10話　「デジャブ」　作：名無しのゴーレム

――そんなこんなで、気付けば俺が講師になってから1週間が経っていた。
「…つまり、自分のフィールドに同じレベルのモンスターが複数体いること、これがエクシーズ召喚をするために必要な条件だ。」
「同じレベルならどんなレベルでもいいんですか？」
「そうだ。俺の知る限りではランク1からランク10までのエクシーズモンスターが存在する。ということは…」
「レベル10モンスターを何体も並べないと出せないエクシーズモンスターもいるってこと？すごいな～。そんなモンスター出せる気がしないよ～。」
「まあ、俺も実際に見たことはほとんどないんだけどな。」
――俺はエクシーズ召喚についての講義を行っていた。3人ともエクシーズ召喚を見たこともほとんどないということだったので（京子は俺がエクシーズ召喚をしたのを見ているが）、1から教えることに不安を抱いていたが、俺がエクシーズ召喚についての講義を担当してから3日目となる今では、だいたい基本は掴んできたようだった。

キーンコーンカーン コーン…

講義が終わり、3人はさっそくデュエルを始めた。本当なら、エクシーズ召喚を実際に使ってみてほしいのだが、エクシーズモンスターを取り扱っているカードショップはほとんどないらしい。今、仙波さんが探しに行ってくれているのだが…
（遅いな…何かあったのか？）
まあ、この場合における「何か」とは、いいことを指すのかもしれないが…

ドン！

突然、塾の入り口の扉が勢いよく開かれた。
「強志君！…ちょっと来てくれないか？」
仙波さんが俺を呼ぶ。その表情はとても真剣で、決して何かいいことがあったとは思えないものであった。ちょうど京子たちはデュエルフィールドに行っていてここにいなかった。俺は仙波さんのところへ向かった。
「どうかしたんですか？」
「…ついてきてくれ。君に見せたいものがある。」
そう言うと、仙波さんは外へと歩き出した。俺は少し京子たちのことを気にしたが、それよりも仙波さんの言う「俺に見せたいもの」のことが気になり、後をついていった。

歩き出してからそれほども経たないうちに、仙波さんが足を止めた。
「…これを見てくれないか？」
仙波さんが指を指す。…暗くて何があるのか見えづらい。持っていた携帯電話でそこを照らすと、そこには、

1人の少女が、倒れていた。

「……、どういうことですか？この子がどうかしたんですか？」
「いや、そうじゃなくてね。実はここ、前に君が倒れていた場所なんだ。」
「…え？　いや、たとえそうでも、なんで俺に見せたいなんて…」
「考えてみてくれ。普通こんなところに子供が倒れているわけがないだろう？　それにこの子、デュエルディスクを付けているんだ。君と全く同じ状態といってもいいだろう。きっと君と関係があるだろうと思って連れてきたんだが…どうだい？」
少女の顔をよく見てみる。しかし、見覚えのあるものではなかった。
「…残念ですけど、見たことのない子です。」
「そうか…。それはいいとしても、この子をどうしたものか。やはり一度起こすか…」
そのとき、少女の体が少し動いた。
「ん…え？」
少女が目を開けた。どうやらこの状況に戸惑っているようだ。
「目が覚めたかい？　君、どうしてこんなところに？」
仙波さんが少女に優しく話しかける。しかし少女は、戸惑った表情のまま、
「…ここ、どこですか？」
と尋ねた。…ますます俺と状況が似ている。俺は意を決して少女に聞いてみた。
「ここは舞網市だよ。君、どこに住んでいるんだい？」
このとき俺の中には、もしかしたら、という思いがあった。だが、少女の答えは俺の想像を遥かに超えたものだった。


「……分かりません。何も、思い出せません。…私は、誰なんですか？」