17話　人影　作：名無しのゴーレム

――その翌日。俺と仙波さん、そして美愛の3人で遊勝塾へと向かっていた。
「今から遊矢さんがいる遊勝塾に行けるんですよね。楽しみです！」
「…まあ、今は学校に行ってていないと思うけどな。」
目的は対抗試合前の挨拶。本当は俺と仙波さんの2人で行くつもりだったが、美愛がどうしてもついていきたいと言い出したため、現在の状況に至った。
「…もうすぐだな。そういえば、仙波さんは遊勝塾の塾長さんと知り合いなんでしたっけ？」
「そうだよ。こうやって対抗試合をすることはほとんどなかったけど、塾長同士、情報を交換し合ったりしているんだ。」
そんなことを話しているうちに、遊勝塾が見えてきた。
「…よし。じゃあ入ろうか。」
いよいよか…、世界唯一のペンデュラム召喚の使い手である遊矢君が通っているデュエル塾。少し緊張するな…
「いよいよですね…」
美愛も緊張した様子だ。大丈夫だろうか…。俺は少し心配しながら遊勝塾に足を踏み入れた。


塾長同士の挨拶は思ったよりもずっと早く終わった。少しの設備などの見学も終えて、俺たちは遊勝塾を後にした。
「…なんというか、思ったよりも普通の塾って感じでしたね。」
帰路の途中で、美愛が率直な感想を口にした。
「まあな。アクションデュエルができることを除けば、うちとそれほど変わらないんじゃないか？」
「デュエル塾で大切なのはどんな設備があるかというよりも何を教えているかだからね。聞いた分には新しい塾生も入ってきたらしいし、良い対抗試合になりそうだね。」
「はい。今からとても楽しみです。」
お前が楽しみなのはペンデュラム召喚だろう…、そう心の中でツッコミを入れながら、大通りを歩いていく。


……？
すれ違っていく人混みの中で、ある人影に目が留まった。気付くと俺は、その人影の方へと向かっていた。
「強志君？　どこに行くんだい？」
「すみません！　先に帰っていてください！」
咄嗟にそう言って、俺は仙波さんたちと別れた。

その人影を追っていると、いつの間にか俺は人気のない路地裏に入っていた。そしてそこで俺が追っていた人影――少女が足を止めた。
（…勢いでここまで来たのはいいけど、この子誰なんだ？　っていうかこの状況、俺不審者にしか見えないんじゃ…）
「ご、ごめんなさい！　尾行するつもりじゃなかったんだ！」
必死に弁明する俺に対して、少女はキョトンとしていた。

「え…？　あなた、強志じゃないんですか？」

「あ、いや、合ってるけど…」
…どうやら、彼女は俺のことを知っているようだ。でもこちらはまったく彼女のことを思い出せない。
「えっと…名前、何て言ったっけ？」
とりあえず、名前が出てこないという体で話を続けてみた。苦しいか…？
「ああ、まあ長い間会っていなかったし、仕方ないですよね。私は凉花。薙野　凉花（なぎの　すずは）です。久しぶりですね、強志。」
……あ！
「まさか…、あの凉花か？」
「あのってどういう意味ですか？　…まあいいでしょう。本当に、探したんですよ。」
涼花が嘆息した。…それよりも、ようやく知り合いに会ったんだ。1番聞かなければならないことがある。
「…なあ、お前はどうやってここまで来たんだ？」
「…やっぱり、強志はたまたまこちらに来ただけだったんですか。」
「たまたま…？　頼む。一体何が起きているのか、説明してくれませんか？」
俺の言葉に、涼花は少し困ったような顔をした。
「そうしたいのは山々ですが、今ここでというのは…」
気付けば、通りの人混みがどっと増えていた。時間はもう昼頃になっていた。
「あの…、また今度ということでいいですか？　あまり他人に聞かれたいことではないので…」
「ああ、分かった。いつにする？」
「そうですね…、2日後に、またここに来てくれませんか？」
「分かった。2日後だな。…ん？」
俺がある事実に気付く前に、涼花はすぐに姿を消してしまった。
ヤバイ、対抗試合と被った…　なんとかするしかないか。俺はひとまず家に帰ることにした。