38話 選手権へと　作：名無しのゴーレム

「レッド・デーモンでダイレクトアタック。」
「何でこんな扱いなんだよぉぉぉ！！」

シンゴ LP2300→0



「うわぁ、あんな状態でシンゴに勝っちゃうか…」
秀君も驚いている。一進一退の攻防だったが、終止美愛がフィールドを支配していたように感じた。
「…やった、やったよ！！ これで6連勝だよ！！」
京子がはしゃぐ。美愛よりも喜んでいるんじゃないか…？ 当の美愛本人は、疲労がピークに達したようで、デュエル終了と同時にその場に座り込んでしまった。
「…クソ！ お前、美愛って言ったか。お前、ジュニアユース選手権には出るのか？」
「…はい。今出場資格を手に入れました…」
「そうかよ。ならちょうどいい。今度のジュニアユース選手権で、お前も神宮寺のやつも叩き潰してやる。覚悟しておけ！」
「…次も負けません、から…」
美愛が倒れ込む。俺たちは美愛のもとへ駆け寄った。
「美愛！」
美愛の反応がない。これはヤバイんじゃ…
「心配しなくてもいいと思うよ。ここのソリッドビジョンはそんなに危険なものじゃないし。まあ早く家に帰してあげたら？」
秀君の提案ももっともだ。デュエルも終わったし、早く連れて帰ってやろうと思い、俺は美愛を背負った。


「…兄さん。」
播磨君の声が聞こえた。そちらの方を見ると、彼が兄である秀君と正面から対峙していた。
「何？ お前に負けたわけじゃないから選手権には出るよ。まあ、塾に行くのは止めておいてやるけどね。」
「…美愛はこんなになるまで闘った。僕を守るために…」
「ああ、そうだな。本当に、俺も不甲斐ない弟を持ったものだよ。」
「…その通りだよ。僕は不甲斐ない。でも…」
「でも？」
「…僕はもう逃げない！ 次は必ず、兄さんに勝ってやる！」
「…へぇ。なら、ジュニアユース選手権で決着を着けようじゃないか。俺と当たるまで負けるなよ？」
「当たり前だ。」
そのときの播磨君の表情は、先ほどまでとは比べ物にならないほどに強い意思に満ちたものだった。


そうして、美愛は無事選手権の資格を手に入れることができた。
「やったね美愛！ おめでとう！」
「ありがとう、京子…」
まだ自分で歩くことは難しいようで俺が負ぶってやってるが、何とか話せるくらいには回復したようだ。
「美愛、よくやったな。今はもう休んでおけ。」
「…はい。ありがとうございます…」
ようやく入口まで戻って来た。本当に広いよなここ…

……？
今、凉花の姿が見えたような…
「…強志さん、どうかしましたか？」
美愛が尋ねて来る。…気のせいか。こんなところに凉花がいるわけないよな。
「いや、何でもない。早く帰ろう。」


LDSを出てみると、もう日が暮れようとしていた。
「もうこんな時間か… 京子、仙波さんに連絡しておいてくれたか？」
「もちろん！ お父さんもお母さんも大喜びしてたよ！ 今夜はパーティーだって！」
「そ、そうか…」
美愛がこんな状態だってこと、ちゃんと伝えたんだろうな…



「それじゃあ、うちの塾生全員がジュニアユース選手権の出場権を得られたことに…乾杯！」


「「「乾杯！！」」」


仙波家に帰ると、そこでは既にパーティーの準備が整っていた。さらに塾生全員の保護者に許可を取り、塾生全員を集めるという非常に大規模なものとなっていた。
「美愛ちゃん、本当におめでとう！」
「風斗さん、ありがとうございます。」
美愛もパーティーが始まる頃にはだいぶ回復して、今では次々と出てくる数多くの料理に舌鼓を打っていた。
「あ、そうだ。美愛、遊矢君も選手権に出られるようになったらしいよ。」
「本当ですか！ またデュエル出来るんですね。」
「まあ、２人が勝ち進んで行ったらな。でも、その前に俺が倒してしまうかもな。」
「ははは、そうかもしれないね。僕だって負けないよ！」
「幹治、この前みたいに緊張で道に迷ったりしないように気を付けなよ？」
「わ、分かってるよ。智君だって寝坊しないようにしないとね。」
「は～い、皆さん、ピザが出来ましたよ～。」
「わ～い！ ピザだピザだ♪」


「…盛り上がってますね。」
俺は京子たちが騒いでいるのを横目に、仙波さんに今日の出来事を語っていた。
「そうだね。…何はともあれ、美愛ちゃんも選手権に出られるようになって良かったよ。」
「はい。美愛もよほど出たかったみたいで、京子たちとのデュエルも全力でしたよ。特に神宮寺君とのデュエルでは…」

仙波家でのパーティーは、こんな調子で夜になるまで続いたのであった。


翌日から、選手権に向けた猛特訓が始まった。京子たちも実際にエクシーズモンスターを使ったデュエルを行い、エクシーズ召喚をものにしていった。1つ気になることがあるとすれば…

「お父さん！ ちょっと出掛けてくるね！」
「夜になるまでには帰って来ますから！」
最近、京子と美愛がこんな風にしてどこかに行くようになったということだ。どうやら２人で秘密の特訓をしているようだが…


だんだん日も落ちてきた。そろそろ終わりかな…
「矢次先生。」
「ん？」
気付くと、神宮寺君、伊沢君、播磨君の3人が俺の前に立っていた。
「どうした？ 何かあったかい？」
「いや、前から気になっていたんですけど、先生って京子と美愛は名前で読んでるのに、俺たちだけ苗字なのは何でかなって思って…」
「ああ、京子たちは同じ家に住んでるから、家族って感じでな…」
「僕たちはただの塾生ってこと？」
「いや、そういうわけじゃないが…」
「なら、僕たちのことも名前で読んでくれませんか？」
「え？ 3人ともそうして欲しいのか？」
「…というより、俺たちだけ苗字で呼ばれるのに違和感があるんです。」
「年も僕たちと変わらないから、あんまり先生って感じないしね。」
「そうか。」
…先生っぽくなかったのか。結構意識してたんだが…
「わかったよ。郁哉、智、幹治。選手権まで頑張ろう！」
「「「はい！」」」


――こうして、俺たちはジュニアユース選手権に向けて最後の特訓を行ったのだった。