみたいに言うなよ。向こうが勝手に私に挑んで来たんだからな。」
「…そりゃそうだ。まあ、そのおかげであなたをこうやって幽閉することに成功したんですけどね。」
本当に、あの子には感謝しなければいけないな。
「…で、何の用だ？ まさかそんなことを言いに来た訳じゃないだろう？」
「もちろん。確かな情報ではないんですが、エクシーズ次元の生き残りもスタンダードにいるらしくてね、話によればNo.を使う少女もいたとか。名前は…凉花、だったかな？」
「……」
「あれ、無反応ですか？ つまらないな～。あなたの知り合いじゃないんですか？」
「…例えそうでも、お前に教えてやる義理はないな。」
「冷たいですね。…ところで、その子のお友達の男の子も一緒にいたとか。」
「……！！」
おお、やっと食い付いてくれた。
「もしかしたらその子たちと会うかもしれませんね。何か伝言でもありますか？」
「……ねえよ。」
「…そうですか。じゃあその子たちが僕たちに歯向かったらカードにしちゃいますけど、構いませんね？」
「……ハッ。」
「…何笑ってるんですか？」

「決まってるだろ。お前たちにあいつらは倒せないよ。」
「…すごい自信ですね。事実、あなたのお仲間さんたちは次々と僕たちに負けていったのに。」
「ああ、そうだな。でもな、それを乗り越えて来たあいつらは、誰にも負けないっていう強い意思がある。お前たちとは比べ物にならないくらいにな。」
「…そうかもしれませんね。警告、ありがとうございます。」
話は終わった。僕はもうこの場を立ち去ることにした。


「それではさようなら、矢次 杏さん。」