46話 暴走　作：名無しのゴーレム

「……と、いうことがあったんです。」
「……」

話している間、凉花はずっと苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「……私は、またあの子を奪われてしまいました。しかも、今度は私の目の前で…」
「凉花…」
正直、凉花に聞きたいことは山ほどあった。しかし、彼女の痛ましい顔を見て、そんなことは出来なかった。



しばらくして、凉花の様子が少しずつ変わっていった。


「そうだ…私が弱いから、あの子を守れなかったんだ…」
「…凉花？」
「私にもっと力があれば…あの時だって、誰も失わずに済んだんだ。」
「凉花、おい…」
「力が、力が、力が…」
「やめろ！ お前、どうしたんだよ！」


「う、あああぁぁぁ！！！」
突如、凉花が苦しみ始めた。
「凉花！？ おい、しっかりしろ！！」
「ううっ、ああぁぁぁ！！！」
凉花の目の前に白紙のカードが現れる。それは凉花の叫びに呼応するように、だんだんと色づき始めた。
「な、何だよこれ…、……！！」
現れたカードに刻まれていく名前、それには確かに『No.』の名があった。


『No.は人々の心の闇によって生まれる。』これは凉花の言葉だ。まさか…


「ああぁぁ！！ はあっ、はあっ、……」

凉花が落ち着いた。一体どうなる…

「これは…この力があれば、今度こそ…」
……『No.を手にした人はその欲望のままに力を振るう』、か。このままこいつを放っておけば、何をするか分からない。…仕方ないか。


「……凉花。」
「…何ですか、強志？ 私は今から望を取り返しに行きます。話なら手短にお願いします。」
「…どうやってそいつを助けるつもりだよ。」
「直接アカデミアに乗り込みます。邪魔する相手はすべて倒します。」
「それが出来ないからここに来たんだろ。」
「この力があれば私１人でも出来ます。」

……間違いない。完全にNo.に飲まれている。

「…おい、凉花。俺とデュエルしろ。」
「…？ 何言ってるんですか？ そんな時間は…」
「うるさい、さっさと始めるぞ。時間が惜しいんだろ？」
「…いいでしょう。早く終わらせて、私はアカデミアに向かいます。」

…デュエルで勝って、凉花の目を覚まさせる。これ以上、こいつを暴走させるわけにはいかない。



「「デュエル！！」」


強志 LP4000 手札5枚
凉花 LP4000 手札5枚


「俺のターン！ 手札からマシンナーズ・ギアフレームを召喚！ マシンナーズ・ギアフレームの効果発動！ デッキからマシンナーズ・フォートレスを手札に加える。手札の機密兵器04 シーラーと機密兵器03 ストリグスを墓地に送り、手札からマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚！」

俺の場に重厚な戦車が行進してくる。

「さらに通常魔法、二重召喚発動！ 手札から機密兵器02 ディプロイを召喚。 ディプロイの効果発動！ 墓地のシーラー、ストリグスを除外して、1枚ドローする。レベル4のディプロイとマシンナーズ・ギアフレームでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れろ、ギアギガント X！ ギアギガントXの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、デッキから機密兵器06 ブリンガーを手札に加える。俺はこれでターンエンド。」


強志 LP4000 手札2枚 マシンナーズ・フォートレス（守備表示）、ギアギガント X（守備表示）
凉花 LP4000 手札5枚


「私のターン、ドロー！ 手札から銀河の魔導師を召喚。銀河の魔導師の効果発動。レベルを4つ上げる。」

銀河の魔導師 レベル4→8

「通常魔法、銀河遠征発動！ デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚！」

これでレベル8のモンスターが2体…来るのか。

「私はレベル8の銀河の魔導師と銀河眼の光子龍でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚！ 遥かなる時を司りし化身よ！ 今こそ我が場に顕現せよ！ No.107 銀河眼の時空竜！」

…あれが、凉花の心の闇が生み出したNo.…圧倒的な威圧感が、向かい合う俺の心をへし折ろうとする。

「バトルフェイズ開始時に銀河眼の時空竜の効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、このモンスター以外のフィールド上のすべてのカードの効果を無効にする！ 銀河眼の時空竜でマシンナーズ・フォートレスを攻撃！」

銀河眼の時空竜がマシンナーズ・フォートレスを破壊する。それと同時に、俺の身にも強い衝撃が走る。

「ぐあぁぁ！！ …何だ、今のは？」

ダメージが入った訳でもないのに…これが、あのNo.の力なのか。

「…マシンナーズ・フォートレスの効果発動！ このモンスターが戦闘で破壊されたとき、相手フィールド上ののカード1枚を破壊する。銀河眼の時空竜を破壊！」

壊れ行くマシンナーズ・フォートレスの一撃が銀河眼の時空竜を捉えた。

「くっ…手札から速攻魔法、フォトン・リード発動！ 手札の銀河眼の雲篭を特殊召喚！ 銀河眼の雲篭をリリースして、墓地の銀河眼の時空竜を特殊召喚！ カードを1枚セットしてターンエンド。」


