side月詠：最後の戦いへ　作：名無しのゴーレム

「……これが、この次元を取り巻く現状です。」
「……まさか、そこまで融合次元の侵略が進んでいるとはな。」
「あの後、郁哉が寝ている間に智たちを探しに行ったんだけど……」
「ここへの道の途中で1台のD・ホイールが倒れていたの。でも、その周りには誰もいなかった。」
「……おそらく、セキュリティに捕まったのでしょう。」
「…………」


ーー神宮寺 郁哉が目覚めた後、私たちは状況確認を行った。私が調べ上げた情報によると、スタンダード次元のデュエリストのほとんどが強制収容所に送られているらしい。よって彼らも同様の処置が取られるだろう。それよりも、問題は……


「……宮地さんは、どうなったんだ。」
「セキュリティの彼は、今も囚われ責問を受けていると。……すみません、私では彼らに干渉するのは難しく……」
「くっ……」
「……おい。その件、私に任せてはもらえないか。」
「雑賀さん……？」


何をするつもりなのか……


「お前たちにしか出来ないことがあるように、私にしか出来ないこともある。……こう見えても、私はこの街である程度の力を持っているからな。だからお前たちはエクシーズ次元へ向かえ。」
「雑賀さん、ありがとう！」
「……ありがとうございます。」


ーー話を終えて、私たちは次元転移に向けた準備を始めた。


「ねぇ月詠、エクシーズ次元ってどんなところなの？」
「私は行ったことが無いので分かりませんが……アカデミアの侵攻によって、荒れ果てた地になったと聞いています。」
「……あなたもアカデミアのデュエリストなんでしょう？ それなのに、どうして私たちの味方をするの？」
「それは……私は、マスターに聞きたいんです。心希をあそこまで傷つけて、日向を連れて何をする気なのかを。……今までは、そんなことを考えることはありませんでした。しかし、もう目を背ける訳にはいかないんです。私の、大切な仲間のために……」
「……月詠は、優しいんだね。」
「やめてください。……私に、そんなことを言われる資格はありません。」


……先ほども結局、私には何も出来なかった。日向が連れて行かれ、心希が倒れても……


「なら、次に頑張ればいい。……大丈夫だ、今度は俺たちがいる。」
「……実はあなたが倒れた後、敦人が私に頼んできたんです。」


『郁哉のことを頼む』、と……


「……あいつは、一体何者なんだ？ どうして俺にそこまで……」
「あ、郁哉。そう言えばこれ、郁哉の近くに落ちてたんだけど。」


京子が郁哉に渡したもの、それは敦人が去り際に郁哉の元に残したものだった。


「これは……」


どうやらそれはケースだったようで、中を開けると何枚かのカードが見えた。


「カードじゃん。郁哉の？」
「……！？ な、なんでこれが！？」
「……？ どうかしましたか？」


神宮寺 郁哉はしばらく固まった後、ゆっくりとそのカードをケースに戻した。


「……どうやら、俺はどうしてもあいつに会わないといけないらしい。」
「何があったの？」
「悪いが、京子には教えられない。……それに、俺にも何が起きているのか分からないんだ。」
「……ふーん、ならいいけどさ。」




ーーそしていよいよ、次元転移の時がやって来た。



「……なあ。そのデュエルディスク1つで4人も転移させられるのか？」
「問題ない、はずです。これには近くの対象を強制的に転移する機能もありますから……」
「…ならいいんだが。」
「……それ、突然空に浮かび上がったりするの？」
「……？ そんなことはありませんが……何故？」
「いや、前はそうだったからさ……」


突如上昇する次元転移法とは一体……


「……それでは始めます。皆さん、準備はいいですか？」
「オッケー！」
「いつでも行けるわ。」
「……大丈夫だ。」


……いよいよだ。今度こそ私は、日向を助け出してみせる。



（待っていてください。必ずあなたに、自由を……）


無論、すべてが上手く行っても彼女が私の元に帰って来てくれる訳でもない。……それでも構わない。私は、あの子に罪滅ぼしがしたい。多くを奪ってしまった、その……


「……融合次元のデュエリストよ。」
「……？ どうか、しましたか。」
「最後に聞かせてもらおう。……お前がマスターと呼ぶ存在、そいつがエクシーズ次元に向かった目的は？」
「……神のカードの回収と言っていました。そのために、アカデミアを襲撃した彼女を出してまで……」
「そうか。……気を付けろ、そいつは……危険だ。」
「どうしてそう思うのですか？」
「理由はない。だが……嫌な予感がする。」
「……分かりました。」


転移装置を起動させる。……良かった、問題なく転移出来そうだ。


「……転移します。」
「よし！ しゅっぱーつ！」
「……風子、待っててね。」
「…………」




ーーこうして、私たちの大切なもの、そして4つの次元の命運を賭けた戦いが、今幕を開けたのであった。