第166話 ハルの正体　作：ヒラーズ

モスクワから歩いて数時間が経過した。
俺達は近くの廃墟で休憩を挟み、途中で見つけたホテルで1日を過ごす事となった。まぁ、平たく言えばハルが「ごめん・・・疲れた」と正直に言ってくれたからな、俺とネクロは元軍人だから行軍の時の体力があったから大丈夫なんだが、ハルは軍人じゃない。能力は高けれど民間人だ。例えそれが人外であろうと・・・。
「ごめん、陸也さん、ネクロさん。ぼくが急に言ったものだから・・・」
「ははは！しょうがないよ、ここまで歩けるだけでもすごい方さ。ねぇ陸也君？」
「ふ・・・確かにな、出発は明日からだ。ゆっくり休んでくれ、俺とネクロは周囲の探索をしてくるから、ハルは休憩だ。お腹が減ったらコイツで俺を呼んでくれ」
俺は懐から携帯型の通信機をハルに渡す。
「俺の周波数は198.56だ」
「私の周波数は157.50だ、暇なときにでも通信してねぇ・・・まぁ意味はないと思うけど」
意味ねぇのに教えるのかい！
「うん・・・ありがとう」










「さて、また私ら二人になったけど、どこを探索するのかな？」
「それはもう決まっている」
俺はある方向に指をさす。その方向には研究所らしき建物が見えた。
「なるほどねぇ・・・「宝探し」と言う訳かな？」
「ああ、化け物と遭遇しても良いように、武器は装備しておけよ」
俺は電磁鈍槌を背負い。ネクロは骨で出来た杖を構えながら自動ドアの前まで迫る。
「これ・・・開かないよね？」
「ならこじ開けるまでだ」
俺は自動ドアを片手でこじ開け、中に入る。それに続きネクロも入った。
中は暗くないものの、敵が入ってきた後だと思うくらい荒らされた光景が目に映った。
「これはひどい、ヒントを見つけ出すのにも、歓楽街で花嫁捜しするよりも面倒くさいねぇ・・・」
歓楽街関係あるのか・・・？
「それを言うなら干し草の山から針一本見つけ出す方が辛いと思うんだが、これのがマシだろ？」
お互いにジョークを言った後、真剣な目で俺達は探索を始めた。
「俺は資料室で実験資料などを見つけてくる」
「じゃあ私は実験室及び保管室に行ってくるよ、それじゃあ！せいぜい成果を期待するよ」
むかつくなぁ・・・まぁいい、探索だ。
俺は資料室に入り、ぎっちりと棚に並べられているファイルに触れていく。
「・・・違う、これじゃない」
俺はファイルを閉じ、別のファイルを開き、パラパラとページをめくる。
「・・・違う、これでもない」
うーん・・・来るべき研究所を間違えたか？ここの研究所の方が大きいから来てみたんだがハズレか・・・。
「・・・ん？」
あちこちのファイルを見ていた俺は1冊だけ人皮で作られた表紙がついたファイルを見つける。
「・・・なんだこれは？人皮で表紙を作るとは趣味が悪いな。どれどれ？」
俺はファイルのページをめくっていく、その中で俺はあるページに手を止める。
「・・・これだ！「世界樹の子供と実験結果」だ！」
俺は急遽ネクロに通信を入れ、報告する。
「ネクロ、すごい発見をした。いや、すごい収穫をした」
『へぇ・・・早いねぇ！こっちは今実験室の扉を魔法でこじ開けたところだよ、こっちも今探索に入るから先に読んどいてよ。土産話を期待してる。オーバー』
「分かった、気をつけろよ。アウト」
俺は通信を切り、ファイルのページを黙読する。

世界樹について
我々の計画、「世界緑化計画」は世界樹を作る事で意味がある。
我々は各国の植物をかき集め、多くの実験を繰り返してきた。
そのおかげで若干ながら機械で出来た世界樹が完成した。
無論、これで完了したとは我々は思っていない。来たるべき日に備え、さらなる実験を繰り返しついに完成した。
ただこれは植えなければならない種、そう「世界樹の種」の作成に成功した。
後はこれを大量生産し、世界樹にふさわしい生命力を持つ種を厳選するだけである。

「ふむ・・・「世界緑化計画」か、俺も似たような悪事なら働いたことはあるが・・・世界樹を作るなんざ二の次だな」
俺はページをめくり、次の文章を黙読する。

世界樹の子供
我々が「世界樹の種」を生産している時だった。突然非常事態のアラートが鳴り、第一号生成機《ゼフィランサス》に異常が発生したというアクシデントが訪れた。
中を確認したところ、特に爆発する危険性はなくただ白い無害の煙が立っただけであった。だが、その矢先に赤ん坊の泣き声が聞こえた。
我々は急いでその声の主を探るとそこに1人の乳児がいたのだ。
我々は最初、「異物が混入しただけではないか？」と考えてはいたが、それはおかしい、きちんと素材も入れる液体も間違っていない。別にクローン作成の計画は行ってないしこの国では禁じられている。
他にも沢山のアクシデントが発生した。一号機のみならず二号の《サイサリス》、三号機《デンドロビウム》にも謎の乳児が産まれたと報じられた。
運命の神の悪戯か・・・ましてや作成の失敗を意味してるのか、もとより世界樹の中で生成し、産まれたから我々はその子供を「世界樹の子供」と名付け、その子供に対する育成、実験も行われた。