強志 LP4000 手札2枚 ギアギガント X（守備表示）
凉花 LP4000 手札1枚 銀河眼の時空竜 伏せカード1枚


「俺のターン、ドロー！ スタンバイフェイズ時に、除外されているシーラー、ストリグスを特殊召喚！ レベル4のシーラー、ストリグスでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れろ、機密兵器β フォートレス！ フォートレスの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、墓地のディプロイ、ストリグスを除外して、このモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる！」

機密兵器β フォートレス 攻撃力800→1800

「機密兵器06 ブリンガーを召喚！ このモンスターの召喚成功時、このモンスターを除外することで、デッキから機密技術―ミラージュを手札に加える。これでターンエンドだ。」


強志 LP4000 手札3枚 ギアギガント X（守備表示）、機密兵器β フォートレス（守備表示）
凉花 LP4000 手札1枚 銀河眼の時空竜 伏せカード1枚

「私のターン、ドロー！ …手札から装備魔法、銀河零式発動！ 墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚！ 墓地の銀河眼の雲篭の効果発動！ このモンスターを銀河眼の時空竜のオーバーレイユニットにする！ 銀河眼の時空竜の効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、このモンスター以外のフィールド上のすべてのカードの効果を無効にする！ これで銀河零式の効果も無効！」

銀河眼の時空竜によって時が巻き戻され、銀河眼の光子竜が本来の力を取り戻す。…銀河眼が2体。やばいか…

「バトル！ 銀河眼の光子竜でギアギガント Xを攻撃！ そして銀河眼の時空竜で機密兵器β フォートレスを攻撃！」

2体の竜の連撃によって、俺のモンスターたちは全滅した。そしてその余波が俺自身に襲いかかる。

「ぐわぁぁぁ！！」


「…銀河眼の時空竜がいる限り、すべての時は支配される。強志に勝ち目はありません。」
「…ハ。何言ってんだよ。俺がこの程度で負けると思ってるのかよ。弱虫のお前にしちゃあ大言壮語が過ぎるんじゃねえか？」
「……ッ！！ 私はもう弱虫なんかじゃない！ 私は強くなったんだ！」
「ハッ。いいや、お前は昔のままだ。そんなカード1枚で強くなったと勘違いしているんだからな！」
「うるさい、うるさいうるさい！！ 強志に何が分かる！！ 私はずっと、1人で…」
「それが間違いだって言ってんだよ！ なんで全部1人で抱え込もうとするんだよ！ お前には仲間がいるだろう！ 黒咲だって、それに俺がいる！ 俺が、お前を見捨てる訳ないだろうが！」
「強志…？」
「いいか！ 分からないなら何度だって言ってやる！ お前には仲間がいる！ 辛いときには力を貸してくれる仲間が！ だから1人で背負い込むな！ 例えどんなことになっても、俺は絶対にお前を置いていかない！ ずっと、ずっとずっとお前と一緒に歩いてやる！」


「…黙れ！！ ぐっ…私はカードを1枚セット。これでターンエンド…」


強志 LP4000 手札3枚
凉花 LP4000 手札0枚 銀河眼の時空竜、銀河眼の光子竜 伏せカード2枚


…凉花の顔が苦痛に歪む。間違いない。あいつも、自分の心の闇と戦っているんだ。

「…今、楽にしてやるからな。…俺のターン、……ドロー！！ スタンバイフェイズ時に、ストリグス、シーラー、ブリンガーを特殊召喚！ レベル4のストリグスとシーラーでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れろ、機密兵器Σ ビッグジェット！ 」


機密兵器Σ ビッグジェット（オリジナルカード）
エクシーズモンスター　ランク4/風属性/機械族/攻1600/守2200
「機密兵器」レベル4モンスター×2 ①:このカードが表側表示で存在する限り、自分モンスターゾーンに存在する全ての「機密兵器」モンスターの攻撃力は自分モンスターゾーンに存在する「機密兵器」XモンスターのX素材の枚数の合計×200アップする。②:1ターンに1度、X素材を１つ取り除いて発動できる。デッキからカードを1枚ドローし、その後手札を1枚捨てる。この効果で捨てたカードが「機密兵器」モンスターだった場合、その攻撃力分のダメージを相手に与える。


「さらに機密兵器01 イグニスを召喚！ レベル4のイグニスとブリンガーでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れろ、機密兵器δ バミューダ！ 」
「一気に２体のエクシーズモンスター…それでも、私のモンスターたちには攻撃力が及びません。」

その通りだ。だが…

「まだだ！ 手札から通常魔法、機密技術―ミラージュを発動！ ライフを1000ポイント払って、オーバーレイユニットとなっている機密兵器2体を特殊召喚する。来い、イグニス、シーラー！」


機密技術-ミラージュ（オリジナルカード）
通常魔法
「機密技術-ミラージュ」は1ターンに1度しか発動できず、このカードを発動したターン、「機密兵器」モンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。
①:自分モンスターゾーンに表側表示で「機密兵器」Xモンスターが存在し、X素材が合計2枚以上ある場合、LP1000払って発動する。X素材となっている「機密兵器」モンスターから2枚選び、自分モンスターゾーンに
表側守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃力･守備力が0になり、効果も無効となる。



強志 LP4000→3000

「レベル4のイグニスとシーラーでオーバーレイ！ ２体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 現れろ、機密兵器α デストロイ！」

俺の場に3体のエクシーズモンスターが並ぶ。

「ビッグジェットの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、カードを1枚ドローして1枚を墓地に送る。俺はギアギアクセルを墓地に送る。…行くぞ。通常魔法、RUM-シークレット・フォース発動！ デストロイをランクアップさせる！ ランクアップ・エクシーズ・チェンジ！ 現れろ、機密兵器Ω カタストロフ！ カタストロフの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除いて、墓地のストリグス、ディプロイを除外して、銀河眼の光子竜、銀河眼の時空竜を除外する！」
「させません！ リバースカードオープン！ 速攻魔法、禁じられた聖杯発動！カタストロフの攻撃力を400ポイントアップさせて、効果を無効にします！」

カタストロフ 攻撃力2400→2800

「ビッグジェットが存在する限り、俺の場の機密兵器の攻撃力はオーバーレイユニットの数の合計×200ポイントアップする！ オーバーレイユニットの数は3つ！ よって600ポイントアップ！」

カタストロフ 攻撃力2800→3400
バミューダ 攻撃力300→900
ビッグジェット 攻撃力1600→2200

「さらに速攻魔法、機密技術―ブレイク発動！ 俺の場の機密兵器の攻撃力は墓地の機械族モンスターの数×400ポイントアップする！ 俺の墓地の機械族は7体！ よって攻撃力を2800ポイントアップ！」


機密技術―ブレイク（オリジナルカード）
速攻魔法
このカードの発動時に自分フィールド上に表側表示で存在する全ての「機密兵器」と名のつくモンスターは、ターン終了時まで攻撃力を自分の墓地に存在する機械族モンスターの数×400ポイントアップする。このターンのエンドフェイズ時、この効果を受けたモンスターを全て破壊する。


カタストロフ 攻撃力3400→6200
バミューダ 攻撃力900→3700
ビッグジェット 攻撃力2200→5000

「……そんな。」
「バトルだ！ バミューダで銀河眼の光子竜を攻撃！」

凉花 LP4000→3300

「ビッグジェットで銀河眼の時空竜を攻撃！」

凉花 LP3300→1300

「くうぅっ……リバースカードオープン！ 通常罠、時空混沌渦発動！ 相手フィールド上の表側表示のカードすべてを破壊して除外する！」
「…オーバーレイユニットを持ったバミューダ、カタストロフはカード効果では破壊されない！ これで終わりだ！ カタストロフでダイレクトアタック！」
「きゃぁぁぁぁ！！」

凉花 LP1300→0



「う、うぅ…」
「凉花！ 大丈夫か！」

デュエルが終わり、凉花が倒れ込んだ。

「おい！ しっかりしろ！」
「……つよ、し？」

凉花が目を開けた。まだ少し虚ろではあるが、先ほどまでの邪気は消えている。『封印』に成功したの…か？

「…目は覚めたか？」
「…すみません。私、強志に酷いことを…」
「…気にするな。俺も大概なことを言った。」
「…それでも、謝らせて下さい。私は、このカードに…」

凉花が『No.107 銀河眼の時空竜』のカードを取り出す。

「…もう、大丈夫なのか？」
「はい。強志に、止めて貰えましたから。」
「そうか…よかった。」
「本当に…ありがとう……」

凉花の言葉が途切れる。どうやら眠ってしまったようだ。

「ふぅ、仕方ないな。…行くか。」

バトルロイヤルは終了した。これほどの事態、隠し切れはしないだろう。恐らくは選手たちも何が起きていたのか理解しているはず。俺たちも会場に向かうべきだろう。

（郁哉たちは無事だろうか…）



俺は凉花を背負い、会場へと歩みを進めた。もうすでに日が暮れようとしていた。