「なるほど、世界樹の種（ユグドラシル・シード）の開発中に産まれたのか・・・すげぇ事書いているな」
俺は再び、ページをめくり実験時のデータのページに目をやる。

世界樹の子供の実験
我々は実験する前にレントゲンや体の内部を調べた結果、驚きの事実が発覚した。何と体の構成は人間と同じと言う事だ。当時人の子は人と人の間にしか産まれないと信じていたが、植物から人が産まれるという異例の事態が起きたのだ。その事に我々は世界樹の子供の育成及び実験に入ったのだ。

「・・・」
ﾍﾟﾗｯ…

実験結果
我々は先ず、一般の教育、実験などをした時、驚きの結果が待っていた。
1つ、成長及び知恵を得る速度が速い。
例えば、昨日ロシア語ばかり教えてから翌日、誰も教えていないのにドイツ語やラテン語、英語や中国語、日本語までほとんどの国の言葉を話せるようになっている。PSYや術みたいなのも知らないうちに覚えているというケースもいくつかあった。教え方次第で得る能力が違うようだ。
そして成長は比較的に速く、2年足らずで7歳の子供にまで成長する。

2つ、個々によって得る能力が異なる。
我々がまず実験を行ったのは能力と生命力の実験であった。
最初は物理でやり合ってみるもあっという間に我々が返り討ちにされてしまった。しかし返り討ちにした人間を生かしたままにし、放置した。不思議な事にこの子らは戦闘能力はあるものの殺意を出さず、温厚な態度を取る。
噂のカードゲーム「デュエルモンスターズ」をやらせてみると5分足らずでワンキルコンボを成立させる戦術を組んでくるなど見事な策士ぶりを見せつけられる。PSYや術を見たものは、シェルターが一瞬にして黒焦げにされたり、32トン以上の超重量の物を念力で浮かすなど、尋常ではない。
我々が見たことある能力をここでまとめておく。
1、ディメンションジャンプ、ムーブ：要するに次元の中を移動する能力、下手すると異世界に移動できるという力。危険レベル5
2、サイコ・ルーラー：全ての超能力を操る現代の魔術だが、科学力の結晶。危険レベル7

それ以外は見られていない。まだ見ぬ力を持ってそうだ。

3つ、寿命及び耐性
生命力の実験中、ある研究員がうっかり毒液を世界樹の子供に飲ませてしまう事態が発生した。急遽様子を見たが、まるで毒液を飲み物のように飲んでいる。その後も様子を見たが、特に異常がなく普段通りになっている。毒ガスを使った実験でも反応がなく、汚染されたプールにも泳がせても平気だという。むしろその水を飲み、新鮮な水にしてはき出すと言うことまであった。まるで毒性に対する完全耐性があると思わされる。ただ毒は効かなくともそれ以外、個体によって苦手なものはあるようだ。虫を怖がったり、火を恐れたり。刃物を見ると逃げ出したりもした。
あれから実験を重ね、あることに我々は気づいた。
成長した個体はそれぞれ成長段階が存在するらしく、大人にの姿なれないようだ。ある個体は10歳の子供の姿のまま成長せず、年を取らない。要は不老である。最高でも18歳くらいの高校生サイズまでしか成長できていない。
余談の性別だが、女性が多く、男性は稀少となっている。

4つ、死亡した子供の末路
大抵の世界樹の子供は不老不死であることを認識している我々だが、ある実験中の出来事だった。個体が階段から転げ落ちて死亡するケースが見られた。
我々は即調査に入ったが死亡した原因は落下死以外、死亡することはありえないそうだ。運悪く死亡した個体を埋葬した担当研究員は翌日、ある報告を出した。「埋葬したところから巨大な木が生えている」っと、どうやら死亡した世界樹の子供は土に埋まられると植物となり、木や花になるようだ。





「むっ？途中の文字が虫に食い破られているな・・・これでは読めないぞ」
まぁこれでもいい収穫だ。後は持って帰ってネクロの復元魔法で再生させれば分かる話だ。
「・・・」
それにしても、ハルの正体が世界樹の種を作成する衝撃で産まれた副産物とは・・・こりゃあすごい話になってきたぞ・・・。
俺はネクロに通信を入れ、報告する。
「ネクロ、どうやら世界樹の正体が分かった」
『へぇ？じゃあ帰還次第、聞こうじゃないか。私はまだ実験室を探索してるよ』
「ああ、だがこれだけの事は言わせて貰う。この世界に神話の世界樹はなかったんだ」
『それじゃあ、完全に人工物の世界樹という訳だねぇ・・・こりゃあ面白くなってきたねぇ！』
「俺の調査は終わった、手伝いに向かう」
『おお！助かるよ、丁度君がいないと開けれない扉があって・・・ん？』
「ネクロ？」
『女の子・・・？うわっ！！ｻﾞｻﾞｯ…』
「ネクロ！？ネクロ！」
突然ネクロとの通信が途絶え、俺は孤立した。
（どうする・・・！？ネクロを助けに行くか？それとも・・・考えている暇はないな）

俺はファイルを持ち出し、資料室を飛び出す。
そして実験室に急いで向かっていったのであった。








次回、襲撃
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